2009年5月1日金曜日

投稿を促すサイトの不思議 人はなぜ教えあうのか(2)


Q&Aサイトをビジネスとして運営するならば、利用者を増やす必要がある。より多くの質問が投稿され、良質な回答がより多く寄せられるような場を提供するために、各社はどのような工夫をしているのだろうか。(折田明子)

■入り口は100、データベースは1つ

 各社が共通して目指すのは、「質問を投稿したときに、必ず回答がつくと思えるサービス」(ヤフー検索事業部の湯澤秀人氏)だ。専門性を持つサイトと組み、多くの回答者と質問者を確保するという考え方を先行して実践していたのがオウケイウェイヴのパートナー戦略だ。オウケイウェイヴのQ&Aサイト「OKWave」は100を超えるパートナー企業のサイトにQ&Aサイトの入り口を設置している。

教えて!gooのトップ画面

 各パートナーサイトでは画面やカテゴリーをカスタマイズできるため、それぞれが別サイトに見えるが、実はデータベースは共通だ。例えばNTTレゾナントの「教えて!Goo」やマイクロソフトの「MSN相談箱」 、楽天市場の「楽天みんなで解決!Q&A」は、それぞれ特徴ある入口をもっているが、取り扱われる質問と回答はすべて共通のものだ。

 パートナー戦略について、オウケイウェイヴの武田健太郎氏は「たとえば、不動産のことを聞きたい人に適した回答者は不動産サイトにいる。回答者がたくさんいるところはどこなのかを追求した」と語る。利用者が異なる多くのサイトと組むことで、回答を充実し質問者の満足度を高めるという狙いだ。現在も介護、育児、リサイクルなど多様なコミュニティーサイトとの連携を検討しているという。

 直接会っての相談とは異なり、ネットに書き込むだけの相談では行き違いも発生する。OKWaveは寄せられた回答に対して質問者がコメントを追加し、言い足りなかったことを補足したり誤解を修正したりすることができる。その結果、込み入った悩みの相談や、丁寧な回答が寄せられているという。

 質の高い回答者を増やす試みとして、「Yahoo!知恵袋」は2008年11月からはオールアバウトの情報サイト「All about」との連携を開始した。All aboutの専門家がYahoo!知恵袋に1人のユーザーとして参加し、質問に対して回答を投稿する。回答はまったくのボランティアであるため、回答の頻度はそれぞれの専門家によって異なるが、専門性や知識のPRの場として活用されている。All aboutの専門家は写真と実名が掲載されるものの、ルール上は一般の回答者と同様に扱われる。専門家の回答が必ずしもベストアンサーに選ばれるわけでもなく、一般ユーザーと切磋琢磨している点がユニークだ。

■質問に気づかせる工夫

 利用者が増え続けているQ&Aサイトだが、ほとんどの利用者は閲覧のみで実際に質問や回答を投稿する人は必ずしも多くはない。筆者が2008年9月に実施したインターネットを介した情報交換に関する調査(マクロミルリサーチパネル、全国518名男女、注1)によると、カカクコムの価格比較サイト「価格.com」に投稿したことがあると答えた割合は回答者の4.1%にとどまり、閲覧のみの人が約7割に達する。投稿経験のある人の割合は、OKWaveのパートナーサイトである教えて!Gooで3.7%、Yahoo!知恵袋でも5.6%にとどまる。いかに潜在的な質問者と回答者に参加してもらうかはサイト運営者に共通する課題だ。

Q&Aサイトは閲覧のみの利用者が多い

 Yahoo!知恵袋は、「Yahoo!JAPAN」が持つサービスやコンテンツからの誘導により知恵袋への投稿を促している。検索窓の上部には、ウェブ・画像・動画などとともにYahoo!知恵袋へのリンクが張られ、知恵袋に蓄積された質問と回答を対象に検索をすることができる。また、モバイル版では検索すると、検索結果の画面にキーワードを含むQ&Aへのリンクが表示される。

