2009年12月22日火曜日

巨大クラウド活用に軸足を移しゲームを模倣し始めた企業のソーシャルマーケティング


























 2009年における企業のソーシャルマーケティングの特徴は、大規模なクラウド(ネットコミュニティ)の重視であり、その上でゲームを模した本格的なマーケティング展開が始まっている。08年の米国ホリデーシーズンはソーシャルメディアを活用したSNSクリスマスと呼ぶべきトレンドが目立った。08年にはショッピングの49%がインターネットで行われ、24%がSNSの影響を受けていた。09年になるとインターネットショッピングの割合は55%に増え、37%がSNSを参考にすると予測されており(マーケットライブおよびイーテイリンググループ調査)、実際その方向に進んでいる。

 その結果、感謝祭後のクリスマスセールの皮切りであるブラックフライデーやネット通販のサイバーマンデーを目指した消費財企業のネット上でのマーケティング展開は非常に面白いものとなった。前年に比べて全体的に出足は好調であり、サイバーマンデーのトップサイトであったアマゾンへのトラヒック数は前年比、44%上昇している。

 今回はフェースブックを中心に、iPhone(アイフォーン)などのスマートフォンによる携帯電話サービスを巻き込みながら進展する、企業による巨大なクラウド上でのソーシャルマーケティング活用を論じる。

<巨大なクラウドを形成するフェースブックとアイフォーン連合>

 09年の米国クリスマス商戦などで目立つのは、企業による大規模なクラウドのマーケティング目的での積極活用である。とりわけ参加者数が3億5000万人へと巨大な規模に拡大した、人脈活用に一日の長を持つSNSフェースブック上での企業マーケティングの活発な点が目立つ。その結果、フェースブックはキャッシュフローベースで黒字になった。3万台のサーバーを活用するフェースブックはすでに巨大なクラウド(大衆とサーバーのネットワーク)である。フェースブックのクラウドに今やスマートフォンの代表格であるアップルのアイフォーンとiPod(アイポッド)タッチの約5000万人が合流する展開である。

<ゲームを模倣したブランドコミュニティ(ファンクラブ)の形成>

 長らく勝ちパターン手法が不明確であったソーシャルマーケティングに明確なゲーム型アプローチのモデルが確立し、有名企業が我れ先にと飛び乗り始めている。例えばゲームのマイクロ取引から出現した仮想ギフトの発想はクリスマスシーズンのギフト商戦にぴったりである。

 このトレンドはまず08年、オープン化されたフェースブックのプラットフォーム上で自由に活躍するソーシャルゲームのサービス企業の間で現れた(第34回、第42回参照)。

 面白い事に09年からはソーシャルゲームにおける仮想ギフトや仮想商品を活用したマイクロ取引の手法とファン獲得競争の為の広告競争ブームをそっくり模倣した動きが消費財企業を中心としてフェースブック上で巻き起こった。消費財企業はソーシャルゲーム企業のマーケティング手法をまねると共にゲームの魅力が集めた巨大な生活者の群れをファンとして取り込み、自社のインターネットサイトと統合の上、フェースブック上で巨大なブランドコミュニティ作りを開始した。ソーシャルゲームが集めた生活者に対して「支配的物語」としてのゲームの世界観の提供が企業マーケティングにおいて進み、その結果、生活者は容易にマーケティング内容の心理的イメージアップができるようになった。ソーシャルゲームの持つ臨場感や没入感がそのままブランドコミュニティ作りに活用され始めた。

<ブランドコミュニティへの参加者数は先行指標>

 今や米国のトップブランドの8割がフェースブックに参加していると言われている。フェースブック上で企業ブランドが立ち上げたファンクラブでは、コーヒーのスターバックスはすでに450万人、衣料品のH&Mは130万人、アメリカ風レストランのT.G.I.フライデーズは約100万弱のファンを獲得している。米国の消費財企業においては、フェースブック上の企業ブランドコミュニティへのファンの獲得数がビジネスの先行指標の一部と考えられ始めた感すらある。ビジネスウイーク誌はこのような状況の一部を「アップ経済」と呼んでいる。

 09年の第3四半期から売り上げの伸びが急回復したグーグルだが、人との交流よりもデータベース上の情報検索を重視するアプローチは、すでにインターネットの第2の波の中ではクラウドの視点が弱く時代遅れであり、次第に衰えるという議論も欧米では根強くある。クラウドの時代には情報検索では無く、ソーシャル型のショッピングが当然伸びるという訳だ。

<クラウド型のマーケティングモデルの形態>

★Half of '09 Holiday Shoppers to Buy Gifts on Web
http://www.marketingcharts.com/interactive/half-of-09-holiday-shoppers-to-buy-gifts-on-web-10832/?utm_campaign=rssfeed&utm_source=mc&utm_medium=textlink

★Facebook Crosses 300 Million Users. Oh Yeah, And They Just Went Cash Flow Positive.
http://www.techcrunch.com/2009/09/15/facebook-crosses-300-million-users-oh-yeah-and-their-cash-flow-just-went-positive/

★Facebook Banks on a Little Help from Its Friends
http://www.businessweek.com/magazine/content/09_43/b4152048040939.htm

★If Brands Want Fans, Facebook Will Sell Them Fans
http://www.allfacebook.com/2009/10/if-brands-want-fans-facebook-will-sell-them-fans/http://www.allfacebook.com/2009/10/if-brands-want-fans-facebook-will-sell-them-fans/

★Twitter/Facebook Will Soon Dominate The Web - Not Google.
http://www.techcrunch.com/2009/10/22/sean-parker-twitterfacebook-will-soon-dominate-the-web-not-google/
http://www.scribd.com/doc/21539640/Sean-Parker-s-Web-2-0-Summit-Presentation

★Can Google Stay on Top of the Web?
http://www.businessweek.com/magazine/content/09_41/b4150044749206.htm

★Inside the App Economy
http://www.businessweek.com/magazine/content/09_44/b4153044881892.htm

 フェースブック上で口コミ効果があるのは、ツイッターを模した「呟き(つぶやき)」の活用である。これに仮想ギフトで開発されたゲーム感覚の手法が加わる。参加者が企業のブランドコミュニティで感想の投稿や写真投稿など何かの活動を行う都度、それがフェースブックの友達にライブ(リアルタイム)で提示される。ゲーム感覚で行われるこれらの行為が口コミ上効果的なのだ。もっとも09年のホリデーシーズンは不況の影響で食品系企業を中心に食べられない仮想ギフトの提供よりも、無料のハンバーガークーポンなど本物のギフトの提供が目立つのが面白い。

 それでは早速、具体的なソーシャルマーケティングを紹介しよう。

<フォードフュージョンのドライブワン・キャンペーンの事例>

 ソーシャルゲームにおいては怪獣などの敵を倒す為、数人が仲間となってパーティーを立ち上げる。このゲーム発想をフォードは新車のキャンペーンに活用した。フォードフュージョンの所有者を対象に開始したドライブワン・キャンペーンがそれである。まずフェースブック上で最低、100人の友達の輪を保持する8人を公募により選定した。そして選ばれた8人がフェースブック上の友達4人とゲームのパーティーのようなチームを組み、リレー型のレースを行う。刻々と変化するレース時の状況や写真などはフェースブック上などへの公開が義務付けられている。レースに参加するチームがそれぞれ、フェースブック上などでフォードフュージョンの物語を語るというソーシャルゲーム発想のリアリティショー型販売キャンペーンである。レースの勝者には車が無料となると共にチームメンバーには1年間、ガソリンが無料で提供されるというものである。

★Ford Fusion 41
http://fordvehicles.emipowered.net/fusion41/register/?

<T.G.I.フライデーズの50万人のファン獲得と割引クーポンキャンペーン>

 アメリカ風レストランのT.G.I.フライデーズは、ウッディというゲーム感覚でのキャラクターを起用して9月末までに50万人のフェースブック上でのファン獲得キャンペーンを実施した。このキャンペーンはテレビコマーシャルまで実施しており、本腰を入れたものである。結果として同社は約100万のファンを獲得し、最初にファンとなった5万人は無料のハンバーガークーポンを獲得している。

 ライバルのマクドナルドが140万人、南部に店舗を集中しているピザハットが100万人のファンを獲得しており、T.G.I.フライデーズも巻き返しに出たのである。この手のアプローチ(フェースブック上でのファン獲得と商品割引の組み合わせ)はギフトなどクリスマスセールを意識して玩具のトイザラスや携帯パソコンのインテルなども実施している。ファンの数が一定数を超えれば、ギフト用などの玩具やパソコンの値段が下がるなどのゲーム的なアプローチである。

★Toys”R”Us Explodes on Facebook With Black Friday Preview
http://mashable.com/2009/11/24/toysrus-facebook-black-friday/

★5 Cool Ways Brands Are Using Facebook for Black Friday and Beyond
http://mashable.com/2009/11/25/facebook-brands-holiday/

