2013年8月23日金曜日

ホンダ 大型バイク「NC700X」 「みんなが反対することをやりたい」 フィット真っ二つエンジンで低燃費を実現 青木柾憲さん(本田技術研究所 上席研究員)

WEDGE(2013.8.15)

求めやすい価格や高い燃費性能、さらに乗りやすさなどが評価され、2012年度には排気量401cc以上の大型バイク市場で米国のライバル社を抑えてトップになった。派生モデルを含む同年度の販売台数は約5100台と、目標の3500台も大きく上回っている。

 価格は64万円台からで、12年2月の発売時はホンダの400cc級の製品よりも安く、バイクファンを驚かせた。開発の指揮を執ったのはホンダの研究開発部門である本田技術研究所の二輪R&Dセンター上席研究員、青木柾憲(58歳)。入社以来、米国の研究所勤務時代も含めバイク開発一筋であり、責任者として手掛けたモデルだけでざっと20台に及ぶ。数々のヒット車を生み出したベテラン技術者だ。

 青木に開発の指示があったのは08年3月。いわゆるナナハン(排気量750cc)級で既存車より30%のコスト削減を図るという内容だった。トップメーカーとして、国内バイク市場の長期低迷に何とか手を打ちたい、という狙いがあった。排気量251cc以上の中型・大型車の市場は1980年代半ばに15万台規模だったのが、08年には3分の1まで縮小していた。

 需要が縮むので量産効果が薄れて価格は上昇、するとユーザー離れが加速―といった負のスパイラルを断つため、コストからアプローチしようというわけだ。しかし、これほど具体性に欠ける開発方針は、ホンダでも異例だったという。

 そこは百戦錬磨の青木。「コストさえ下げれば何をやってもいいのだろう」と解釈し、プロジェクトを立ち上げた。「好きにさせてもらう、という感じですよ」と、青木は悪戯っぽく笑う。とはいえ、数十人の技術者が参画するプロジェクトだけに、「コスト低減」だけではベクトルは定まらない。自由度が高いと、逆に目指す製品像がなかなか見えて来ないのだった。青木には「好きにできるというのに、多くのメンバーが既成概念に縛られている」と映った。

 前に進めるため、青木は同年7月に北海道の自社テストコースにメンバー30人余りを集めて合宿した。500~800cc級の国内外のバイク14台を用意し、各人が乗り比べたのだ。ひと晩だけは全員集合して夕食を兼ねたミーティングを開き、さまざまな意見をぶつけ合った。

 これにより、トップの燃費性能をめざすこと、高速のみならず日常の走りも楽しくなるエンジン特性の確保といった大まかな方向性が固まり、開発メンバー間の意思疎通も少し深まった。それでもカチッとした製品コンセプトを固めるには至らなかった。

眠れぬほど気になった居酒屋で出た意見
 ある日、青木がメンバーと居酒屋で意見を交わしていた時だった。心臓部のエンジンを担当する主任研究員の山本俊朗が「フィットの1.3リットルのエンジンをパカッと切って半分にしたら、燃費のいいのができる」と話した。最初は「酔った勢いの発言」と受け流していた青木だが、その夜、眠れないほど引っ掛かった。結局、翌日には山本に半分に切ったエンジン開発を指示した。

 「NC700X」のエンジンが直列2気筒670ccとなったのは、実際に同社のベストセラー乗用車「フィット」の低燃費エンジンをモデルにしたからだ。直列4気筒を2気筒にし、シリンダ(燃焼室)径などはそのまま踏襲した。ただし、バイクのエンジンなので2つの燃焼室での爆発タイミングを故意にずらすよう味付けをした。バイク用語では「鼓動感」と呼ぶそうだが、「ドドッ、ドドッ」と独特のリズムを奏でるようにしている。

 燃費は1リットルで41キロ(時速60キロ定地走行)と、400cc級にも勝るレベルを実現した。エンジンの最高回転は毎分6400回転と、このクラスでは1万回転以上が当たり前だったホンダのバイク用エンジンとは全く素性の異なるものができた。回転を抑制することで低中速域から十分なトルク(回転力)が得られるので、多くのユーザーから「乗りやすいのに加速感も十分」との評価を得ることにつながった。

