ITmedia(2013.5.15)
「まだまだミクシィは終わらない、第2の黄金期を作るつもりで取り組む」──ミクシィの社長に就任する同社の朝倉祐介執行役員は5月15日の会見で抱負を語った。創業者で「mixi」を育てた笠原健治社長は代表権のない会長に就き、新事業に専念。若返った新経営体制は「ユーザーファースト」を引き継ぎつつ、スマートフォンネイティブアプリへのシフトなど「第2の黄金期」に向けた取り組みを進める。
朝倉氏は30歳。中学卒業と同時に競馬の騎手を目指してオーストラリアに渡り、帰国後は競走馬育成に従事したという経歴を持つ。東京大学法学部を卒業後、外資系コンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーを経てアプリプラットフォームなどを展開するベンチャー「ネイキッドテクノロジー」の社長を務め、同社が2011年9月に買収される形でミクシィに加わった。
朝倉氏は「10年前、1ユーザーとして愛していたサービスを擁する会社を統括する立場になるのは不思議な感覚。重い責任を感じるが、これほどやりがいがある仕事もない」と意気込む。退任する笠原氏は「大手コンサルティングファームとネットベンチャー社長という2つの立場の経験を生かし、冷静でありながら情熱的に物事を判断できる」と評価する。
●mixiはネイティブアプリにシフト
新経営体制では、社長兼CEOの朝倉氏のもと、mixi事業を統括する最高事業責任者に川崎裕一氏が就任する。川崎氏ははてな副社長を経てソーシャルサービスを手がけるkamadoを創業。朝倉氏と同様、ミクシィによる買収で同社に加わった。
笠原氏は新経営体制について、「朝倉新社長は前年度から、『ユーザーファースト』の提唱やユニット制の導入など社内改革を主導してきている。体制変更は、経営陣の中でそれぞれがより得意な分野に注力しパフォーマンスを最大化するための施策だ」と説明する。笠原氏は今後、新規事業立ち上げに専念し、取締役会長として新体制をサポートしていく。
屋台骨となるSNS「mixi」は、昨年度掲げた「ユーザーファースト」を今後も継続。利用率でアプリはWebブラウザの1.6倍に上っており、これを踏まえてスマートフォン向けネイティブアプリの開発に注力。写真や日記、ゲームなど個別の機能ごとにアプリを提供し、全体のトラフィックとユーザー課金の拡大を目指す。
現在mixiが展開しているネイティブアプリは「mixi」本体と「コミュニティ」に特化した「mixiコミュニティ」の2本で、3月時点のダウンロード数は累計1000万件を突破している。今後アプリ数を50本に増やすことを目標に掲げ、アプリエンジニアを4倍に増加させるほか、Webエンジニアがスムーズにスマホアプリを開発できる環境構築にも重点的に取り組む。
●「変革」へmixi収益拡大やVCも
朝倉氏は、“新生ミクシィ”が全社を挙げて取り組む「変革」として「mixi内外での収益拡大」を挙げる。広告収入が振るわなくなる中、mixi内ではネイティブアプリへのシフトによるサービス向上と課金機会の拡大で深耕し、さらに日本最大級のコミュニティーサービスを9年にわたって運営してきた技術力やノウハウが生きる外部向け事業も展開していく。
「外」向け事業は順次設立する戦略子会社が担う。第1弾として7月に設立する「ミクシィマーケティング」は、過去展開したユーザー参加型プロモーション事例などをもとにマーケティングソリューションを開発。スマホ向けDSP事業「Vantage」やネットポイントサービス「モラッポ」も担当する。
自社にない技術やサービスを取り込み「今までの延長線上ではない非連続的な成長を促す」(朝倉新社長)ため、外部事業への投資も積極化。7月1日付けで投資子会社「アイ・マーキュリーキャピタル」を設立し、50億円規模のベンチャーキャピタルに乗り出す。企業売買による利益創出ではなく、目標はあくまでも事業拡大。「今あるキャッシュを生かし、自社の成長につなげるための投資をオフライン事業も含め積極的に実施していきたい」(朝倉新社長)という。
●「ギラついたミクシィを取り戻す」
「長期的に見ると最も重要で本質的」としたのは、人材の育成と輩出。開発体制を変更し、少人数のチームに裁量と収益責任を持たせるユニット制を敷いたことで、年齢や実績に関わらず優秀な人材に“真剣勝負の場”を提供することができたと言う。
「自身の大学の先輩でもある笠原さんが、学生の頃に立ち上げたベンチャー企業をここまで大きくしたことを僕自身心から尊敬している。アントレプレナーシップマインドを継承し、スピード感と緊張感がある環境で、創業当時のようなギラついたミクシィを取り戻したい。競馬で例えるなら、G1レベルの人材をそろえてダービーに勝ちに行くつもり」(朝倉新社長)