2010年9月21日火曜日

ネットは人間を追い詰める

産経ニュース(2010.9.21)

情報環境が急激に変化している今、ネットの普及とさまざまな新しいデジタルテクノロジーの進化によって、ツイッターのような新しいツールや、スマートフォン、iPad(アイパッド)といったデバイスも次々に登場してきました。それによってわれわれのライフスタイルは大きく影響を受けています。
 デジタルテクノロジーの進化はあなたの生活を豊かにしてくれるものであり、社会の発展には必要不可欠だと思いますか? こんな質問をすればおそらくほとんどの人は“YES”と答えるでしょう。
 これらの新しい技術が、アナログの時代には考えられなかったさまざまなことを可能にしてくれました。もし、今ネットが急になくなったら、われわれの生活は大きな制約を受けることになるでしょう。
 でも最近ふと、ネットや携帯の存在が本当に私を豊かに幸せにしてくれているのだろうか? と考えてしまうことがよくあります。
 
「ツイート」でバレた
 先日こんなことがありました。とある金曜日の午後8時、会社のサマーパーティーにタクシーで向かう途中の私の携帯に、進行中のプロジェクトのパートナーである広告会社の担当部長から連絡が入り、どうしても翌日の午前中までにある提案資料を作って送ってほしいというのです。

 彼が要望してきた提案書は、彼自身も同意した上で、翌週の水曜日にクライントに提出する予定になっていて、月曜日にメンバー全員でブレストをして火曜日に書面に落とすスケジュールを組んでいました。しかし、広告会社側の都合でどうしても土曜日の午前中にアウトラインだけでも欲しいというのです。金曜日の夜に、全社員が参加するパーティーを中止してまで、彼の理不尽なリクエストに応える必要があるとも思えず、かといって社内行事という本当の理由で納得してもらうのも難しそうだったので、クライアントとの会食と説明して断りました。
 彼は非常に不満そうでしたが何とか翌日の提出をあきらめてもらうことができました。
 しかし、翌日の土曜日の午後、私のPCに彼から怒りのメールが届いたのです。
 “社内パーティーを優先して、自分のリクエストを断るとは何事だ。至急メンバーを招集して、絶対に今日中に書類を送れ”という内容でした。
 なぜ、彼に昨夜が社内パーティーだったとわかったのだろう?
 するととっさにある一つの可能性が脳裏に浮かび、愛読している友人のネットマーケッターのツイッターにアクセスしてみました。やはり思った通りそこには“偶然インテグレートのサマーパーティーで藤田氏と遭遇、合流なう”というツイート(書き込み)がしっかり残っていました。
 実はその友人のネットマーケッターとパーティーのお店で偶然一緒になり、彼も急遽(きゅうきょ)ジョインして大いに盛り上がったのです。

 でも、彼のツイッターがマーケティング関係者のフォロワーが多いことをすっかり忘れていたのです。というよりツイッターの本当の怖さに何一つ気づいていなかったのかもしれません。彼は何の悪気もなく、全くの事実通り、一つのトピックスとしてつぶやいたに過ぎません。広告会社の部長本人がそのフォロワーだったのか、あるいは彼の部下が読んだのかは分かりませんが、間違いなくそのツイートから、うそがバレてしまったのです。
 
自由な時間は消えた
 このケースにはネットの登場以前には起こりえなかった幾つかの事象が、象徴的に含まれています。
 携帯とネットがない時代は、金曜日の夕方会社を出てから、月曜日の朝出社するまでは、誰からも邪魔されない完全に自由な時間を皆が持つことができました。
 しかし、携帯が登場して金曜日の夜にも、理不尽な要求をすることも受けることも可能になってしまいました。きっと携帯の登場以前なら広告会社の部長も金曜日の夜に私を捕まえようなどと考えつくこともなく、お互いゆっくりとした週末をおくっていたに違いありません。
 デジタルテクノロジーは時間と空間を越えて人と人をつなぐことができるという素晴らしい力がある半面、常時追跡して拘束するという、人間にとって恐怖以外の何物でもない、監視行動も可能にしてしまいました。

 そして、友人のツイッターに情報が漏洩(ろうえい)してしまったということで言えば、個人のプライバシーと自由が、ネットの登場で、ナチスの秘密警察や旧ソ連のKGBなどとは比べ物にならないレベルで、管理され、のぞき見されているかもしれない恐怖にさらされているといえるでしょう。
 以前グーグルのストリートビューが論議を巻き起こしたように、ネットの存在により、常に誰かの目を気にして生きていかなければならないという、重くるしい空気が社会全体に蔓延(まんえん)してしまっているのも事実です。
 いつも誰かに追いかけられて、誰かに監視されているという感覚は、われわれに極度のストレスを長期的に与え続けて、精神的にも肉体的にも大きなダメージを受けてしまいます。
 本当はネットは社会を豊かにするものではなく、人間を追い詰め、いつか社会を破滅させてしまうのではないだろうか? 最近真剣にそんなことを考えてしまうことが少なくありません。
 そんなネットの登場により起こっている、マーケティングのさまざまな変化をこれからお伝えしていこうと思っています。

インテグレート代表取締役CEO 藤田康人