 もっとも大型用のエンジンとしては型破りなので、青木は社内の酷評を覚悟していた。それを克服して商品化に進むには、実際に乗ってもらうことだった。09年の夏、役員も交えた開発中のバイクの試乗検討会が北海道で行われた。ホンダの役員は全員大型バイクを操ることができるが、とくに社長の伊東孝紳はバイクが大好きで、しっかりした評価軸ももつ。数々の試乗車から伊東が最高の評価を与えたのは、青木チームのバイクであり、事実上の商品化ゴーサインとなった。

 そもそもの課題であったコストは、国内で生産するだけに厳しかったものの、材料歩留まりを高める新工法など日本ならではのアプローチを進めた。

 同時に、アジアを中心にホンダの海外工場に納入するサプライヤーからも部品を調達、海外部品比率を4割程度にすることで目標に到達させた。

 速射砲のように繰り出される青木の話は愉快で、相手を飽きさせない。印象的だったのは、「みんなが反対するのは、既成概念をはみ出しているから。むしろそこにヒットの可能性がある。だから私はみんなが反対することをやりたい」。さらに「最大の敵は、前例のないことを否定する社内の壁」とも言い切る。ホンダには貴重な、尖った理念をもつエンジニアでもある。(敬称略)

■メイキング オブ ヒットメーカー 青木柾憲(あおき・まさのり)さん 本田技術研究所 上席研究員
1954年生まれ
長野県長野市生まれ。幼稚園の時分に音楽に目覚め、中学2年までピアノ教室に足しげく通った音楽少年であった。県立長野高校へ進学し、軽音楽部でキーボードを担当した。高校1年時に二輪免許を取得。
1974年(19歳)
電気通信大学工学部機械工学科へ進学し、吉祥寺で一人暮らしを始める。いわゆる貧乏学生で、バイクとは無縁の生活を過ごした。趣味の音楽では、作曲活動なども行い、ラジオに投稿した自作の曲が放送されることもあった。就職活動では音楽活動をウリにした。
1978年(23歳)
ホンダに入社。「クルマよりバイクのほうが技術者の裁量が大きく、全部作れそう」とバイク部門を希望。念願叶って、2年目に埼玉県朝霞市にある現在の二輪R&Dセンターに配属となった。93~96年の米国カリフォルニア州駐在を除けば、一貫して朝霞で働いた。
2003年(48歳)
03年から開発責任者を離れ、コスト企画や小型バイクなどの管理業務を担当した時期もあった。だが、「マネジメント業務は性に合わない。開発責任者への復帰を熱烈に希望した」甲斐もあり、06年に天職である開発責任者へ戻った。自宅にはグランドピアノが2台ある。「音楽もバイクも良いモノを作りたいという私の欲求を満たしてくれるという点で同じ」という。



“LINE疲れ”に陥る学生たち 「返信は義務」80%…既読機能が苦痛

SankeiBiz(2013.8.23)

便利なコミュニケーションツールとして利用者が増え続けている「LINE」。7月には、サービス開始からわずか2年で世界の利用者が2億人を突破した。無料に加え、大勢の仲間と同時に通話やメッセージのやり取りができることから、大学生には必須アイテムだ。ところが、相手にメッセージを読んだことを伝える「既読」表示機能が、精神的なプレッシャーとなるなど、“LINE疲れ”に悩む学生が少なくないという。関西大学総合情報学部・谷本奈穂ゼミの有志学生記者たちが、キャンパスのLINE事情をリポートする。

 LINEは、24時間いつでもどこでも、無料で通話やメッセージのやり取りができるコミュニケーションアプリである。世界231カ国で使われ、登録ユーザー数は現在も破竹の勢いで増え続けている。LINEには、送られてきたメッセージを開くと「既読」というマークが相手に表示される機能がある。東日本大震災などの災害を教訓に、災害時に家族や友人の安否確認をできるようにするために導入されたそうだ。

 ところが、この便利な機能が想定外の問題をもたらしている。メッセージを開くと、相手に「既読」が伝わるため、そのまま何も返信しないと相手が気分を害するのではないかと、プレッシャーに感じる学生が少なくないというのだ。実際、それがきっかけで、信頼関係が失われたり、関係が悪くなったりし、いじめにまで発展したというケースもあるという。最近は、「既読」が表示されないようにするアプリまで登場しており、多くの利用者が「既読」機能に苦痛を感じているのである。

