■ GIGAZINEより
Googleは勝ち組の企業です、疑う余地はありません。だがそのサービスの歴史を見ると、実は敗北しているサービスも存在しています。つまり、競合他社に負けたサービス。その名は「Google Answers」……膨大なインデックスを持ち、全自動で検索結果をはじき出すGoogleの既存モデルの穴を埋める形で始まった究極の「人力検索」です。
Google Answersでは、検索してもわからないようなものすごくマニアックな質問が可能で、Googleが認定した調査スペシャリスト「リサーチャー」たちがあらゆる場所から情報を検索、さらに持てる限りの知識で回答してくれるという、はっきりいって個人的には日本語版が一番欲しかったサービスとなっていました。ジャンルも幅広く、「アート・エンターテイメント」「教育・ニュース」「ビジネスとお金」「政治と社会」「コンピュータ」「科学」「生活」「スポーツ・レジャー」「健康」といった感じ。
また、海外では有名でしたが、「人類の叡智の結晶」と絶賛された伝説的回答「1ガロンの石油に恐竜は何匹いるのか」「電子レンジにハエを入れて1分間チンしたが生きていた、なぜだ」「エアコンから排出される水は飲んでも大丈夫か?」「Google本社から煙が見える。火事なのか?助けに行った方がいいか?」などといったものが存在しており、様々なサービスをこれでもかと爆発的に送り出していた時期には「さすがGoogleだ」と言わしめるほどのハイクオリティなレベルのサービスでした。
では、なぜ失敗したのでしょうか?そこを調べると、Googleが勝利するための方程式が「全自動化」にあり、全自動化できないときは失敗することがわかります。
以下、Googleのビジネスモデル「無料」を支える根本原理「全自動化」と、失敗の理由について、各種資料を交えながらひもといていきます。
■Google Answers失敗の理由その1「有料だった」
Googleの提供するサービスは基本的に無料です。それも「有料と同レベルかそれ以上のものを実質無料で提供する」というスタイルです。実はこのスタイルはGoogleが作ったわけではなく、マイクロソフトが最初に実行したスタイルです。マイクロソフトはインターネットのホームページを見る「ブラウザ」において、ライバルのブラウザであり9割のシェアを占めていた「ネットスケープ」をたたきつぶすために、有料だったネットスケープとは逆の戦略、最初から無料で「Internet Explorer」をウインドウズにくっつけて、その牙城を崩したわけです。Googleもやっていることは基本的に同じです。アクセス解析サービスの「Google Analytics」はもともと「企業向けアクセス解析ソフトUrchin(アーチン)」というめちゃくちゃ値段の高いアクセス解析ソフトウェアで、これが今では1ヶ月500万ページビューまでは無料です。
ところが、人力検索サービス「Google Answers」は有料でした。2002年4月18日にベータテストが開始され、当時の報道によると1回あたりの質問料は0.5ドル。回答への報酬は2~200ドル。4分の3はリサーチャーへ、4分の1はGoogleにサポート料として流れるモデルです。質問には回答時間と報酬が設定可能なのですが、これがクセモノ。値段を低く、あるいは回答までの時間を短く設定すると、いい回答が得られる確率が下がってしまうわけです。このあたりは手動であるがゆえの限界でした。当時の標語はこんな感じ。
Ask a question. Set your price. Get your answer.
(尋ねよ。そして値を決めよ。されば良き回答が得られん)
もちろんGoogleもただ手をこまねいて見ているだけではなく、様々な質を向上させる工夫を自分たちの検索エンジンに加えたのと同じようにして実行しました。リサーチャーの質を上げるため、雇う際には「なぜGoogle Answersのリサーチャーになりたいのか」という文章を書かせ、さらに指定時間内に10個の質問を課してそれに的確に回答できた者だけをリサーチャーとして任命。さらに回答の質が低いと依頼者が判断すると、カカクコムやヤフーオークションのような評価システムによって評価が下がります。評価が一定以下になるとクビ。それだけでなく抜き打ち試験も実施してリサーチャーの質の確保を怠りませんでした。
つまり、回答者の質は低くなかったのです。むしろ質は極めて高かった。それが証拠に、Google Answersの閉鎖アナウンスが告知されたとき、Yahoo!が2005年12月9日から提供していた同様のサービス「Yahoo!Answers」はこの解雇されてしまうリサーチャーたちに「我々のところへ来てください!」と歓迎の意向を示しました。
でも、Googleの場合、やはり有料だと採算が合わなかったのです。全自動化することのメリットは人件費の節約だけでなく、コストを可視化できる点にあります。これは予算計上とかの経験がある人には自明の理ですが、人件費はとにかくあらゆるコストの変動源であり、発生源であり、不確定要素です。有料でサービスを提供するためには不確定要素を可能な限り減らす必要があるのに、「Google Answers」はその逆だったというわけです。
この点を反省し、2007年2月22日から始まった有料サービスである「Google Apps Premier Edition」は全自動化されたシステムとなっています。1アカウントあたり年6000円。
Google アプリ 企業向け
サポートが付くそうですが、それも定型メールを送る全自動なのでしょうか?気になるところです。
■Google Answers失敗の理由その2「手動の限界、それは時間と手間」
Google Answersは過去の質問は無料で検索が可能でした。つまり、誰かが過去に同じような質問をしたのであればお金を払う必要はありませんでした。これもまずかった。せっかくの貴重な積み重ねである過去ログデータベースをだだ漏れで利用可能にしていたわけです。このあたりはGoogleの「なんでも無料で提供するよ!」というスタンスと、自前の全自動検索技術による的確な全自動過去ログ検索が皮肉にも足を引っ張る形になりました。なのに、その割には利用されていなかったため、同じ質問が繰り返されるという悪循環に突入していたのです。
また、所詮は人間が代わりに検索するというのが基本的なスタイルなので、時間がかかります。時間がかかるとそれだけ支払うお金も増えます。なので、Googleの誇る全自動検索エンジンに勝てるだけの回答を出すためにはさらなる「時間と手間」が必要だったわけです。
しかし、そこまでのクオリティを求める人はあまり多くなかった。さらにそうやって得られた貴重な回答が無料で後から来た人には検索可能となっているわけですから、最初に価値ある質問をした人にみんなただ乗りすることになるわけです。これも失速の原因になりました。
こうなると、次に起きるのは「コミュニティの崩壊」です。