2010年1月28日木曜日

これぞ江戸の手品、馬をのみまする 東京で公演


■ asahi.com

江戸時代、見世物として庶民らの人気を博した奇術「手妻(てづま)」をマジシャンの藤山新太郎さん(54)がよみがえらせた。こだわるのは、今も楽しめるエンターテインメント。トリックの巧妙さだけでなく、その伝統に根ざす様式美で、多くの観客を「元禄」のマジックショーにいざなう。

 東京都杉並区の劇場「座・高円寺2」。先月、ここで開かれた藤山さんの公演で、伝説の手妻が300年ぶりによみがえった。

 普段寝てばかりの男が、腹が減ると、馬を丸ごと1頭のみ込むという「呑馬(どんば)術」だ。

 ろうそくだけの薄明かりのなか、白装束の藤山さんが舞台上の生きた馬を吸いこむようにのみ込んでいく。

 一転。紙製のチョウが生きているように舞う「蝶(ちょう)のたはむれ」や「水芸」など、派手でにぎやかな手妻がお囃子(はやし)に合わせてテンポよく披露され、約300人で満席の客席からわいた拍手は、しばらく鳴りやまなかった。

 手妻は江戸時代の元禄期から明治の初めごろまで隆盛をきわめたが、西洋のマジックに押されて徐々に衰退した。

 お笑い芸人を父に持つ藤山さんは、幼いころ、楽屋で手妻師たちにかわいがられた。12歳の時には手妻師の弟子となり、16歳のころからは、手妻を知る奇術師や研究家を訪ね歩いた。多くの手妻の種を教えてもらい、決まった動作に隠された意味をも聞き取った。蝶のたはむれの芸に親から子へと受け継がれる生命の物語が隠されていることもこうして知った。

 「保存することが目的ではなく、今も楽しんでもらえるものでなければ値打ちがない」。そう思い、途中の掛け合いや踊りなどを省き、観客に飽きられないよう工夫を重ねた。

 そうした活動が認められ、「奇術の殿堂」として知られる米・ハリウッドの会員制クラブ「マジックキャッスル」では81年から2年連続で「マジック・オブ・ザ・イヤー」に選ばれた。

 8月には、資料集めに5年を費やしたという「手妻のはなし——失われた日本の奇術」(新潮選書)を出版した。

 「300年の伝統を感じてもらえる本物の手妻を一生かけてお見せしたい」

 水の上を歩く「水渡りの術」など、今は途絶えた芸の復活にこれからも挑戦し続ける。(杉村和将)

[2009年12月3日]