<ピザハットはアイフォーンとの連携を強化>

 フェースブック上で約100万人のファンを獲得しているピザハットは、09年のホリデーシーズンの特徴とされている割引クーポンの配布などを、フェースブック上のツイッターを模した「呟き」の仕組みによって提供している。これはピザハットのブランドコミュニティに加入していないと見ることができない。フェースブック上のファンとの交流の基本的な手法を活用しているわけである。またフェースブックコネクトの仕組みにより、ファンのページからスムースに地元のレストランよりピザの注文ができる。またフェースブックとの連携がスムースなアップルのアイフォーンからのソーシャルゲーム感覚によるピザのカスタム注文も可能となっており、3カ月で100万ドルの売り上げ増加が報告されている。ソーシャルゲームで畑を耕し野菜を植える代わりにピザの上にトップスを選んで載せるシナリオである。

★'Pizza Huts iPhone App Has Generated $1 Million in Sales
http://mashable.com/2009/11/03/pizza-hut-iphone/

★The NEW Pizza Hut iPhone App
http://www.youtube.com/watch?v=Ojw8I1CFu-w&feature=player_embedded

<ビタミンウオーターの生活者香り調査>

 コカ・コーラの1部門である飲料のビタミンウオーターは生活者の好む香り調査のためにソーシャルゲーム感覚で参加者が香りを創造できる「香り創造」というサービスをフェースブック上のブランドコミュニティにおいて提供している。コンテストなどゲームの要素が満載なサービスである。尚、マーケティング上は生活者の「巻き込み効果」を狙ったものと考えられる。

★Vitaminwater Uses New Game App for Market Research
http://www.insidesocialgames.com/2009/09/08/vitaminwaters-uses-new-app-to-do-market-research/

<ギャップの消費者作成CMキャンペーン>

 夢の提供はゲームや仮想社会のようなイメージの世界に通じるため、若者には受け入れやすい。衣料品のギャップはテレビCMを止め、フェースブックやアイフォーン、ネット上のファッションショー、店舗内のコンサートなどの多様な広告にシフトし始めている。そうした中、33万人のファンを獲得したフェースブック上で生活者が自らの写真を使ってギャップ製ジーンズのコマーシャルを作成するコンテストを実施している。ジーンズ進出40周年を祝う「あなたは子供の頃、何になりたいという夢を持っていたのか」という名前のコンテストはギャップ製ジーンズを着用して、ロックスターやダンサーなど子供の頃の夢を演じた写真を投稿するコンテストである。これは60ドル程度のデニム商品の認知度を高める目的で行われている。夢というイメージの世界でのギャップのジーンズを履いたシーンは、多くの参加者に対して更なる購買意欲を喚起させる「仮想の保有効果」が働く。そしてトップスリーに入れば100ドルのギャップのギフト券がプレゼントされる。多くの企業が従来は自社サイトで行ってきたCGCM(消費者作成広告)もフェースブック上など巨大クラウドで行われるようになり始めた。

★What were you born to do?
http://www.polyvore.com/gap_jeans_challenge/contest.show?id=94508

<イケアの宝探し発想による家具のキャンペーン>

 ゲームの世界ではドレスや剣などのアイテムなどをもらえる宝探しが一般的な盛り上げ策として採用されている。その宝探し発想を家具の販売キャンペーンに応用したのがスウェーデンの家具メーカー、イケアである。スウェーデンの小都市に新たな店舗をオープンしたイケアは、09年11月、店舗マネージャーがフェースブック上で12枚の写真を2週間アルバム公開した。その中にイケアの家具が映っているのである。そして写真の中にある家具を発見して最初にタグ(ネット参加者による自主的な分類札)を付けたフェースブック参加者に家具を提供するキャンペーンを展開した。これは大成功であったと言われている。是非、YouTube上の以下の動画を見て頂きたい。

★Facebook Marketing: IKEA's Genius Use of Photo Tagging
http://mashable.com/2009/11/25/facebook-marketing-ikeas-genius-use-of-photo-tagging/

★http://www.youtube.com/watch?v=YE2LSp-hjbQ&feature=player_embedded

2009年12月3日木曜日

MACでODEのdemoプログラムをコンパイルする

■ 参考サイト

■ 作業内容
1.適当な作業ディレクトリを作成する.

2.ODEのデモプログラムを作業ディレクトリにコピーする

3.ODEのデモプログラムと同じディレクトリにあるteturepath.hを作業ディレクトリにコピーする

4. texturepath.hにテクスチャを置いたディレクトリを指定しておく
#define DRAWSTUFF_TEXTURE_PATH "/usr/local/share/drawstuff/textures"

5.makefileを作成(sje2009を参考に自分のmac環境に合うように変更)
#---ここから

CC = g++ -I -O2 -Wall -g

TARGET = demo_plane2d

OBJS = $(TARGET).o

SOURCE = $(TARGET).cpp

HEADER = texturepath.h

LIBS = -L/usr/local/lib

#LIBS = -L/usr/local/lib -L/usr/X11R6/lib

INDS = -I. -I/usr/local/include -I/usr/X11R6/include

#OPTS = -lICE -lSM -lm -ldrawstuff -lX11 -lGL -lGLU -lpthread

# for OSX

OPTS = -lm -lode -ldrawstuff -framework OpenGL -framework Carbon -framework AGL -lpthread

#OPTS = -lm -lode -ldrawstuff -lX11 -framework OpenGL -framework Carbon -framework AGL -lpthread

ODE_LIBS = $(shell ode-config --libs)

ODE_INCLUDE = $(shell ode-config --cflags) -DdTRIMESH_ENABLED -DdDOUBLE


all:$(TARGET)

$(TARGET):$(OBJS) $(HEADER)

$(CC) -o $@ $(OBJS) $(LIBS) $(INDS) $(OPTS) $(ODE_LIBS)

$(OBJS):$(SOURCE) $(HEADER)

$(CC) -c $(SOURCE) $(LIBS) $(INDS) $(ODE_INCLUDE)

.PHONY: clean

clean:

rm $(TARGET) $(OBJS) *.*~ *~

#---ここまで


私のmac環境では,/usr/X11R6/lib/libGL.dylib が原因でエラーが発生するため,以下の項目を削除して使用


-L/usr/X11R6/lib/libGL.dylib

-lX11


OpenGL関連のエラーらしいがよくわからない・・・.


MACにODEをインストール

■ 参考サイト

■ 作業内容
1.ODEからode-0.11.1をダウンロード

2.ディレクトリode-0.11.1に移動

3.以下のコマンドを実行
./configure --prefix=/opt/local/ode --enable-double-precision --enable-debug
make
sudo make install

4.デモの動作確認
ode-0.11.1/ode/demo/demo_***

5.3D描画ライブラリdrawstuffのファイルをコピーしておく
sudo mkdir -p /usr/local/include/drawstuff
sudo cp include/drawstuff/verion.h /usr/local/include/drawstuff/
sudo cp include/drawstuff/drawstuff.h /usr/local/include/drawstuff
sudo cp drawstuff/src/libdrawstuff.la /usr/local/lib/
sudo cp drawstuff/src/.libs/libdrawstuff.a /usr/local/lib/

6.drawstuffで利用するテキスチャーも適当な場所へコピーしておく
sudo mkdir -p /usr/local/share/drawstuff/textures
sudo cp -r drawstuff/textures /usr/local/share/drawstuff/

2009年11月19日木曜日

1つの市場を形成しはじめたブログというコンテンツ


有名人のブログが多いことで知られる国内のブログサービスが、2009年9月期に四半期ベースで初めて黒字転換したという。日本で本格的にブログがサービスとして提供され始めてから約6年。CGM(利用者発信型メディア)の典型とされるブログだが、ソーシャルメディアとしてネットや携帯電話の利用者にすっかり定着し、収益事業としても独り立ちしつつある。(今川拓郎)

 当初は、ブログ自体は無料で広告主から掲載料を徴収する広告モデルが大半だったが、近年では有料サービスや商品などをリンクして紹介する「アフィリエイト」の収益モデルが普及してきた。いったい、ブログの市場規模はどの程度と考えればよいのだろうか。

■ブログの市場規模をどう測るか

 総務省情報通信政策研究所は、09年7月に「ブログ・SNSの経済効果の推計」を公表した。ブログ・SNSの市場規模について、表1に示すとおり5つの市場に分類したうえで、一定の前提のもとに推計を行っている。

表1 ブログ市場の分類
【出典】「ブログの実態に関する調査研究報告書」(総務省情報通信政策研究所)
市場の分類ブログ市場(ブログ事業者や登録者が、ブログ活動から直接得る収益の総額)ブログ誘発市場(他の事業が間接的に得る収益の総額)
(1)ブログサービス市場有料版ブログサービス提供によるブログ事業者の売り上げ
(2)ブログ広告市場ブログを媒体とした純広告、コンテンツマッチ広告、口コミ広告によるブログ事業者の売り上げ
(3)ブログEC市場アフィリエイト経由で商品・サービスが購入されることによるブログ事業者・ブログ登録者の収益(成果報酬分のみ)アフィリエイトによる商品・サービスの売り上げ(左記のブログ市場分を除く)
(4)ブログ出版市場ブログコンテンツの出版によりブログ登録者が得る収益(印税分のみ)ブログコンテンツの出版による書籍の売り上げ(左記のブログ市場分を除く)
(5)ブログソフトウエア市場ブログソフトウエア・ASPの販売額