 ヤフーの湯澤氏は「共通のデータベースを利用しながら、知恵袋とそれぞれの専門的なページを意識せずに相互に行き来できるようにしたい」と話す。例えば、育児サイトの「Yahoo!ベビー」とは質問コーナーの内容を共有している。「Yahoo!ベビーのページに来る人は育児中の人が多く、これを見て悩みを解決したり、知恵袋へのリンクからアクセスして自分も何かを回答したりする傾向がある」(ヤフー検索事業部の中川智敏氏)ためだ。

 ほかのサービスに知恵袋のプラットフォームを提供し、関連するトピックに質問や回答を投稿してもらうことで、結果的に知恵袋のデータベースが充実する。同様の試みはファッションサイト「Yahoo!FASHION」やペットサイト「Yahoo!ペット」でも実施されている。

 多くのサービスを抱える「はてな」においても、検索窓の上部に配置された「人力検索」のタブによる質問の検索をはじめ、質問と回答に関連する情報がさまざまな方法で関連付けられている。質問のページには類似した質問を「おとなり質問」として表示。ある分野に詳しい回答者が、回答可能な質問を次々と見つけて投稿できる。

■初心者は「マーク」で保護

 質問の投稿を促すためには、そのきっかけだけでなく投稿のためのハードルを下げることも必要だ。価格.comでは2008年6月より初心者向けのヘルプ付新規書き込み機能を導入した。この専用フォームでは、投稿者が書き込む内容の種類を選択すると、質問を書き込むページにタイトルや文例を表示し、より意図が伝わりやすい質問文が作成できるよう支援する。

 投稿した質問には初心者マークが表示されるうえ、他のユーザーが回答をする際に画面に「初心者の投稿であり、丁寧な説明で返信してほしい」という趣旨の注意が表示される。初心者マークの投稿に高圧的な回答がつけられた場合にはコメントを削除するルールだが「削除に対するクレームはない」(カカクコムショッピングメディア部の遠藤靖幸氏)という。

 価格.comは利用者の8割が30代以上と、広く利用されているサイトの中では年齢層が高い。50代、60代とおぼしき回答者が懇切丁寧に説明するような事例もあり「利用者同士のやりとりは誘導せず、枠組みとルールを整えることに専念する」(カカクコムの遠藤氏)とのスタンスを貫いてきた。

 一方でサイト開設から時間が経つにつれて常連が増え、基本的な質問に対して高圧的な回答がなされ、ユーザーへのアンケートからは「高圧的な回答者がこわくて質問を書き込めない」という声が上がっていた。そこで初心者マークを導入し、初心者やネットリテラシーが低い人からの投稿を促すことにしたのだという。

 人力検索はてなによる、換金性のあるポイントのやりとりも、質問者の立場を強くする目的で導入された。質問者が提供するポイントは、「回答者が質問者の代わりに調べる手間の対価」(はてな広報担当の万井綾子氏)となり、基本的な質問に対して「過去のQ&Aを見れば分かるのに」と言われない効果があるという。

 質問内容に関するハードルを下げる工夫として、OKWaveおよびパートナーサイトでは、2008年12月から動画と画像による投稿を開始した。「質問をして知りたい情報をスムーズに得るには国語力が必要だが、言葉で説明するのが難しいこともある。補完する機能は必要だ」と、オウケイウェイヴの武田氏は説明する。

 具体的には「植物が病気になって斑点ができた」「この服装でデートに行くのはどうだろう」といった質問で威力を発揮する。将来は携帯電話で動画を撮影して質問できるようにすることも考えているという。Yahoo!知恵袋も2008年12月からパソコンとケータイの両方から画像の投稿が可能となった。「『円錐に内接している球の面積の求め方』など、数学の問題の解き方に関する質問で活用されている」(ヤフーの中川氏)という。

 それにしても、なぜQ&Aサイトの利用者は見知らぬ人に質問し、その回答が信じるに値すると判断しているのだろうか。次回は質問と回答の信頼性を高める仕組みについて検証することにする。