 頻繁なメッセージ通知や既読への対応…。“LINE疲れ”の実態を調べるため、関西大学のキャンパスで6月に100人の学生を対象としたアンケートを行った。まず、「LINEを使用していますか」との質問に、「使用している」と答えた学生は実に98%を占めた。「使用している」と答えた学生に対して、「LINEの既読が気になりますか」と尋ねたところ、「気になる」と回答した学生が76%に上り、「気にならない」の24%の3倍という結果になった。

 「既読機能があるため、相手に返信しなければならないと思いますか」との質問には、「思う」と回答した学生が80%を占めた。「既読が気になる」との回答数を上回っており、気にはならなくても、返信が「ほぼ義務」となっている実態が浮かび上がってきた。アンケートを通じて、“LINE疲れ”を感じているという学生数人にインタビューをすることができた。

 LINE疲れの原因として、ある学生は、「LINEを使ってグループで何かを決める際に、全員の既読がつかない時や、既読をつけているにもかかわらず返信をしてくれない時に、非常にストレスや疲れを感じてしまいます」と答えてくれた。「通知を押してトーク画面を開くと、既読がついてしまい、その時は忙しくて返信できない状況でも、すぐに返信しなければいけないと思ってしまいます」と話す学生もいた。

 さらに別の学生は「グループ間で連絡を取り合う際、既読は何人と表示されるだけなので、誰が連絡を見ていて、誰が連絡を見ていないのか、分からない。全員の既読が表示されないと、話が前に進まない時があります」と、具体的な実例を挙げてくれた。




2013年8月20日火曜日

経営悪化のグリー、任天堂のパクリゲーを次々と配信中止に

きま速(2013.8.20)

今回グリーは、巨額の特別損失を計上し、ソフトの開発中止やサービス中止しました。それらの中止ソフトから、これまでのグリーの必勝パターンが崩れていることが見えてきます。かつて、グリーの田中社長は、「あるゲームが流行ったら、同じようなものを作りまくるべき」と言ってのけました。

「あるゲームが流行ったら、同じようなものを作りまくるべき」
http://news.livedoor.com/article/detail/5864856/

このパクリ上等発言は、かなり物議をかもしまして、実際にパクリゲームを連発するグリーに、憤る声も多かったのです。

「GREEのゲームはパクリだらけ? そんな疑惑ゲーム一覧」
http://getnews.jp/archives/115930

しかし、やはりそんなパクリゲームは長続きしませんでした。上記の記事に取り上げられた、『ラブプラス』のパクリである「ヒメこい」、『けいおん』のパクリである「いもこい」、『魔法少女まどか☆マギカ』のパクリである「契約魔法少女」は、いずれも1年経たずサービスを停止しました。

そして今期、特別損失として計上されたソフト郡を見ると、数々のパクリシリーズが相次いでサービス中止になったのです。

●『マリオカート』をパクッたように見える「Wacky Motors」
http://jp.product.gree.net/wacky/motors/ 8月28日サービス終了

●『nintendogs』をパクッたようにしか見えない「ともだち☆ドッグス」
http://jp.product.gree.net/dogs/ 8月12日サービス終了

●『ポケットモンスター』をパクッたとしか思えない「MONPLA SMASH」
http://jp.product.gree.net/monpla/smash/ 8月28日サービス終了

任天堂関係では、「おいでよ、どうぶつの森」をパクッた感じの「どうぶつフレンズ」が、まだ生き残っています。これまでの成功パターンが崩れたグリー。これからの展開はどうなるのでしょうか?事業計画が公開されてないため、どうなるか予断を許しません。もし、懲りずに『パズル&ドラゴンズ』のパクリソフトが出たら、また取り上げたいと思います。

「稼ぐアイデア増産」の集中テクニック

PRESIDENT(2013.8.19)

日本を代表するクリエーター「佐藤可士和」の名前は知らなくても、彼のデザインした広告や企業のロゴを目にしたことのない人はいないだろう。クライアントと目指す方向を探り、「これしかない」というデザインに落とし込む。その手腕は、ファーストリテイリングの柳井正氏、セブン&アイの鈴木敏文氏、楽天の三木谷浩史氏など、多くの著名経営者から厚い信頼を得ている。ユニクロのロゴ制作から幼稚園・病院のプロデュースまで、仕事の幅は広い。