 (1)の「ブログサービス市場」は、ブログを有料で提供することによる収入である。(2)~(4)の「ブログ広告市場」「ブログEC市場」「ブログ出版市場」はそれぞれ、ブログを通じて得られる広告収入、ネット購入に導くことによる成果報酬、出版につながった場合の印税収入である。(5)の「ブログソフトウエア市場」は、ブログ関連のソフトウエアを提供することによる収入である。また、右欄の「ブログ誘発市場」は、ブログを通じてブログ以外の市場で誘発される収入を示しており、「ブログEC市場」と「ブログ出版市場」の商品・サービス・書籍のみが該当するものとした。

 推計方法の概要は、次のとおりである。まず、大手10サービスを抽出し、公表値や事業者アンケートなどによりブログ登録者数及びページビュー数を集計。「ブログサービス」「ブログ広告」「ブログEC」のそれぞれについて、独自の推計式を作成して大手10サービスの収益を求めた。さらに、その他の54サービスを抽出し、登録者数又はページビュー数を用いて収益を比例的に割り当て、大手10サービスの収益と合計することで、計64ブログサービスの「ブログサービス市場」「ブログ広告市場」「ブログEC市場」の規模を求めた。

 一方、「ブログ出版市場」については、08年度に出版されたブログ書籍をネット通販サイト「Amazon.co.jp」からリストアップし、推定販売部数を乗じて市場規模を推計した。また、「ブログソフトウエア市場」は、ホームページやイントラネットへブログを導入する企業数をインターネット白書などから推定し、ライセンス価格を乗じて市場規模を推計した。

■ブログの市場規模は約160億円

図1 2008年度のブログ市場規模(推計)
【出典】「ブログの実態に関する調査研究報告書」(総務省情報通信政策研究所)

 以上の方法に基づく市場規模の推計結果は、図1のとおりである。08年度のブログ市場規模は約160億円。誘発市場(約1800億円)とあわせて、ブログ関連市場は約1960億円と試算された。ブログ市場の内訳は、「ブログEC市場」が約43%、「ブログ広告市場」が約42%と、両者で大半を占め、「ブログサービス市場」は1.7%にとどまった。ブログの特性を生かしたアフィリエイト機能や口コミ広告などが経済効果をもたらしている。

 なお、ブログ市場規模の推計のもとになった09年1月時点のブログ登録者数の推計値は約2700万人、ページビュー数は約200億回である。ネットレイティングスによれば、09年6月のページビューランキング上位10社のページビュー数合計値は約320億回となっており、今年に入ってからのブログのページビュー数の伸びも考えれば、この市場規模はやや過小評価とみるべきかもしれない。

■規模拡大で求められるガバナンス

 一方、総務省情報通信政策研究所では、日本のコンテンツ市場全体の市場規模の推計も行っている。07年の市場規模は約11.4兆円(前年比0.3%減)となり、05年以降、市場全体は横ばいとなっている。

 ただし、市場内では2つの構造変化が生じている。第一の変化は、映像化である。本推計では、コンテンツをテキスト系・音声系・映像系に分けて計測しているが、テキスト系(2.4%減)・音声系(3.2%減)のコンテンツは、新聞・雑誌・書籍・音楽CDなどの販売減により減少。一方、映像系(2.1%増)のコンテンツは、テレビ番組の二次利用増などにより増加した。

 第二の変化は、ネット配信である。パソコンや携帯電話を利用したネットワーク経由のコンテンツ流通は急速な拡大(11.5%増)を続け、1兆円近い規模にまで成長している。

 実は、この調査は02年から開始していることもあって、テレビ・映画・ビデオ・音楽・新聞・雑誌・書籍などのソフトが、放送・インターネット・パッケージ販売・劇場などのメディアを通じて流通する実態を把握しており、ブログのようなCGMコンテンツは含まれていない。

 今回推計したブログ(約160億円)や、同時に推計したSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス、約499億円)の市場規模は、両者あわせても約660億円で、コンテンツ市場全体の0.6%程度にとどまるが、動画投稿サイト、価格比較サイト、掲示板などの代表的なCGMコンテンツも加えればかなりの市場規模に達する(図2を参照)。コンテンツ市場全体は拡大を続けていると評価できるようになる。

 インターネットや携帯電話の普及で、いわゆる「口コミ」も立派にビジネスとして成り立つようになってきた。電通が「日本の広告費」の調査結果を毎年公表しているが、ここにもCGM広告がいずれ登場するだろう。

 しかし、規模拡大とともに影響力が高まれば、おのずと情報発信主体の自覚と責任が求められるようになる。米国(連邦取引委員会)や日本(WOMマーケティング協議会)でブログ広告のガイドライン策定の動きも広がるなか、「ネット空間は私道ではなく公道である」という認識のもと、ルールやマナーの強化が必要となるだろう。

【本稿は筆者の個人的な見解であり、所属する組織を代表するものではありません。】

[2009年11月18日]

2009年11月18日水曜日

人はなぜ、「衝動買い」をしてしまうのか

■ハサミの値段はルーレットで決まる

 なぜ、人間は衝動買いをしてしまうのだろうか。
 NHKの「ためしてガッテン」で「脳に待った! 衝動買いドキドキ心理学」という特集を監修し、次のような実験を行った。
 被験者に「よくあるハサミ」を見せ「このハサミは何円するでしょう」との質問をする。ただし質問に答える前に、200から2000まで、200の数字ごとに刻みをつけたルーレットを回してもらった。
 ルーレットが止まった数字を確認した後、先ほどのハサミを見せ、値段を尋ねる。すると面白いことに、本来は何の関連性もないはずのルーレットの数字に被験者は引きずられ、ルーレットで出た数字に近い金額をハサミの値段として答えた。
 実験の被験者60人のデータによると、ルーレットの数字が小さい(200〜1000)人と、大きい(1200〜2000)人の間で、ハサミの値段の見積もりに700円以上の差が出た。400の数値が出れば「100円ショップに売ってそう」、反対に、高い数値が出ると「質が高そう」「よく切れそう」として高い値段を答えたのだ。ルーレットとハサミの値段が全く関係ないとわかっていても、その通りに行動できないのだ。

 ハサミという、身の回りにある日常品についてもこうなのだから、よく知らない商品を選ぶときは、口コミ、コマーシャル、あるいは「限定品」「希望小売価格から50%割引」という魅力的に思える情報によってコロッと行動が変わってしまう。
 人間は不確実な事象について予測をするとき、初めにある値(アンカー)を設定、その後で調整をして予測を行う。しかし、最終的な予測値が最初に設定する値に引きずられてしまい、十分な調整ができないことがある。この場合、ルーレットの値がアンカーで、ハサミの値段についての最終的な予測が、アンカーに引きずられていることになる。こうしたバイアスのかかる結果を「アンカリング効果」という。

 2002年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンは元来心理学者だった。
 カーネマンは、新古典派経済学が前提としてきた「(合理的)経済人」というテーゼを問い直した。
「経済人」とは、わかりやすく説明すると、将来のことも含めて何から何まで期待値の計算が完全にできる人。たとえば、なにか行動を起こす際も、その結果どうなるか、どれが一番満足を得る行動なのかが判断できる。加えて、一度決めたことは絶対に実行できる。たとえば禁煙、ダイエットも決心したら絶対にできることを前提にしている。
 しかし「経済人」というモデルは普通に考えても成立しない。
 計算が完璧にでき、ものを買うときには、自分の予算の中でなにをどれだけ買ったら満足が一番いくかが完璧にわかる。将来も常に確率的に予測できる。というような人が現実的にいるのだろうか。
 先ほどの例で言えば、本当の「経済人」だったら、禁煙、ダイエットが必要な状況にはそもそも陥らないはずだ。禁煙、ダイエットをしなければならない「経済人」など論理的にもありえないのだ。
 感情、気分的なものにも振り回されるし、頭をフルに動かして考えるということはエネルギーがいるので、極力節約しようとするのが人間、というのがカーネマンの前提だ。
 消費者がCMに振り回されやすいのも同じこと。「経済人」だったら複数ある中からどの商品を購入すれば一番得かということが、瞬時に判断できる。しかし実際は商品の詳細な情報などはなかなかわからないし、適正価格を知っている人間はごく一部だ。


■人類がアフリカにいた頃の習慣

 昨年のリーマン・ショック以来の世界不況の原因の一端もここにあると考えられる。サブプライムローンの証券化商品について、買う側は品質評価、つまりリスクの高低などを自分では判断しえなかった。そこで格付け会社に全幅の信頼を置いていたのだが、その格付けを信頼した多くの人が破産してしまった。
 買い手が「ちょっとおかしい」とでも合理的に判断できれば回避できた事態のはず。安易なヒューリスティクスに頼ったことがマイナスに大きく作用した好例といえる。
 反対にリスクを恐れて行動できないということも起こりうるだろう。転職を勧めるヘッドハンターが提示した給与、環境、役職・地位などの条件が、明らかに現在の職場よりも良かったとしても、今の仕事を続けるという選択をする人は多い。言葉ではうまく説明できない非合理的な行動を人間はとるのだ。

