2010年4月7日水曜日

集団的知性(Collective Intelligence)と、群衆の知恵(Wisdom of Crowds)の違い

http://www.it-platform.co.jp/blog/archives/97

第1回ウェブ学会シンポジウムの動画が公開されています。「集合知」の話題が、技術を超えてビジネス、政治まで幅広く議論されていています。長時間にもかかわらず、とても面白く視聴できました。 (主催者および関係者に感謝。)

視聴後、講演者の方々にも興味を持ち、twitter上で、その後の議論も追っていたのですが、どうやら単に「集合知」といってもさまざまな考え方があり、代表的なものには「集団的知性(Collective Intelligence)」と「群衆の知恵(Wisdom of Crowds)」の二つのモデルがあるようです。

ということで、私もさっそく上記ページを読んでみたところ、とても明快に「集団的知性」と「群衆の知恵」の違いが説明されていました。

Surowiecki and Levy start from very different premises which would lead to very different choices in the game design process. Surowiecki’s model seeks to aggregate anonymously produced data, seeing the wisdom emerging when a large number of people each enter their own calculations without influencing each other’s findings. Levy’s model focuses on the kinds of deliberative process that occurs in online communities as participants share information, correct and evaluate each other’s findings, and arrive at a consensus understanding.
Confessions of an Aca/Fan: Archives: Collective Intelligence vs. The Wisdom of Crowds

要約: 「群衆の知恵」と「集団的知性」は、まったく違った前提からスタートしている。「群衆の知恵」モデルでは、多くの人々がお互いの知識に影響されることなく、個別に自らのデータを生み出す。そして、その個別データを匿名で集計することで、知恵が得られると考える。対して、「集団的知性」モデルは、コミュニティの中で、参加者が情報を共有しお互いの知識を評価・修正しあいながら一定のコンセンサスに至るような、討議的なプロセスにフォーカスしている。

「群衆の知恵」モデルは、多様性をもった参加者が、個々に自律していて、まわりの人々の考えに影響を受けないことが前提となっている。参加者がお互いに影響を与え、同質なグループができあがってしまうと、結果がゆがめられてしまうからだ。しかし、現実には、参加者はお互いに影響を与えあうため、「群集の知恵」モデルは問題をかかえている。

加えて、「群集の知恵」モデルは、技術的に、個別のアウトプットを数値として平均化できる質量推測/市場予測/オッズのような、客観データにしか適用できない。政治的オピニオンのような主観的なものに「群集の知恵」モデルを使うのは間違いだし、Wikipediaをこれで説明しようとするのも適切ではない。

Wikipediaを説明するのに適しているのは(「群集の知恵」モデルよりも古典的な)「集団的知性」のモデルである。これは、すべての知識を持っているメンバーはおらず、個々人が断片的な知識しか持ち合わせていない状態で、メンバーによってもたらされた知識に、他のメンバーが自由にアクセスしながら、多様なメンバーが協力して世界の理解を洗練させてゆくモデルだ。

The Wisdom of Crowds model focuses on isolated inputs: the Collective Intelligence model focuses on the process of knowledge production. The gradual refinement of the Wikipedia would be an example of collective intelligence at work.

「群集の知恵」モデルは独立した入力にフォーカスし、「集団的知性」モデルは知識生成のプロセスにフォーカスしている。「集団的知性」モデルの働きは、Wikipediaの漸進的な進化に見ることができる。(要約終了)

(追記:邦訳「Collective Intelligence vs. The Wisdom of Crowds」で全文の翻訳が公開されています。)

…ということらしい。この議論のあとは、ゲームに「群集の知恵」モデルを適用した場合と、「集団的知性」モデルを適応した場合とで、ゲームデザインがいかに大きく異なるかが述べられています。

「群集の知恵」モデルの適用範囲がとても狭いというのは意外でした。ウェブのみならず、技術、芸術、ビジネス、政治のさまざまな分野で「集合知」が話題になり、ブームになっています。「集合知」の議論はとても魅力的です。でも、具体的モデルが不明確なままだと、そのうち現実とのギャップに遭遇し、失望を生むかもしれない。地に足のついた議論が必要だと、自戒を込めて思いました。