ぶらりお散歩300キロ、「酷道」走破もみんなでウォッチ 「車載動画」がひそかなブーム
車を愛し、ドライブ中に車窓動画を撮影する「車載クラスタ」と呼ばれる人たちがいる。まとめサイトや専用のネットサービスも誕生し、活気づいている。
愛車に動画カメラを載せてドライブの様子を撮影する「車載動画」が、ネット上でひそかなブームになっている。撮影した動画は「ニコニコ動画」(ニコ動)にアップして公開するのが主流だが、「Ustream」でドライブ中にライブ配信する人も。視聴者は見知らぬ土地をドライブした気分になれる。
ニコ動で検索すると、「車載動画」は4800本以上がヒット(6月23日現在)。車載動画を愛し、動画を配信する人たちのコミュニティーは「車載クラスタ」と呼ばれ、動画をまとめたサイトや、地図サービスと組み合わせた「今ココなう!(β)」といった専門サイトも登場。オフ会も盛り上がっている。
ニコ動に投稿された車載動画を見てみると、車窓の風景がただ淡々と流れているだけだ。だが「自分では走れないような道を走っている様子を、運転者の目線で見られることが魅力の1つ」──と、今ココなう!を開発したフリープログラマーの藤田信之さんは話す。車好きが高じて車載クラスタの仲間入りをした藤田さんにとって、車載動画は見ているだけで楽しく、撮影法も奥が深いという。
“酷道”走破はステータス 台車や手こぎトロッコもOK
車載動画の作り方自体は難しいくない。ビデオカメラを自動車やバイクなどのダッシュボードの上やルーフなどにを取り付け、ドライブ中に見える景色を撮影するだけだ。
自動車で撮影した動画が主流だが、“車”であれば何でもよく、台車や手こぎトロッコを使う人も。車を逸脱し、自作のモデルロケットで撮影する人までいるという。
自分が走ったルートを淡々と公開するものや、「○号線沿いのグルメスポットを回る」「桜のきれいな道をドライブ」などテーマを決めて走るものなどがある。
「酷道」と呼ばれる、一般車両の通行が困難な道をストイックに走破したものも多い。地図上で道が途切れているような山道や、対向車が来たら動けなくなるような狭い道などを走る様子を、淡々と記録・公開するのだ。
酷道は走ったこと自体がステータスになり、「道がひどければひどいほど見ている側は盛り上がる」(藤田さん)。自分の車が“酷道”向きでなかったり、気になる酷道が遠くて行けない場合でも、誰かが走破した様子を動画で見るのが楽しいという。
撮影するビデオカメラの設置方法など、撮影環境を改良していく「メカ的な部分」も撮影者の楽しみの1つだ。
自動車などに設置したカメラが揺れ続けると、動画を見ている人が酔ってしまうことがある。対策としてカメラをがっちりと固定したり、ステディカムと呼ばれるカメラ用振動吸収装置を使って揺れを吸収する方法など、撮影者によってさまざまな研究が進められている。
コメントを楽しみにアップ
藤田さんは以前から、移動したルートをGPSを使って記録する「GPSロガー」を使い、車で走ったルートのログを取ったり、車載動画を撮影して自分で見ていたという。
ある時、ニコ動で車載動画を見つけた。「車載動画を投稿している人もいるんだ」と興味を持ち、自分で撮った動画もニコ動に投稿するようになったという。車載クラスタが集まるオフ会にも参加し始めた。
投稿する一番の楽しみは、コメントがもらえること。次に走ってほしいルートなどをコメントしてもらったり、ルート選択や撮影方法の悩みについてアドバイスをもらえることもあるそうだ。「コメントはすごくうれしい。コメントがあることで、動画を上げて終わりではなく、次にどう生かそうかと考えられます」
「お散歩」をもっと楽しく Ustream中継+地図で
車載クラスタたちは「お散歩」もする。といっても近所をぶらぶらするようなかわいらしいものではなく、突然ふらっとドライブにでかけることを指す。場合によっては300キロ以上も走ることがあるという。
お散歩の様子をUstreamなどでライブ配信する人もいる。ライブ中はドライバーが現在地の地名を話しながら運転することが多い。だが視聴者は地名だけでは場所が分からないこともある。
藤田さんが開発した「今ココなう!」はこんな時のためのサービス。「走っている車の位置情報を取得してGoogleマップ上に表示すれば、お散歩のUstream視聴をより楽しめるのでは」と、走行ルートをリアルタイムに確認・共有できるサービスとして今年4月に公開した。
今ココなう!にアクセスすると、Googleマップと矢印アイコンが表示される。矢印アイコンは、まさにいま車で走行している車載クラスタたちの位置。Ustream中継を見ながらこのアイコンを追えば、車載クラスタがどこを走っているのか確認できるというわけだ。
利用するには、専用クライアントソフトをインストールしたPCにGPSロガーを接続し、ネットにつないで車に乗せておけばOK。GPSロガーが記録した位置情報をソフトが一定間隔でサーバに報告し、地図上に表示するという仕組みだ。
地図上のアイコンの動きを見ていると、ユーザーの車同士がすれ違ったり、合流したり、追いかけていたりする様子が分かり、それが面白いと藤田さんは話す。
スタートとゴールを決め、誰が一番早く目的地に着くかを競う「う回路対決」で利用するユーザーもいるなど、藤田さんが想定していなかった使い方もあった。Ustreamのライブ動画と一緒に見ると、誰がどこを走っているかがはっきり分かって白熱するという。
これまでの利用登録者数は150人以上で、同時利用者数は最大13人だった。「使っている人がたくさんいると、地図上がアイコンだらけになる。『今ココがカオス!』と言われるとすごくうれしいですね」
「自重しない」車載クラスタ 浜松オフに岡山から参加
今年3月、静岡県浜松市で開かれた車載クラスタのオフ会には約80人が参加する盛況ぶり。岡山県からはるばるやって来たドライバーもいたという。
「一般的なオフ会だと、自分の住んでいる地域の近くで参加するのが基本だと思います。でも車載クラスタは車を持っているから遠くまで移動できるし、“自重”しないので」
オフ会では、浜松ならではの「うなぎパイ」工場の見学などを楽しんだほか、車載動画の撮影技術などをユーザーが発表する場も設けられた。ドライバーの目線に合わせて首を振りながら撮影するカメラなどが発表され、さながら学会のようだったという。「これからの車載動画をどうするか、まじめに考えている人たちがいて、頭が下がる思い」(藤田さん)
道が続く限りどこへでも移動する車載クラスタたち。自重しない彼らは、どこまで走っていくのだろうか。