 では、なぜ人間は合理的な「経済人」にはなれないのか、些細な情報や感情に振り回される存在なのか。カーネマン自身が研究の中で言及しているわけではないが、行動経済学の枠組みから辿っていくことができる。
 話は原始人類まで遡る。彼らはアフリカのサバンナで何万年にもわたって狩猟採集生活を行ってきた。人類はこの環境に適応した期間が莫大な長さになるのに、ここ数百年の環境があまりにも急激に変わりすぎて、人間の脳や頭が適応しきれない状況ができているようだ。ストレスやその他、精神疾患などの病気も、こんなところに、そもそもの原因があるといわれている。現代人の多くは甘い物や脂っぽい食べ物を嗜好するが、決して現代生活に適しているとはいえない。だからこそ多くの人がダイエットに迫られ、しかも大抵うまくいかない。

 しかし、アフリカのサバンナでは「甘く、脂肪を好む」種が生き抜いて代々子孫を残してきた。甘い物、脂っこい食べ物はカロリーも高いのだから、当然といえば当然。そうした嗜好を持たない者は数万年にわたって淘汰されてきた。
 些細な情報に左右される衝動買いや限定品買いといった行動も、目の前にあるものをすぐに食べるのが生存競争では必須であり、なおかつ合理的であったことに由来する。そうした思考ないし行動の持ち主が代々子孫を残した。そうでなければ淘汰にさらされる。
 些細な情報に振り回されるというのも、考えてみれば原始人類は100〜150人程度の限定した集団で生活していた。その内部の情報を疑う必要もなかったので、情報が入ってくればすぐに行動するのが当時としては合理的であった。そうした反応が現在にいたるまで身についている。そういった集団内の常識に縛られ、合理的な行動を起こすことをためらうのだ。

 行動経済学の研究は今、「幸福」を研究するところまで広がっている(上図)。所得が小さいときは、所得という尺度は幸福度に大きく貢献するという。しかし、所得がある程度になると尺度の比重として下がり、人間関係、仕事の満足度、といったものが上位にランクしてくるという。
 合理性の追求が幸福の絶対的要素ではない。衝動買いやリスクを取らないという生き方も、幸福の要素になりうる。

 以上のような議論をすると、消費者にどうやって衝動買いをさせるのか教えてほしい、というご依頼を企業側からいただく。
 小売りや量販店の値札のつけ方を見ても、人間が「経済人」として合理的に行動するのでなく、「感情」で動くことを企業は経験的に知っているようだ。私を招いて論理的に学びなおし、企業の販売戦略に活かしたいのであろう。有り難い申し出ではあるのだが、私は消費者の側に立ち、そんな企業に騙されることのない、より賢い生き方を啓発していきたい。


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明治大学情報コミュニケーション学部教授
友野典男

プレジデント11月17日(火) 10時 0分配信 / 経済 - 経済総合

2009年10月13日火曜日

Where Wikipedia Ends

Looking back, it was naive to expect Wikipedia's joyride to last forever. Since its inception in 2001, the user-written online encyclopedia has expanded just as everything else online has: exponentially. Up until about two years ago, Wikipedians were adding, on average, some 2,200 new articles to the project every day. The English version hit the 2 million - article mark in September 2007 and then the 3 million mark in August 2009 - surpassing the 600-year-old Chinese Yongle Encyclopedia as the largest collection of general knowledge ever compiled (well, at least according to Wikipedia's entry on itself).

But early in 2007, something strange happened: Wikipedia's growth line flattened. People suddenly became reluctant to create new articles or fix errors or add their kernels of wisdom to existing pages. "When we first noticed it, we thought it was a blip," says Ed Chi, a computer scientist at California's Palo Alto Research Center whose lab has studied Wikipedia extensively. But Wikipedia peaked in March 2007 at about 820,000 contributors; the site hasn't seen as many editors since. "By the middle of 2009, we realized that this was a real phenomenon," says Chi. "It's no longer growing exponentially. Something very different is happening now." See the 50 best websites of 2009.

What stunted Wikipedia's growth? And what does the slump tell us about the long-term viability of such strange and invaluable online experiments? Perhaps that the Web has limits after all, particularly when it comes to the phenomenon known as crowdsourcing. Wikipedians - the volunteers who run the site, especially the approximately 1,000 editors who wield the most power over what you see - have been in a self-reflective mood. Not only is Wikipedia slowing, but also new stats suggest that hard-core participants are a pretty homogeneous set - the opposite of the ecumenical wiki ideal. Women, for instance, make up only 13% of contributors. The project's annual conference in Buenos Aires this summer bustled with discussions about the numbers and how the movement can attract a wider class of participants.

At the same time, volunteers have been trying to improve Wikipedia's trustworthiness, which has been sullied by a few defamatory hoaxes - most notably, one involving the journalist John Seigenthaler, whose Wikipedia entry falsely stated that he'd been a suspect in the John F. Kennedy and Robert F. Kennedy assassinations. They recently instituted a major change, imposing a layer of editorial control on entries about living people. In the past, only articles on high-profile subjects like Barack Obama were protected from anonymous revisions. Under the new plan, people can freely alter Wikipedia articles on, say, their local officials or company head - but those changes will become live only once they've been vetted by a Wikipedia administrator. "Few articles on Wikipedia are more important than those that are about people who are actually walking the earth," says Jay Walsh, a spokesman for the Wikimedia Foundation, the nonprofit that oversees the encyclopedia. "What we want to do is find ways to be more fair, accurate, and to do better - to be nicer - to those people."

Yet that gets to Wikipedia's central dilemma. Chi's research suggests that the encyclopedia thrives on chaos - that the more freewheeling it is, the better it can attract committed volunteers who keep adding to its corpus. But over the years, as Wikipedia has added layers of control to bolster accuracy and fairness, it has developed a kind of bureaucracy. "It may be that the bureaucracy is inevitable when a project like this becomes sufficiently important," Chi says. But who wants to participate in a project lousy with bureaucrats?

There is a benign explanation for Wikipedia's slackening pace: the site has simply hit the natural limit of knowledge expansion. In its early days, it was easy to add stuff. But once others had entered historical sketches of every American city, taxonomies of all the world's species, bios of every character on The Sopranos and essentially everything else - well, what more could they expect you to add? So the only stuff left is esoteric, and it attracts fewer participants because the only editing jobs left are "janitorial" - making sure that articles are well formatted and readable.

Watch a video on 5 websites you may not know.

Chi thinks something more drastic has occurred: the Web's first major ecosystem collapse. Think of Wikipedia's community of volunteer editors as a family of bunnies left to roam freely over an abundant green prairie. In early, fat times, their numbers grow geometrically. More bunnies consume more resources, though, and at some point, the prairie becomes depleted, and the population crashes.

Instead of prairie grasses, Wikipedia's natural resource is an emotion. "There's the rush of joy that you get the first time you make an edit to Wikipedia, and you realize that 330 million people are seeing it live," says Sue Gardner, Wikimedia Foundation's executive director. In Wikipedia's early days, every new addition to the site had a roughly equal chance of surviving editors' scrutiny. Over time, though, a class system emerged; now revisions made by infrequent contributors are much likelier to be undone by élite Wikipedians. Chi also notes the rise of wiki-lawyering: for your edits to stick, you've got to learn to cite the complex laws of Wikipedia in arguments with other editors. Together, these changes have created a community not very hospitable to newcomers. Chi says, "People begin to wonder, 'Why should I contribute anymore?'" - and suddenly, like rabbits out of food, Wikipedia's population stops growing.

The foundation has been working to address some of these issues; for example, it is improving the site's antiquated, often incomprehensible editing interface. But as for the larger issue of trying to attract a more diverse constituency, it has no specific plan - only a goal. "The average Wikipedian is a young man in a wealthy country who's probably a grad student - somebody who's smart, literate, engaged in the world of ideas, thinking, learning, writing all the time," Gardner says. Those people are invaluable, she notes, but the encyclopedia is missing the voices of people in developing countries, women and experts in various specialties that have traditionally been divorced from tech. "We're just starting to get our heads around this. It's a genuinely difficult problem," Gardner says. "Obviously, Wikipedia is pretty good now. It works. But our challenge is to build a rich, diverse, broad culture of people, which is harder than it looks."

Before Wikipedia, nobody would have believed that an anonymous band of strangers could create something so useful. So is it crazy to imagine that, given the difficulties it faces, someday the whole experiment might blow up? "There are some bloggers out there who say, 'Oh, yeah, Wikipedia will be gone in five years,'" Chi says. "I think that's sensational. But our data does suggest its existence in 10 or 15 years may be in question."