多忙を極める佐藤氏だが、スケジュール管理は主に、妻でマネジャーの佐藤悦子氏が行い、可士和氏自身は手帳を持たない。

「基本的にいつも手ぶらです。持ち歩くのは携帯電話とカギと小銭、カードケースくらい。最近はこれにiPadが加わりました」

スケジュールはウェブ上のカレンダーでスタッフと共有し、常に数カ月先まで確認。大小あわせて約30本のプロジェクトを抱える状態だ。スケジュールは変更になることも多いため、ウェブで常にチェックしている。時間の使い方についてどのように考えているのだろうか。

「複数のプロジェクトを同時並行していると、やることが多くて焦ってくる。でもそこでちょこまかと手をつけても、効率は上がらない」(可士和氏)

それなら「目の前のことに集中する」と決めたほうがいい。

「クリエーションに関しては、大事なのはかけた時間の長さではなく、どれだけ深く集中できるかが勝負。毎日1時間×3日よりも、3時間まとめてバシッとやったほうがよかったりする。僕の場合、時間管理は集中するためのメンタルのコントロールに直結しています」(可士和氏)

もともと集中するために頭のスイッチを切り替えるのは得意という可士和氏だが、妻の悦子氏によるスケジュールの組み方に助けられている部分も大きい。

「佐藤はすごく集中力がある。本人曰く『狂った集中力』(笑)。だからといって大きなプロジェクトの大詰めで、急に1時間空いたから、全く別の新しいことを考えるのは無理。だから佐藤の頭の空き具合を計算する。いま彼が何に気持ちを奪われているのか、『脳内視野』がどうなっているかを考えてスケジュールを組んでいます」(悦子氏)

可士和氏のアートディレクションは、企業や組織のトップと1対1で会話を重ね、問題点や狙いを整理することから始まる。


「セブン&アイの場合は、広告のこともお店のこともあるけれど、まずはプライベートブランドから着手しようということになり、新しいロゴマークを作りました。最初から鈴木会長に『ロゴをつくってほしい』という言い方をされたわけではありません。頼まれたのは『セブン-イレブンをよくしてほしい』ということだけ」(可士和氏)

抽象的で漠然としたリクエスト。しかしこのような頼み方はユニクロの場合も同様で、柳井会長からの依頼は「世界戦略をやってくれ」の一言だった。

可士和氏はそんなとき「何をすればいいですか」とは聞かない。それを考えることが仕事だからだ。大きなプロジェクトではデザインに着手するのは最後の最後。経営戦略を考えるコンサルタントのように、何をすべきか考えるところから仕事が始まる。そのために必要なのが徹底的な対話だ。セブン-イレブンのときは上層部とだけでも30回以上ミーティングを重ねた。

「ミーティングというより僕がインタビューをする感じです。日本経済についてなど、大きな視野の話もする。鈴木会長に『コンビニは将来の社会にとって、どういうものになるんですか』という質問を投げかけたりもします」(可士和氏)

このような視野の大きな話から入るのは遠回りのような気もするが、可士和氏はそれを真っ向から否定する。

「それが1番の近道。人間は話すことで思考や情報が整理されます。鈴木会長も僕との対話の中でセブン-イレブンの40年の歴史を振り返ったりしているはず。対話を重ねると何をすべきかというゴールが見えてくる。ゴールの設定をすることは非常に重要。どこに行くべきかを共有することこそ、本当の意味でのクリエーティブな作業です。仕事がなかなかうまくいかない人は、ゴールが見えないまま走り始めてしまっているのかもしれませんね」


「経営者と話すことが1番大事」と断言する可士和氏。しかし大企業トップと引く手あまたのクリエーター同士では、頻繁にミーティングの時間を持つのは難しい。そこで悦子氏が考案したのが、「時間割方式」とでもいうべき方法だ。

「長期にわたってお仕事をさせていただく企業トップとのミーティングは、週1回とか月2回とか、ミーティングの曜日と時間を決めて定例にしています。テレビ番組表のように。そのほうがかえって時間をとりやすい。何曜日の何時と1度決めたら、急ぎの確認事項がなくても、その時間は必ずお会いするようにしています。雑談をするだけでも、そこからアイデアが生まれることもあります」(悦子氏)

