東京新聞(2011.7.26)
警察犬がほえる代わりに、ガが麻薬の入ったかばんに群がって密輸を防ぐ日が来るかもしれない。東京大の桜井健志特任助教と神崎亮平教授らは、性フェロモンを鋭敏に感じ取るカイコガの遺伝子を一カ所組み換えるだけで、簡単に別のにおいを追うようになることを発見した。うまく利用すれば、においの高感度センサーになるかもしれない。成果は米データベースで必読論文に指定されるなど話題を呼んでいる。
カイコガの雄は、微量の性フェロモンを頼りに雌にたどり着く。触角にある受容体とよばれる組織が、性フェロモンだけを確実に捉えて脳に信号を送り、雌を追う性行動を引き起こすからだ。
桜井特任助教らは、カイコガの受容体と性行動が、たった一つの遺伝子から決まることを発見。別種のコナガの受容体の遺伝子をカイコガに組み入れてみると、コナガの雌を追うようになった。
昆虫は八十万種以上おり、多くの独自の受容体を持つ。もしこの中から麻薬や爆薬、病気などのにおいに反応する受容体が見つかれば、その遺伝子をカイコガに組み入れて防犯や医療に役立てられる可能性もあるという。
「カイコガがフェロモンをかぎ分ける能力は警察犬の嗅覚並み。しかも訓練不要で育成コストは一匹当たり五十円以下」と桜井特任助教はガの“捜査官”の優秀さを強調する。