Ten years is a long time on the Internet - longer than Wikipedia has even existed. Michael Snow, the foundation's chairman, says he's got a "fair amount of confidence" that Wikipedia will go on. It remains a precious resource - a completely free journal available to anyone and the model for a mode of online collaboration once hailed as revolutionary. Still, Wikipedia's troubles suggest the limits of Web 2.0 - that when an idealized community gets too big, it starts becoming dysfunctional. Just like every other human organization.

2009年10月5日月曜日

働きバチも産卵・子育て…女王と対立抗争?


女王だけが子孫を残し、他のメスは働きバチとして集団を営むとされるミツバチの中で、働きバチの一部が自ら卵を産みオスバチを孵(かえ)して育てていることを、ブラジル・サンパウロ大のグループが明らかにした。

 女王側は卵を持つ働きバチを殺すなどして統率を図っているが、以前の女王の娘だった働きバチに、現女王の娘も加わり、群れのオスのうち4分の1を占める集団を築いていた。このような内部抗争は、病気や環境急変による危機を乗り切るため多様な遺伝子を残すのに貢献しているらしい。英国の専門誌に発表した。

 ミツバチは女王1匹と数千〜数万の働きバチ、その1割のオスで群れを構成。オスは働かず、女王と1回だけ交尾し生涯を閉じる。

 グループは南米に住む「ハリナシバチ」の一種を調査。45個の巣からオス計576匹を採取、遺伝子を調べた。その結果、77%は現在の女王の息子だったが、4%は女王が産んだ働きバチの子で、残り19%は、以前の女王が産んだ前政権の働きバチの子と推計した。

 働きバチは、単為生殖で卵を産みオスのみを孵すことが可能。女王側は、卵を抱えた働きバチを女王が食べたり、卵を体制側の働きバチが食べたりして組織防衛。一方、卵を産む働きバチは仕事はせず、自ら産んだオスの数を維持することに専念し、平均的な働きバチの3倍長生きしていた。

2009年10月2日金曜日

群れて走るロボットカーを公開=渋滞緩和に有効−日産


日産自動車は1日、互いに適切な距離を置きながら群れをつくって走るロボットカー「エポロ」を公開した。4〜5個のロボットが集団をつくり、道幅が変わるとそれに合わせて形を変え、道路スペースを効率よく使って移動する。群れて行動するロボットは世界初。まだ研究段階だが、実用化されれば渋滞緩和に役立つ技術という。
 エポロは高さ約50センチ、幅40センチの車輪付きで、平均時速は約1.2キロ。障害物をよけるためのセンサーと、お互いの位置情報を交換する通信システムを搭載しているため、群れながら走ってもぶつからない。魚が集団で泳ぐ姿をヒントにした。幕張メッセ(千葉市)で6日開催の国際家電見本市「CEATEC(シーテック)JAPAN2009」に出品する。 

2009年9月17日木曜日

利己主義と裏切りが支配する世界に「協力」が生まれる条件は:シミュレーション実験


Brandon Keim

この絶望的な時代に、科学が一筋の希望の光を届けてくれた――自分本位にふるまう者が得をする世界でも、助け合いは生まれ、そして広まるというのだ。

たとえそれがコンピューター・シミュレーションの世界でも、明るいニュースなら何だって大歓迎だ。

「利己主義と裏切りが支配するノイズ[一部の行動にわざと誤解を生じさせる要素]に満ちた世界で、突如として協調行動が発現し、優勢になることを確認した」。スイス連邦工科大学の社会学者、Dirk Helbing氏とWenjian Yu氏は、2月23日(米国時間)に『米国科学アカデミー紀要』に発表した論文でこのように述べている。

Helbing氏は、サッカー場のファンから交通渋滞までを対象に、群集行動の複雑なシミュレーションを専門に研究している。ただし、群集行動をモデリングする他の研究者たちと同じく、Helbing氏が追求しているのはある根源的な難問だ。その難問とは、互いに協調的な行動を取ることが最も大きな利得をもたらす可能性があるが、しかし一方で、利己的な行動が最も安全かつ最も常識的な選択肢であるような場合、いかにして協調行動を発現させられるかという議論で、これを表わしたものとして知られるのが、「囚人のジレンマ」というゲーム理論のモデルだ。

[囚人のジレンマは、「個々にとって最適な選択」が全体として最適な選択とはならない状況の例としてよく挙げられる問題。古典的なモデルでは、2人の共犯者が逮捕され、警察から別々に取り調べを受け、それぞれ同じ選択肢を与えられる――「自白する」(裏切り)か「黙秘する」(協調)かのどちらかだ。もし片方が裏切り、他方が協調した場合、裏切った方は釈放され、協調した方は10年の刑を言い渡される。両方が協調した場合、どちらも6ヵ月の刑となる。両方とも裏切った場合、2人とも5年の刑となる。どちらの容疑者も、相手が行なった選択を知ることができない。一方、「繰り返し囚人のジレンマ」(日本語版記事)モデルでは、選択が何度も繰り返される中で、協調的な戦略を進化させることが可能となる。その大会も行なわれている]

今回Helbing氏が行なったシミュレーションは、重要なのは移動と[成功の]模倣であることを示唆している。各個体が自分と関わりを持つ相手を自由に選ぶことができ[=移動]、彼らの成功を模倣するだけの賢明さを持つ場合、協調行動が発現し、全体に広まっていく。

しかも、この状態の始まりは大規模なものではない。シミュレーションを何度も繰り返す中で、利己主義を捨てたのは20ユニットのうち1つのみであり、その選択は通常うまく行かなかった。「非常に長期間たったあとでは、同じ近隣のグループ内には、たまたま偶然で協調行動を取るだけに過ぎない2〜4ほどの個体が存在している状態になる」とHelbing氏は話す。「これは幸運な偶然といったレベルだ。一方で、ひとたび十分な大きさの[協調者の]集団が出現すると、協調者たちはかなりの成功を収めるようになり、裏切り者は協調者集団の行動を模倣し始める。その結果、協調行動は持続し、広まっていく」

ゲーム理論を研究する人々にとって、囚人のジレンマのシミュレーションは、生物学者にとってのミバエに近い。[モデル生物として利用されるミバエのように]、囚人のジレンマも、基本原則を明らかにし、吟味し、うまくすれば同じ状況を人間に当てはめた場合を推定するのに使える便利なシステムなのだ。

もちろんこれは単なるモデルに過ぎない。そこに少しの移動と模倣の要素を加えたくらいで、人類の様々な問題が魔法のように解決するわけではない。それでも、これらは重要な意味を持つ可能性がある。

人類の文化的進化において、「1つの場所から別の場所へ移動することは、実際のところ、協調行動が発現し、普及する上で重要な前提条件だったのかもしれない」とHelbing氏は述べている。

Video Credit:Dirk Helbing/初めは裏切り者ばかりの世界に協調行動が発現し、広まっていく様子を示すシミュレーション。赤は裏切り者、青は協調者、白は誰もいない場所、緑は繰り返されるシミュレーションの最終回で協調者に転じた裏切り者、黄は裏切り者に転じた協調者。なお、サイトトップの画像はWikimedia Commonsより

参考論文: "The outbreak of cooperation among success-driven individuals under noisy conditions." By Dirk Helbing and Wenjian Yu. Proceedings of the National Academy of Sciences, Vol. 106, No. 8, Feb. 23, 2009.

[日本語版:ガリレオ-高橋朋子/合原弘子]

「利他的行動は戦闘で進化」:コンピューターモデルで分析


戦場で、自己より他者を優先させる――石器時代の人々が交戦時にこの傾向を選択したことが、「利他的行動」の発達を加速させた可能性がある、という研究結果が発表された。

文化的進化と、集団間の競争を再現したコンピューター・モデルに、暴力に満ちた人類の初期時代の研究データを投入したところ、現代人的な行動とされる利他主義が、実際には血なまぐさい起源を持つ可能性が示唆されたというのだ。

「それが集団を戦いの勝利に導く場合には、利他的行動が強く支持される」と、サンタフェ研究所の経済学者で制度理論を研究するSam Bowles氏は話す。同氏が執筆した今回の研究論文は、『Science』誌6月5日号に掲載された。「これは、通常集団内で、利己的な個人が利他的な個人より優勢になる傾向を相殺するものだ」

他者の利益を自己のそれに優先させる人間の能力が、このような野蛮な起源を持つ可能性があるというのは、自然の道理に反しているように思える。しかし、それは利他主義自体も同じだ。遺伝子はそもそも利己的なものであり、自己犠牲の性質は持たないと考えられている

実際、人間以外の動物にみられる利他的行動の例は、そのほとんどすべてが血縁選択という概念によって説明できる。これは、個体が遺伝的に近い血縁者のために犠牲になる[それによって自らの遺伝子を伝える]という考えだ。何の見返りも求めず、赤の他人のために行動する習慣を持つのは人間だけだ。