人と会う予定は火・水・木・金に入れ、月曜日は「デザインデー」として空けておく。可士和氏がクリエーティブな作業に集中するためだ。悦子氏は言う。

「放っておくとどんどん埋まってしまうのですが、クオリティを維持するためには佐藤が集中できる時間を死守するしかない」

また、打ち合わせと打ち合わせの間は最低でも30分あけるという。もし打ち合わせが延びても次に約束した人を待たせることがないし、その間に頭を切り替えることができるからだ。悦子氏は時間の余白を重視する。

「スケジュールに余裕を持たせておけば、何かあってもバタバタしない。それにインターバルや休みをとってリフレッシュすることも絶対に必要です」

博報堂勤務時代に知り合った2人だが、当初は、可士和氏と悦子氏とでは、仕事に関するとらえ方も違った。

「広告業界のクリエーターは徹夜や残業をするのが当たり前で、忙しい=売れっ子、という風潮もありました。佐藤も完全に夜型だったようです。私は博報堂を辞めたあと、外資系企業や化粧品会社に勤めて違う世界を経験しました。それで広告業界の時間の使い方に違和感を覚えたのかもしれません」(悦子氏)


子供が生まれる前、2人で予定していたハワイ旅行を、可士和氏が「撮影が入ったから」とキャンセルしようとしたことがあったと悦子氏は述懐する。


「それに私は大反対。『ちゃんと仕事をするためにも休むことは絶対に必要』と言い続けていたら、わかってくれるようになりました。私が佐藤からもらったものはたくさんあるんですが、もし私が佐藤に影響を与えたことがあるとすれば、それは休むことの大切さかもしれません。若いうちは徹夜が続いても平気ですが、そんな生活を続けていたらいずれ体調を崩すし、クリエーターとしても涸渇してしまう。そうなったらかえって仕事先に迷惑をかけてしまいます」

可士和氏が独立して個人事務所「サムライ」を設立したことも、働き方が変わるきっかけだった。広告代理店の仕事はスパンが短く不測の事態にその都度対応する必要もあるため、自分のペースを保つことはなかなか難しかったが、独立後に手がけるようになった長期的な企業のブランディングは、比較的、自分のペースで仕事が進めやすい。

加えて、悦子氏がマネジャーとしてサムライに参加し、お互いの役割分担が明確になったことも大きなプラスとなった。

「博報堂ではお金やスケジュールの管理も僕の仕事でした。いまは、それを事務処理能力の高い悦子が一手に引き受けてくれるので、僕はクリエーティブということに集中できる」(可士和氏)

「夫婦で同じ職場で働くのは大変でしょう、とよく言われるんですが、一緒にいる時間はそれほど長くない。今日なんか15分くらい(笑)。会社で仕事の話ができない日は、家で話すこともよくあります」(悦子氏)

長男が誕生したことも、2人の時間の使い方に変化を与えた。

「子供が生まれる前は、何かあっても夜中まで働けばカバーできた。でもそれはもう無理なので、『午後9時だけど今日は早く寝て、明日の朝3時に起きてからやろう』と、工夫するようになりました」(悦子氏)


普段の悦子氏は毎朝4時起き。子供の世話と、責任ある仕事の両立は考えただけでも大変そうだ。そう言うと、悦子氏は笑ってこう答えた。


「『忙しそうですね』と言われると、私もまだまだだな、と思います。忙しそうに見えるのは、他人を受け入れる余裕がないということでもありますから」

悦子氏が化粧品会社に勤務しているとき、忙しいはずの女性トップがまったくバタバタしていなかった。以来、「ゆっくりしているほうがきれい」と確信。仕事のやり方を工夫し、万一に備え余白を設けるようになった。

悦子氏のスケジュール管理法は、デジタルと紙の2本立て。長期の予定は見開き2週間の手帳に書き込む。変更が多い短期の予定はネットで管理する。その日にすべきことは、「メール」「電話」「請求書」「契約書」など項目ごとにA4の裏紙を使ってすべて書き出していく。

「忘れてはいけないことは紙に書くのが1番。こうすると作業の量が目で見てすぐわかります」(悦子氏)

1件片付けるたびに赤線を引いて消し、1日の終わりに、その紙を破いて捨てる。

「紙を破いて捨てることで、すごくスッキリする」(悦子氏)

