ダイヤモンド・オンライン(2011.8.12)
グーグルが新しく発表したソーシャルネットワーク・サービス(SNS)、Google+(グーグル・プラス)が破竹の勢いでユーザーを増やしている。
公開された6月末からおよそ1ヵ月経った8月初めの時点で、登録ユーザー数は2500万人。フェイスブックの7億5000万人にはもちろんかなわないが、こちらのほうは7年かかっての数字だ。
しかも、グーグル・プラスは、まだ招待制の試行運転期間中にすぎない。それでも話題性も好感度もかなり高く、このぶんでは年末までにツイッターを超えて、フェイスブックに迫る第2のSNSに躍進する可能性もある。
迎え撃つフェイスブックは、初めて現れた強敵を前にして、明らかに焦燥感を募らせているようだ。グーグル・プラスがスタートして以降、スカイプと提携してビデオチャットを取り込んだり、中小企業向けのサービスを発表したりと大忙しである。グーグル・プラスが短期間でこれほどの人気を集めるとは、予想していなかったのだろう。
グーグル・プラスの機能はすでにあちこちで報じられているので、ここでは詳述しないが、約めて言えば、以下の三点が大きな特徴だ。
ひとつは、交友関係やネットでフォローしたい人々を自分なりの名前をつけて分類できる「サークル」という仕組みがあることだ。フェイスブックならば、友達かそうでないかという区分が重要だったが、グーグル・プラスではあらゆる人々を取り込み、「友達」「同僚」「得意先」「ゴルフ仲間」といったサークルに分類できる。
第二の特徴は、その自分のサークルに取り込む際に相手の承認が必要ではないことだ。相手には、サークルに入ったことだけが伝えられるが、どんな分類になっているのかまでは知らされない。また相手がその人物をフォロー仕返すかどうかも自由だ。
第三の特徴は、コミュニケーションのためのツールが充実していることである。書き込み以外にも、多方向のビデオチャットやテキストメッセージングができるが、それをサークル内だけ、あるいは複数のサークル、特定のユーザーだけといった具合に、公開する範囲をフレキシブルに設定できる。
これら3つの点は、ある意味、当たり前のことに聞こえるだろうが、こんなSNSがいままでなかったのだ。
しかし、グーグル・プラス躍進の理由を、機能面だけで語るのは間違いだ。競争環境がグーグルに味方している点にも着目すべきである。
SNSの世界には現在、3つの強者がいる。友達関係のフェイスブック、仕事やキャリアのネットワークを広げるリンクトイン、そしてあらゆる人々を相手にするツイッターだ。
インターネットサービスの世界ではこれまで、最初にサービスを始めたものが市場を制するという経験則があった。新しいサービスでユーザーを一定数まで増やし、ユーザーを自分たちのサービスにすっかり慣れ親しませることで参入障壁を築く。先行するサービスは、新しい要素をどんどん加えながら、ユーザーを堅く囲い込んでいく。
さて、この論理だと、SNSの競争環境はグーグルに不利ではないかと思われるかもしれないが、こうも言える。SNSの世界はまだ三国志の時代であり、天下統一はなされてない。しかも、グーグルにとって、ラッキーなことに、最大の強国であるフェイスブックに、民の不満が募っている。
周知のとおり、フェイスブックの設定は「オプトアウト型」が中心、つまりユーザーが注意して外さないと、プライバシー情報が公開されたり共有されたりしてしまうことが多い。しかもその設定をころころ変えるので、ユーザーに極めて評判が悪い。
フェイスブックからすれば、ユーザーデータの価値を高めて、高い値段で売るためにそうしているのであり、ビジネスのために必要なことだというだろう。ユーザーがプライバシー情報を公開すればするほど、そしてフェイスブックの中で「あれを買った」「ここへ行った」といった情報を友達と共有すればするほど、そのユーザーの行動データは増えていき、それがデータブローカーや広告業界に高く売れるのだ。むろん、グーグル・プラスもユーザー情報を集めるだろう。ただ、今のところ、グーグル・プラスのプライバシー設定については、フェアとの評価が多い。
また、グーグルは、“3強”の特長のすべてを網羅できる点も有利だ。先ほど述べたとおり、グーグルのサークル機能は友達や仕事関係にそれぞれ対応できる上に、オープンにフォローしたりされたりすることも可能だ。また、リンクトインが企業に提供しているような人材探しのようなサービスも近く加える計画だと報じられている。
もちろん、インターネット検索の雄グーグルも、これまで開発した新しいサービスのすべてを成功させてきたわけではない。鳴り物入りで発表したものの、ひっそりと消えていったサービスは多く、その中には「バズ」という別のSNSもあった。しかし、人々のインターネットへの入り口が検索からSNSへ移り変わる中、グーグルは今回、後発としての謙虚さを持って、再参入してきた。これは、大きく化けるかもしれない。