このような行動は、高度に複雑化した利己主義の例として説明できるかもしれない。つまり、一見利他的に見える行動は、実際には社会の要求を満たす、あるいは人々の寛大さに接して育まれた良心を満たすための行動かもしれない。しかし、たとえそうであっても、何か最初に利他主義を可能にするようなきっかけが必要だ。それが一体どのように誕生したかは謎に包まれている。

利他主義は、動物界で珍しいだけでなく、集団における相互作用を再現したコンピューター・シミュレーションでも劣勢の存在(日本語版記事)だ。シミュレーションでは、利己的な行動が優勢を占めるコミュニティ内部に利他的な個人が出現しても、利己主義のほうが勝つ。協力的な人よりも、自分さえよければいい人のほうが得をするのだ。

利他主義の最初の小さな火花は、生まれても消えていく運命にあるのかもしれない――ただし、その火花を大きく燃え上がらせる別の何かがあれば、おそらく結果は違ってくる。考えられる候補の1つが、小さな集団間の争いが進化に与える影響だ。集団間の争いは、人類の歴史の大半を通じて、われわれの生活の重要な部分を占めてきたと考えられる。

「利己は利他を圧倒するが、時おり、利己的な人間によって構成される集団が、利他的な個人からなる集団との競争において打ち負かされることがありうる」とBowles氏は語る。

そのような説を最初に唱えたのはチャールズ・ダーウィンだ。ダーウィンは『人間の進化と性淘汰(1)』(The Descent of Man、邦訳は文一総合出版刊)において、「紛争時に互いを守るような……勇気があり共感的で信頼できるメンバーが多い集団」が進化において有利であるという説を唱えた。しかし、利他主義は遺伝的なものだとするこのような考えが公式に注目されることは、これまではほとんどなかった。その理由の一部は、石器時代に交戦していた集団間の遺伝的差異は小さいと考えられたからだ。

しかし、Bowles氏が2006年に発表した研究によると、今なお石器時代の生活を送る複数部族の遺伝子を分析したところ、集団間競争が遺伝子変化の原動力となるのに十分なほどの遺伝的多様性が認められたという。また、利他的行動を発現させるうえで、文化的な伝承が遺伝子より重要だとしても、Bowles氏の主張するダイナミクスは依然として成立する可能性がある。

同氏が石器時代の遺跡から見つかった考古学的資料を分析し、さらに現存する部族たちを対象に民俗誌的研究を行なったところ、集団間の戦闘は、狩猟採集社会における死因の約14%を占めることが判明した。このような、大規模な社会制度を持たない数十人の構成員からなる集団は、人類史の大半を通じて、共同体の主流の形式であり続けてきた。

Bowles氏は、「利他的行動を取ることによって個人が自らの子孫を残す機会が減る確率」を推定し、その数値を集団間競争のモデルに投入した。このモデルでは、個人の利他的行動が、集団が戦闘に勝利する可能性を高める役割も果たしていた。その結果、利他的な個人を擁する集団がやがて優勢となり、利他主義がその集団内で支配的となった。

「他の集団に対する殺意や敵意が、人間の集団内部における協力やサポートを支援した可能性がある」と、ロンドン大学の人類学者Ruth Mace氏は、この論文へのコメンタリーの中で書いている(同氏はこの研究には参加していない)。

むろん、Bowles氏の推論は多分に仮定の要素を含むものであり、また、戦いに参加するという選択は一見利他的でリスクを伴うが、他の報酬的要素、たとえば、戦利品にありつけるといったようなことが、リスクを乗り越えさせる力となっている可能性も考えられる。それでもBowles氏の説は、可能性として検討する価値のあるものといえるだろう。

参考論文: “Did Warfare Among Ancestral Hunter-Gatherers Affect the Evolution of Human Social Behaviors?” By Samuel Bowles. Science, Vol. 324 Issue 5932, May 5, 2009.

“Late Pleistocene Demography and the Appearance of Modern Human Behavior.” By Adam Powell, Stephen Shennan, Mark G. Thomas. Science, Vol. 324 Issue 5932, May 5, 2009.

“On Becoming Modern.” By Ruth Mace. Science, Vol. 324 Issue 5932, May 5, 2009.

[日本語版:ガリレオ-高橋朋子/合原弘子]

2009年8月31日月曜日

任意の確率分布に従う乱数


任意の確率分布に従って乱数を発生させる方法として,一般的に逆関数法と棄却法が用いられる.

以下に,Mathematicaで棄却法により(π/2)×sin(πx)に従う乱数の発生方法を記載する.

Clear[m, data1];
Clear[data1];
m = π/2;
f1[x_] := π/2 Sin[π x];
f2[x_, y_] := If[y < f1[x]/m, x];
data1 = DropNonNumeric[Table[f2[Random[], Random[]], {10000}]];
Histogram[data1]

Mathematicaでヒストグラムを作成する


Histgram

Mathematicaの使い方


■ 参考サイト

山口大学教育学部数理情報コースのページ
グラフの作成方法から簡単なプログラミングまで紹介されている.

2009年8月30日日曜日

Googleはなぜ「全自動化」できないサービスでは負けるのか?~後編~

GIGAZINEより

Googleにも失敗がある……それが「Google Answers」という実に4年間も続けられたサービス。成功よりも失敗の方が多く学べるというのであれば、この失敗には何か学ぶべきことがあるはずです。Googleの成功にばかり目を向けるより、時にはその失敗にも目を向けてみましょう。そこにはきっと何かヒントが隠されているはずです。

というわけで、先の記事「Googleはなぜ「全自動化」できないサービスでは負けるのか?~前編~」のつづきです。Google Answers失敗の理由の核心と、その失敗を分析して誕生したライバルの猛追、そしてGoogleの失敗から学ぶことは何か?を以下、順に見ていきます。


■Google Answers失敗の理由その3「コミュニティ作りが苦手」


意外かもしれませんが、Googleはコミュニティを作るのが苦手です。というか、ユーザーとコミュニケーションを積極的に行っているような印象はありますが、それはユーザーの方から自発的にGoogleと関わっているだけであって、Googleからユーザーに関わって来るというのは極めて珍しいのです。つまり、Googleは利用者から見れば、いじっておもしろい「おもちゃ」でしかない、それが現実です。

例えば、先日の支払い遅延の件に関して、Googleの自前で持っているコミュニティを見ると意外に閑散としています。そして、Googleからの関わりの形跡は皆無。場は提供するし、システムも出すが、そこからあとの肝心の部分、「コミュニティを育てる」という手腕はありません。Googleスタッフによるブログも山ほどありますが、コメントを付けられるようなものはどこにもありません。

また、Googleに質問メールを送信したことがある人はみんな知っていますが、返ってくるメールは基本的に全自動の紋切り型テンプレートによる冷たい回答ばかりで、明らかに人の手を介していると思われるメールを引き出すにはそれなりの手腕が必要です。

このあたり、マイクロソフトは異常なほどコミュニティ構築に熱心です。これはネットサービスをメインとするGoogleと、ソフトウェアをメインとするマイクロソフトの差によるもの。というのも、ソフトウェア開発とはいうまでもなくプログラミングであり、プログラミングには過去の先達たちの残した資料やデータは必須。また、開発中にわからないことがあれば、もう誰かに尋ねるしか方法は残されていないという場合も多々あります。誰にも尋ねることができずに無茶なスケジュールで開発が行き詰まり、デスマーチに突入というのも珍しくないはずです。そして、Linuxというコミュニティに危機感を抱いた本家マイクロソフトは、ウインドウズに関連する様々なデベロッパーに対し、ある時期から非常に密なコミュニケーションを取るようになりました。それが一番端的に表れているのが「Channel 9」というサイトで、マイクロソフトの開発関連の光景を毎回ムービーで見せてくれます。コメントも可能で、コミュニティなども併設されており、海外では超有名。

Channel 9(本家)
http://channel9.msdn.com/

Channel 9(日本語版)
http://channel9.msdn.com/tags/japan

このあたりの意気込みは以下の日本語版の玄関ページで確認できます。とにかく書いてあることがすごい。掲示板の運営方針とかああいうものをさらに突き詰めた感じです。

Channel 9 の基本方針

1. Channel 9 は会話をするための場所です。Channel 9 は、マイクロソフトとユーザーが本音で語れる場を設けることを目的としており、マーケティング ツール、PR ツール、リード ジェネレーション ツールのいずれでもありません。

2. ひとりの人間として。Channel 9 は、Channel 9 のチーム メンバが自分らしくあることができ、チームについて紹介し、チームがマイクロソフト ユーザーについて知るための場所です。

3. 人の意見に耳を傾けてください。他のユーザーの意見から学べることは大いにあります。過剰な自己防衛に走ったり、議論に持ち込むために反論したりするような行為は禁止しています。他のユーザーの意見にも耳を傾け、そこから学べることを吸収してください。