実は悦子氏は「メモ魔」でもある。誰にどんな手土産を渡したか、誰とどこで会食をしたかなど、すべて手帳の備忘録に記録する。2回目以降にダブらないようにするためだ。

効率的に時間を管理すれば、空き時間でジムに行ったり、近所の公園で早朝ウオーキングをすることもできる。可士和氏は「サムライは小さな会社です。僕や悦子が倒れるわけにいかない。ですから、運動をして、体を鍛えるのも仕事のうち。それに、メンタルにもとてもいいリフレッシュになります」と言う。

「昔は僕もジム通いが続かなかった。続けるコツは、パーソナルトレーナーを予約すること。そうなるとその人と会う約束を守るために、行かざるをえない」


週末は同じく子供を持つ家族と、釣りや農園に出かけることも多い。

「息子が1歳のとき、食育になるかなと、ファームのメンバーになったのですが、親のほうも自然のなかで汗をかくことが楽しみになってきた」(悦子氏)

佐藤夫妻が農業を始めてまもなく、ファームに若い家族世代のメンバーが急増した。

「自分で種をまいたものを食べることで、生活を自分でつくるリアリティが感じられる。皆がそれを求めている時代なんだ、と佐藤はわかったようです。それは仕事にも活きます。時代の感覚を掴む必要がある佐藤の仕事では、オフの時間を充実させることも大切なことだと思います」(悦子氏)

「子供はパワフルです。うちの子は一緒に遊んでいても、僕が集中していないと怒る(笑)。そうすると遊びに集中せざるをえないから、いいリフレッシュになるんです」(可士和氏)

忙しさを理由に土日も仕事をし、結果的に効率を落としている人は多いのではないか。佐藤夫妻からは、仕事と時間のやり繰りについて学ぶ点は多い。



2013年8月7日水曜日

Facebookの「いいね!」大量生産するダッカのクリック工場

Yahoo! Japan(2013.8.6)

ソーシャルメディアのFacebook、Twitterや大手動画投稿サイトのYouTubeは新作音楽や映画、新商品のプロモーションに欠かせないツールだ。8月5日夜に放映された英民放チャンネル4の調査報道番組『Dispatches』は、Facebookの「いいね!」、Twitterのフォロワー、YouTubeのビューを大量生産する「ヤミ工場」に切り込んだ。

中国を拠点に「いいね!」やフォロワーを増やすサクラ集団の存在が日本でもクローズアップされているが、今回、調査報道の対象になったのは、縫製工場の崩壊事故で1千人以上が犠牲になったバングラデシュのダッカにあるクリック工場。オーナーは「Facebookの王様」と呼ばれていた。

ビルの一室で10数人の若者がパソコンの画面を見ながら、アカウントを使い分け、ひたすらクリックを続ける。ある若者は1千のアカウントを持っていると打ち明けた。この工場ではFacebookのいいね!は1千人分で15ドル、YouTubeは1千ビューで3ドルだ。3~4時間もすれば、いいね!が1千人分増えている。

バングラデシュの若者は1日3交代で24時間、Facebookのいいね!やTwitterのフォロワーを増殖させている。国民1人当たりの月収は約60ドル。クリック工場はバングラデシュでは割のいいビジネスなのだ。

昨年の米大統領選。共和党の大統領候補ミット・ロムニー氏が1日でTwitterのフォロワーを11万6千人も増やしたことから、フォロワーの15%が買われていた疑いがあると報じられた。

YouTubeからスターダムにのし上がったカナダの人気歌手ジャスティン・ビーバー。Twitterのフォロワーは米国のミュージシャン、レディー・ガガを追い越し、現在4200万人。しかし、その約半数はニセ・アカウントだという疑惑がささやかれている。

こうした疑惑は大手飲料メーカー、ペプシやドイツの自動車メーカー、メルセデス・ベンツ、高級ブランドのルイ・ヴィトン、政治家ではロムニー氏のほか、ロシアのメドベージェフ前大統領にも向けられている。

また、英国では業者が間に入ってTwitterでセレブ(芸能人や有名スポーツ選手)たちに新商品についてつぶやかせるビシネスまで登場。広告まがいのつぶやき防止策として、Twitterは「♯ad」のハッシュタグを入れるよう利用者に呼びかけている。

Facebookのいいね!は1日45億回(昨年より67%増)のペースで増えている。このうち何%がバングラデシュや中国のクリック工場で生み出されているのかは、誰にもわからない。