2010年6月17日木曜日

切り出した脳組織が時間を認識

シャーレに入れたラットの脳細胞のネットワークを“訓練”して砂時計のように時間を刻ませることができるという最新の研究が発表された。この発見は、人間の脳が時間を認識する方法を解明する手がかりとなるかもしれない。

 時間を認識する能力は、人が他の人や世界と関わり合うための基本的な能力であり、話し方や歌のリズムを認識するために欠かせない能力でもある。

「時間の認識に関して長い間議論となっている問題の1つは、中枢となる時計が脳の中に1つ存在するのか、それとも脳のさまざまな回路が一般的な能力として時間認識能力を備えているのかということだ」と、研究を率いたカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の神経科学者ディーン・ブオノマーノ氏は話す。

 同氏の研究チームは、ラットの脳細胞のネットワークを生きたままシャーレに入れ、2回の電気パルスを50~500ミリ秒間隔で発信して刺激を与えた。この“訓練”を2時間続けた後、この脳細胞のネットワークに電気パルスを1回加えて、脳細胞がどのような反応を示すかを観察した。

 その結果、短い間隔の電気パルスで訓練したネットワークでは、細胞間のコミュニケーションは短時間しか続かなかった。例えば、50ミリ秒間隔で訓練したネットワークでは、細胞間のやりとりはおよそ50~100ミリ秒間だった。ところが、長い間隔の電気パルスで訓練したネットワークでは、活動がはるかに長く続いたという。500ミリ秒間隔で訓練したネットワークを調べた結果、どのネットワーク間のコミュニケーションも500~600ミリ秒続いた。

 単純な時間間隔で行動することを学習する能力が脳細胞にあることが明らかになったのはこれが初めてのことだ。

 今回の研究は、時間を認識するヒトの能力が1つの“時計係”によって制御されているのではなく、少なくとも1秒未満の時間間隔については、すべての脳細胞ネットワークに備わっている能力であることを示唆しているとブオノマーノ氏は説明する。

「時間を認識する能力はほぼすべての人間行動に欠かせないものであり、この能力についての理解を深めれば、脳が空間と時間の複雑なパターンを認識するメカニズムの解明が進むだろう。今は人工のコンピューターシステムでこのような認識能力を獲得しようと模索が続いているところだ」。

 この研究は2010年6月13日に「Nature Neuroscience」誌オンライン版で発表された。

Charles Q. Choi for National Geographic News