4. 適切な判断を。意見を述べる前に少し考えてみてください。固定概念を押し付けたり、負の状況を引き起こすだけの何のメリットもない発言が見られます。

5. Channel 9 ではマーケティング活動は行いません。Channel 9 への投資は、驚きと喜びを得るために行っていることで、宣伝活動のためではありません。

6. 公序良俗に反する発言は禁止しています。恒常的な変化の定着には時間がかかります。

7. 引き際を見極めてください。議論しても解決せず、問題を引き起こすだけの話題もあります。これは検閲制度とは無関係ですが、現代社会の公序良俗を保つために必要です。法律や財産に関する問題を持ち出しても、事態は何も変わりません。公序良俗に反し、サイトにアクセスしたユーザーを動揺させ、負の状況を引き起こすだけですので、そのような行為は慎んでください。

8. ばかなことはしないでください。意地悪な人を好む人はいません。

9. 会話に参加してください。忙しいという理由だけで他のユーザーの意見に耳を傾けるのをやめたり、他のユーザーの意見に賛同できないからといって、会話への参加をやめたりしないでください。人間関係を構築するには忍耐が必要です。長い時間をかけて人間関係を構築することで、業界全体がその恩恵を受けることができます。

なお、Channel 9日本版サポートブログ: 試験放送終了に向けてのお知らせによると、日本語版はまもなく終了してしまうようです。このあたり、あまりコミュニケーションを日本人が重視しない傾向が如実に出てきた形でしょうか。そういう意味では、あくまでも待ちに徹して黙々と提供のみを続けるGoogleのおもちゃ的スタンスは日本人好みである、と言えるかもしれません。

一方、海外の本家マイクロソフトは、マイクロソフトの中の人たちと直接チャットできるチャットルームも開設しています。

MSDN Online Chats

日本からでも一応、担当者に聞く方法が確保されています。

Ask The Experts! ~ その疑問、マイクロソフトの担当者にきいてみませんか ?

ブログも山ほどあり、どれもこれもコメントも可能。これは日本語によるマイクロソフトのブログでも基本は同じ。

MSDN Blogs - Blogs
http://blogs.msdn.com/

Googleもブログを持っていますが、コメントできません。これは日本語版でも本家版でも同じです。

Google Japan Blog
http://googlejapan.blogspot.com/

Official Google Blog
http://googleblog.blogspot.com/

そういう視点で見ると、本家マイクロソフトは自発的なコミュニティの形成にも寛容で、質問されたらヒントを与えるとか、ときには新製品の情報をリークすることもためらいません。求められれば可能な範囲でそれに応じるのがスタンスらしい。

これは最初からそうだったわけではなく、先ほどもちらっとふれたように、Linuxの脅威を自覚してから「あのような強力なコミュニティ形成が我々にも必要だ」ということで方向転換したわけです。それまでは、今のGoogleのようなスタンスでした。これは予想というか予感ですが、どこかの時点で、これまで無敵を誇ってきたGoogleに危機的状況が訪れたとき、その危機をGoogleが肌で自覚したとき、マイクロソフトと同じような方向転換を図るのではないかと思われます。

つまり、「Google Answers」のような人力を介するサービスでは、コミュニティをいかに育成していくかというのは至上命題なのですが、Googleにはまだそのノウハウがなく、そしてあまり積極的ではなかったため、せっかく優秀なリサーチャーを多く抱えながらも失敗という憂き目に遭遇した、というわけです。このあたり、日本では「価格.com」などがコミュニティの維持に心血を注いでいます。当たり前のことですが、コミュニティは全自動ではできあがらないのです。

■Google Answers失敗の理由その4「強力なライバルの出現、質より量」


最終的に「Google Answers」へ引導を渡したのは「Yahoo! Answers」の登場です。登場したのは2005年12月9日。これはGoogle Answersの抱えていた各種の問題をすべて分析して解決することで出現した驚愕のサービスです。既存の検索というジャンルでGoogleによってシェアを奪われたYahoo!が、Googleとの激しい戦いにおいて正面から戦いを仕掛けて勝利したという、いろいろな意味で考察に値する事例です。Googleマジックが衰え始めたといわれたのもちょうどこの時期。

まずYahoo! Answersは「無料」でした。また、キャンペーンも大々的に行い、「Ask the Planet」というイベントでは、世界で最も高いIQの持ち主からの質問とか、質問の商品がガソリン1年分とか、前副大統領ゴア氏の質問に回答すれば自動車がもらえる、などなどの有名人や豪華景品の提供などを行いました。例えば、以下の質問は実際にこのキャンペーンで行われたもので、インドのカラム大統領が「今後地球人口は80億になっていくわけだが、テロをなくし、自由な地球を実現するために、どのようなアイデアがありますか?」と質問しています。

Yahoo! Answers - What should we do to free our planet from terrorism?

これには当初、回答が7000件以上も殺到し、海外では圧倒的な注目を集めました。さらに理論物理学者のスティーブン・ホーキング氏が登場、「人類は次の100年を生き延びるにはどうすればいいのか」という質問を掲載。当時の回答は実に1万6000件以上になりました。

Yahoo! Answers - How can the human race survive the next hundred years?

こういう派手なイベントを通じて知名度の向上を図り、利用者を集めていったわけです。

さらに2006年8月15日にはAPIを外部の開発者に向けて開放。そして2006年12月4日、ユーザー数は6000万人に到達、回答数は実に1億6000万件。回答者も質問者も分け隔て無く利用できるという雰囲気作りに突き進んだ結果が如実に明暗を分けたわけです。ちなみにGoogle Answersの最終的なリサーチャー数は800人でした。勝てるわけがない。

この人数の差は非常に重要です。Yahoo! Answersの回答者は厳選された精鋭ではなかったのですが、無料だったために回答者の数が尋常ではないほど多い。そして、数が多いということは、必然的に回答が返ってくるまでの時間も短くなる可能性がある。また、回答の量が多いので必然的にピンからキリまで質はバラバラになるものの、確実にその中にはキラリと光る回答も出てくることになります。この「キラリ」の積み重ねが成功への要因でした。Googleが少数精鋭主義で質を保とうとしたのに対して、Yahoo!はみんなの叡智を結集させる方向(Web2.0的方向)で動き、そのために必要なコミュニティの育成と維持というものに全力を傾けたというわけです。数が多くなれば「悪貨が良貨を駆逐する」現象が起きるわけですが、そうはさせないようにするのがコミュニティの運営手腕なのです。まさにGoogleとは逆です。先ほども書いたように、全自動化できない「コミュニティ」という人間の関わるものについて、それまでYahoo!が培ってきたノウハウの差がモロに出たというわけです。

なお、コミュニケーションに関して、Yahoo!もマイクロソフトと同じようにすでに方向転換済みで、公式ブログではコメントが可能です。

Yahoo! Search blog
http://www.ysearchblog.com/

Yahoo! 360° - Yahoo! Answers Team Blog (answers.yahoo.com)
http://blog.360.yahoo.com/y_answrs_team

日本語版ではコメントはできないものの、トラックバックは可能です。Googleはトラックバックすら受け付けていません。

Yahoo!ブログ - Yahoo!検索 スタッフブログ
http://blogs.yahoo.co.jp/yjsearchblog/

この方針転換はGoogleに検索シェア1位を奪われてから始まりました。そして現在も続いています。ボコボコにされてもそこからすぐに立ち上がる行動を始めるあたり、見習うべきものは多いはずです。

B3 Annex: Yahoo!内部文書「ピーナッツバター宣言」
「Yahoo!の戦略は、私にしてみれば、オンライン世界に立ち現れ続ける無数のチャンスに対して、広くピーナッツバターを塗ることのように聞こえる。結果、私たちが行うすべての事柄に対して広く薄く投資が行われ、なんら特定のことにフォーカスしていないのが現状だ」


■Googleの失敗から学ぶこと


良くも悪くも、全自動化されたサービスでシェアを奪うことに成功したGoogleですが、全自動化以外のサービスという側面で見ると、成功した事例は皆無です。Googleのビジネス的成功というのは、通常は全自動化できないようなものを全自動化することによって価格を極端に引き下げて広告によって無料化するという手法で成立しており、あまりにもコストがかかるようなもの、あるいは手間暇がかかるもの、要するに自動化できないジャンルにおいては非常に不得意である、ということです。

つまり、Googleと競合するサービスを出す場合、この点が重要なのではないかと考えます。マイクロソフトは打倒Googleのため、新たに「Live Search」というものを開始しました。WindowsVistaもメッセンジャーも何もかも、新しいマイクロソフトの出してくるサービスはすべて、Googleを打破するために作られたと思われる方向性がそこかしこに感じられます。いつも業界の最後尾から先駆者の動きや出方をうかがい、そして分析し、一気に追いついて引き離すというのが常套手段のマイクロソフト。その手法は新しい動きがあってもすぐに追随するわけではないので「時代遅れ」「流行に敏感でない」「新しい動きを取り入れるのが遅い」「そんなもの当たるわけがない」などという批判を最初は受けるものの、最終的には勝利者を目指すためのものでした。

また、Googleはコミュニケーションが苦手らしいと書きましたが、さすがにGoogleもポツポツと活動を始めているようです。例えば、以下がGoogleグループで活動しているGoogleの中の人たちの一部です。こんなところでアナウンスとかしていたのですね、全然知らなかった。このあたりは広報活動においてYahoo!のような体制を整えるのが急務では?

