2010年3月13日土曜日

DSi「うごメモ」の大人にはわからない魅力

新清士のゲームスクランブル

 今年に入ってから、筆者の5歳の娘が「ニンテンドーDSi」に熱中し始めた。遊んでいるのは「うごくメモ帳(うごメモ)」。DSiの向けのソフトウエアのダウンロードサービスが昨年12月24日に開始され、無料で提供されているタイトルだ。大したことのない中身だと思っていたのだが、その第一印象は家族によって完全に覆された。子供向けUGC(User Generated Content)環境として圧倒的なパワーを見せたのだ。(新清士のゲームスクランブル)

■すぐに飽きると思ったが・・・

 「ニンテンドーDS」がバージョンアップしたDSiには、任天堂らしい写真や音で遊べる新機能が追加されたが、子どもたちはすぐに飽きるだろうと筆者は予想していた。果たして、その通り、購入後しばらくすると遊ばれなくなった。DSiは、しばらく置き物になるかと思っていた。

 うごメモは、音声入りのパラパラ漫画のような動画を作ることのできるソフトだが、率直にいって面白そうには見えなかった。そのため、筆者はダウンロードすらしてなかったのだが、小学5年生の息子が雑誌から情報を仕入れ、知らない間にインストールしたようだ。

 それで実際に触ってみたのだが、やはりピンとこなかった。タッチペンで描ける絵は表現力が低く、色数も少ない。

 ところが、2カ月半が過ぎた今も、我が家ではほぼ毎日「うごメモ」が起動されている。

■小学生版「ニコニコ動画」

 うごメモで作った動画は、はてなのサービス「うごメモシアター」を通じて、インターネット上のサーバーにアップロードして他のユーザーに見せることができる。もちろん、他のユーザーの動画も簡単に見ることができる。それがユーザーの客層にマッチする形で、小学生版の「ニコニコ動画」として見る間に急成長していった。その発展プロセスには驚かされた。

 息子と娘は、とにかくいろいろな動画を見ながらげらげら笑っているのだが、私には笑えるギャグになっていないと思うものばかりだ。音声を倍速で再生する機能があるので、それだけでも笑っている。小学生以下でないと笑えない動画があるということに気が付いた。彼らは、私が「YouTube」や「ニコニコ動画」などの動画サイトを見るのと同じ感覚で、うごメモで面白いものを探している。

 一方で、作ることにも、兄妹とも熱中し始めた。

 任天堂の企画力に脱帽せざるを得なかったのが、5歳児がきちんとした説明なしに使えてしまうインターフェースのわかりやすさである。パラパラ漫画を作る楽しさを知った娘の熱中ぶりはすごく、音声まで自分で付けて簡単なストーリーのある動画を作ってしまった。

 びっくりしたのは、音声を重ね合わせるような複雑な機能も使いこなしている点だ。インターフェースがそぎ落とされているから、わかりやすいのだろう。

■投稿に反響なく泣き出す息子

 投稿された動画のなかからはすでに人気キャラクターも生まれ、我が家でも頻繁に閲覧している。代表格はハンドル名「たぁくみ」さんが作り続けている「ボウニンゲン」シリーズだ。内容はボウニンゲンがハエやガビョウなど、意味のないものと対決して、大抵は負けてしまうという30秒ほどのギャク動画。コミカルで大人でも笑える。

 このシリーズは、うごメモの「総合作品ランキング」(開始以降の全期間)で、トップ9を独占しているという驚異的な人気だ。

 作者がどのような人なのかまったく背景はわからないが、ただの素人には見えない。ただ、玄人臭くない感じもあり、その辺が人気の秘密なのだろう。

 息子も、娘に負けじと様々なものを作って投稿している。まず、このたぁくみさんの作風を真似るようなところから始めているが、所詮は小学5年生。出来はすごくいいとまでは言えない。何を表現したいのかもわかりにくいし、展開も支離滅裂。自分が同じ年齢の頃には、そんなものだっただろうと思う。出来はともかく、本人は何時間も熱中して完成させ、何本もアップロードする。

 自分の動画の評価は、動画を見た人がボタンを押すことで獲得できる「スター」によって知ることができる。ところが、息子の動画には当然、反響がほとんどない。評価が戻ってこないことがフラストレーションになる。あまりにも評価が伸びないので、ある日にはとうとう泣き出した。日本全国に同じような悩みを抱えている小学生がいるだろうと、私は想像した。

■コミュニティーの設計に問題

 そうなっている原因は、「動画の供給過剰」と「評価軸の少なさ」にある。

 投稿があまりにも簡単なため、作品数が増えて供給過剰の状態になっている。正確な投稿数は不明だが、動画にはそれぞれIDが付与され、それが投稿データ数に近い数字だと推測できる。はてなは1月8日付で投稿数が10万件を超えたと発表しているが、現在ではIDベースで80万件を超えており、1週間で3万件以上と増加のペースは加速している。


 逆に、たぁくみさんのように一度人気作者になった人には、正のフィードバックが強烈にかかる仕組みになっている。同じ作者が投稿した作品の検索は容易なため、他の作品も閲覧されて評価が上がっていく。結果として、現在のような独占状況が起きている。このあたりは、システム全体の設計のミスであろう。 一方で、それらを閲覧する場合、DSi上では「新着」「人気」しかカテゴリーがない。そのため、新規に投稿した動画は、最初の段階で人気が集まらないとすぐに膨大な動画の中に埋もれてしまい、二度と見てもらえなくなる。

 当然、このままではコミュニティーがあっという間に成熟してしまう。はてなも改善に力を入れており、パソコンからも見ることができる「うごメモはてな」では、様々なカテゴリーを作って、過度な集中を分散させようとしている。

■スター獲得に奥さんも挑戦

 我が家ではついに、奥さんまでが挑戦してみることになった。真剣に作ってもスターを獲得できないのかどうか、知りたくなったようだ。

 UGCサイトで人気を得るには、コツがある。簡単なのは、みんなが見知っているものを使うことだ。そこで、すでに他の作者がアップしていた作品を改造する形で、マリオが実はマクドナルドのキャラクターだったというパロディーを数日間もかけて必死に作成し、つい先日アップした。

 果たして、投稿したその動画はスターを3400個も獲得し、閲覧数も8000回を超えるまずまずの結果となった。作者ランキングも2月は3000位あたりだったのだが、直近のランキングでは、300位にまで急上昇した。スターを獲得して、奥さんと息子は満足そうである。まだ、我が家のブームは終わりそうにない。

 しかし、このスターは、いくら獲得したところで経済的な意味は何一つない。心理的な充足も、ランキングが再び落ちてくれば、果たして続くかどうか疑問だ。にも関わらず、この2カ月半の間、我が家はうごメモのスターに振り回される生活が続いている。

 これは、無意味なものでも、それに序列や損得の概念が入ってきたときに、意味を感じてしまう人間の脳の“癖”が引き起こす。この脳の癖を利用したサービスを、うごメモのスターをもじって「スター経済」と呼ぶ人も現れた。次回は、このロジックがゲームの様々な場面に浸透しようとしている状況を報告する。

・うごメモはてな
http://ugomemo.hatena.ne.jp/