Google ガイド

Google デスクトップガイド

Google ツールバーガイド(Firefox)

Google ツールバーガイド(IE)

AdSensePro(ほとんど活動してない)

Gmail ガイド(最近はがんばってる)

まだ手探りといった感じですが、どこかでブレイクスルーするのかも。

あと、実はGoogle Answersとは、Googleが一番最初に取り組んだ既存の検索以外のサービスであり、このアイディアを出したのはほかならぬ創業者のラリー・ページです。この失敗が後のいろいろなサービスに生かされるであろうことは想像に難くありません。

また、当時のリサーチャーたちの一部は今、新しいサービスを開始しています。

Welcome to uclue.com (beta)
http://uclue.com/

質問するのは無料、その際に報奨金を示す。結果的には回答があったら5ドル~250ドルを支払うらしい。リサーチャーが75%を、残りがuclue.comへ。

で、早速「どこがGoogle Answersと違うのか?」という質問が書き込まれています。

Question: How does Uclue compare to Google Answers?

これに対する回答としては、回答までの速度が素早いこと、反応が早いこと、クレジットカードだけでなくPayPalが使えること、前払い式であるということ、違法な質問・学生の論文代筆・試験への回答はしないがそれ以外はなんでも答える、英語以外にドイツ語やスペイン語も利用可能、回答に満足できなかったら返金可能、30日間回答がなかった場合も返金可能、だそうで。失敗から学んだ結果だとは思うのですが、成功するのでしょうかね、これ?

最後に、Google Answers閉鎖が決まってからもっとも注目された質問、「何が原因でGoogle Answersは閉鎖されるのか?」を見てみましょう。

Google Answers: What has happened to Answers?

・クレジットカード詐欺でゲットした番号の正当性を確認するためにGoogle Answersが使われていたため、くだらない質問が多発した

・検索エンジン対策のSEOを行うためだけに質問文にリンクを入れ、スパム的質問を行う業者がめちゃくちゃたくさんいた

・質問に回答するために多くの時間と手間が必要だったのにそれだけの報酬が提示されず、未解決の質問が山ほどたまっていた

・Googleのメインページからのリンクをはずされ、人が急激に減った

・とにかく過去ログ検索をせず、同じ質問が繰り返されつづけた、もう飽き飽きだ

そして、完全にコミュニティとして破綻してしまった、というわけです……。

参考程度に、現時点で「Google Answers」と同じようなことをしている国内のサービスを列挙しておきます。生き残るのは、どこでしょうかね……。

Googleはなぜ「全自動化」できないサービスでは負けるのか?~前編~

GIGAZINEより

Googleは勝ち組の企業です、疑う余地はありません。だがそのサービスの歴史を見ると、実は敗北しているサービスも存在しています。つまり、競合他社に負けたサービス。その名は「Google Answers」……膨大なインデックスを持ち、全自動で検索結果をはじき出すGoogleの既存モデルの穴を埋める形で始まった究極の「人力検索」です。

Google Answersでは、検索してもわからないようなものすごくマニアックな質問が可能で、Googleが認定した調査スペシャリスト「リサーチャー」たちがあらゆる場所から情報を検索、さらに持てる限りの知識で回答してくれるという、はっきりいって個人的には日本語版が一番欲しかったサービスとなっていました。ジャンルも幅広く、「アート・エンターテイメント」「教育・ニュース」「ビジネスとお金」「政治と社会」「コンピュータ」「科学」「生活」「スポーツ・レジャー」「健康」といった感じ。

また、海外では有名でしたが、「人類の叡智の結晶」と絶賛された伝説的回答「1ガロンの石油に恐竜は何匹いるのか」「電子レンジにハエを入れて1分間チンしたが生きていた、なぜだ」「エアコンから排出される水は飲んでも大丈夫か?」「Google本社から煙が見える。火事なのか?助けに行った方がいいか?」などといったものが存在しており、様々なサービスをこれでもかと爆発的に送り出していた時期には「さすがGoogleだ」と言わしめるほどのハイクオリティなレベルのサービスでした。

では、なぜ失敗したのでしょうか?そこを調べると、Googleが勝利するための方程式が「全自動化」にあり、全自動化できないときは失敗することがわかります。

以下、Googleのビジネスモデル「無料」を支える根本原理「全自動化」と、失敗の理由について、各種資料を交えながらひもといていきます。


■Google Answers失敗の理由その1「有料だった」


Googleの提供するサービスは基本的に無料です。それも「有料と同レベルかそれ以上のものを実質無料で提供する」というスタイルです。実はこのスタイルはGoogleが作ったわけではなく、マイクロソフトが最初に実行したスタイルです。マイクロソフトはインターネットのホームページを見る「ブラウザ」において、ライバルのブラウザであり9割のシェアを占めていた「ネットスケープ」をたたきつぶすために、有料だったネットスケープとは逆の戦略、最初から無料で「Internet Explorer」をウインドウズにくっつけて、その牙城を崩したわけです。Googleもやっていることは基本的に同じです。アクセス解析サービスの「Google Analytics」はもともと「企業向けアクセス解析ソフトUrchin(アーチン)」というめちゃくちゃ値段の高いアクセス解析ソフトウェアで、これが今では1ヶ月500万ページビューまでは無料です。

ところが、人力検索サービス「Google Answers」は有料でした。2002年4月18日にベータテストが開始され、当時の報道によると1回あたりの質問料は0.5ドル。回答への報酬は2~200ドル。4分の3はリサーチャーへ、4分の1はGoogleにサポート料として流れるモデルです。質問には回答時間と報酬が設定可能なのですが、これがクセモノ。値段を低く、あるいは回答までの時間を短く設定すると、いい回答が得られる確率が下がってしまうわけです。このあたりは手動であるがゆえの限界でした。当時の標語はこんな感じ。

Ask a question. Set your price. Get your answer.
(尋ねよ。そして値を決めよ。されば良き回答が得られん)


もちろんGoogleもただ手をこまねいて見ているだけではなく、様々な質を向上させる工夫を自分たちの検索エンジンに加えたのと同じようにして実行しました。リサーチャーの質を上げるため、雇う際には「なぜGoogle Answersのリサーチャーになりたいのか」という文章を書かせ、さらに指定時間内に10個の質問を課してそれに的確に回答できた者だけをリサーチャーとして任命。さらに回答の質が低いと依頼者が判断すると、カカクコムやヤフーオークションのような評価システムによって評価が下がります。評価が一定以下になるとクビ。それだけでなく抜き打ち試験も実施してリサーチャーの質の確保を怠りませんでした。

つまり、回答者の質は低くなかったのです。むしろ質は極めて高かった。それが証拠に、Google Answersの閉鎖アナウンスが告知されたとき、Yahoo!が2005年12月9日から提供していた同様のサービス「Yahoo!Answers」はこの解雇されてしまうリサーチャーたちに「我々のところへ来てください!」と歓迎の意向を示しました。

でも、Googleの場合、やはり有料だと採算が合わなかったのです。全自動化することのメリットは人件費の節約だけでなく、コストを可視化できる点にあります。これは予算計上とかの経験がある人には自明の理ですが、人件費はとにかくあらゆるコストの変動源であり、発生源であり、不確定要素です。有料でサービスを提供するためには不確定要素を可能な限り減らす必要があるのに、「Google Answers」はその逆だったというわけです。

この点を反省し、2007年2月22日から始まった有料サービスである「Google Apps Premier Edition」は全自動化されたシステムとなっています。1アカウントあたり年6000円。

Google アプリ 企業向け

サポートが付くそうですが、それも定型メールを送る全自動なのでしょうか?気になるところです。

■Google Answers失敗の理由その2「手動の限界、それは時間と手間」


Google Answersは過去の質問は無料で検索が可能でした。つまり、誰かが過去に同じような質問をしたのであればお金を払う必要はありませんでした。これもまずかった。せっかくの貴重な積み重ねである過去ログデータベースをだだ漏れで利用可能にしていたわけです。このあたりはGoogleの「なんでも無料で提供するよ!」というスタンスと、自前の全自動検索技術による的確な全自動過去ログ検索が皮肉にも足を引っ張る形になりました。なのに、その割には利用されていなかったため、同じ質問が繰り返されるという悪循環に突入していたのです。

また、所詮は人間が代わりに検索するというのが基本的なスタイルなので、時間がかかります。時間がかかるとそれだけ支払うお金も増えます。なので、Googleの誇る全自動検索エンジンに勝てるだけの回答を出すためにはさらなる「時間と手間」が必要だったわけです。

しかし、そこまでのクオリティを求める人はあまり多くなかった。さらにそうやって得られた貴重な回答が無料で後から来た人には検索可能となっているわけですから、最初に価値ある質問をした人にみんなただ乗りすることになるわけです。これも失速の原因になりました。

こうなると、次に起きるのは「コミュニティの崩壊」です。