2009年5月1日金曜日

Q&Aサイト、8割が回答に「満足」 人はなぜ教えあうのか(1)


インターネット上で利用者同士が互いに質問と回答を投稿しあうQ&Aサイトは、さまざまな相談ごとをもちかける場であると同時に、膨大な知識が蓄積されるデータベースとして活用されるようになった。なぜ見知らぬ人同士で、有益な情報交換が成り立つのか。また、蓄積された知識はどのように活用されているのか。主なQ&Aサイトの試みを取り上げながら、ネット上の「教えあい」について考える。(折田明子)

 風邪の流行る季節だ。「咳が止まらない」「加湿器の効果」といったフレーズをYahoo!やGoogleで検索してみると、「Yahoo!知恵袋」や「人力検索はてな」「教えて!goo」「OKWave」といったQ&Aサイトの質問と回答ページが上位に表示される。

 単に「咳」や「加湿器」と検索したときには、その言葉の定義や製品情報が表示されがちだが、より話し言葉に近いフレーズで検索すると、自分が求めている個人の経験談やアドバイスを検索結果から得やすくなる。質問をするつもりで検索窓に入力すると、Q&Aサイトの質問と似た文章を打ち込むことになり、その結果Q&Aサイトに蓄積された知識を見つけることができるのだ。

■Yahoo!知恵袋、利用者2.7倍に

yahoo!知恵袋のトップ画面

 Q&Aサイトの利用者は急増している。ネットレイティングスが2008年4月に発表したデータによれば、2008年3月時点でYahoo!知恵袋の利用者数は1261万人(1年前は465万人)、教えて!gooは781万人(同505万人)と、1年間で5割から2.7倍という高い伸びを示している。さらに、ネットレイティングスの2008年12月24日付プレスリリースによれば、Yahoo!知恵袋やOKWaveなどのQ&A サイトは、家庭だけでなく職場でも使われるようになっているという。

 日本のQ&Aサイトの歴史は、2000年1月に運営開始された「OKWebコミュニティ」(現OKWave)に始まる。その後、2001年7月には人力検索はてな、2004年4月にはYahoo!知恵袋がベータ版サービスを開始した。「価格.com」では、価格比較サイトの付加機能として1997年からクチコミができる掲示板を開設。2000年3月から製品や型番単位ごとに書き込みができるようにした。

 現在、Q&Aサイトはどのように利用されているのか。筆者が2008年9月に実施したインターネットクチコミに関する調査(マクロミルリサーチパネル、全国518名男女、注1)の結果から、Q&Aサイトに関連する部分をご紹介しよう。

 ネット上の情報交換の経験については、回答者の4人に3人が価格.comの利用経験があり、約半数がYahoo!知恵袋および教えて!Gooを利用している。Yahoo!知恵袋では特に「趣味について」(27.2%)、「家電やPCの購買・利用法について」(25.6%)、「健康や病気について」(20.8%)の利用が目立っていた。

ヤフー知恵袋の利用者に聞いた、閲覧した質問の種類(複数回答)

 利用者の声をみると「賞味期限切れの生肉を食べられるか確認したところすぐに回答があり実際に食べられた」(男性・35歳・パート・アルバイト)、「検索しても出てこなかったこと(本当に困ったこと)を質問した時にすぐに回答がきて、具体的な理由をあげて『大丈夫ですよ』と言ってもらえたこと。安心しました」(女性・29歳・専業主婦)といった、自分では調べきれないことについてQ&Aサイトを利用する例が目立った。

 持病のことや「恋愛相談の書き込みをしたら即答で返事をもらえた」(女性・25歳・会社員)といった人に聞きづらい相談ごとにも利用されている。こうした相談や情報収集については、80%以上の利用者が「満足を得られた」と回答しており、Q&Aサイトでの情報交換を利用者が有益と感じていることがわかる。

■質問や回答にはIDが必要

 ここで、Yahoo!知恵袋を例にQ&Aサイトのサービスの概要を確認しておこう。Q&Aサイトを閲覧するだけであれば特に準備はいらないが、質問や回答を書き込むためにはサイトのID(ここではYahoo!JAPAN ID)の取得と利用登録(ニックネーム登録)が求められる。その後の質問や回答は設定したニックネームにより行われることになる。

 投稿した質問は、他の質問と交じり合うことなく一つの独立した掲示板を形成し、内容に応じた適切なカテゴリーに分類して掲載されて回答の投稿を待つ。質問はYahoo!知恵袋のトップページに掲載されている「回答受付中の質問」として掲載されるほか、投稿内容に対する検索結果にも表示される。

 回答者はトップページやカテゴリーごとに掲載される質問リストを見るか、Yahoo!知恵袋の質問や回答を対象とした検索機能によって自分が答えられそうな質問を探し、回答を投稿する。質問を投稿してから、早いものでは1分以内に回答が投稿される。

 Yahoo!知恵袋では質問の掲載期間である7日間が終了するか、質問者自身が複数の回答からもっとも有益だったものを「ベストアンサー」として選択すれば、回答の受付は終了する。1つも回答が得られなかった質問は、質問期間が終了すると削除される。終了した質問と回答の記録はデータベース化され、サービス内のみならず一般の検索エンジンからも検索できるようになる。

■回答者には報酬と名誉

 なぜ回答者は質問に回答するのだろう。

 Q&Aサイトでは、寄せられた回答や、特に役立つ回答に対して何らかの「お礼」ができる機能を備えている。Yahoo!知恵袋は「ベストアンサー」の回答者に対して質問者がお礼として「知恵コイン」というポイントを渡すことができる。OKWaveにも同様の「ありがとうポイント」という機能がある。

 Yahoo!知恵袋とOKWaveでやりとりされるポイントは、Yahoo!JAPANポイントのように金銭の代わりに使えるものではない。Yahoo!の知恵コインの場合、回答がベストアンサーに選ばれる以外にも、知恵袋へのログインや質問、回答の投稿のほか、他者の回答を評価するなどサイトを利用するほどに増える。たまったポイントは、自分が質問を投稿する際にお礼として提示するための原資となる。

 人力検索はてなの場合も、質問者は回答者のためにあらかじめ「何ポイント提供するか」を示し、有益な回答を投稿した回答者はポイントを得る。はてなの場合は、はてなが提供する有料サービスのポイントと共通で換金性があり、サイトの利用で加算されるほか、1ポイント1円で購入することもできる。ポイントは楽天やAmazonのポイントに移行することも可能だ。

 ただ、はてなの利用者は「報酬額以外のモチベーションで回答している人も多い」(はてなの万井綾子氏)という。最も優れた回答には「いるか賞」という「勲章」が付与され、「いるか賞」の数がプロフィルに表示される。Yahoo!知恵袋やOKWaveにも多くの回答を投稿し、その評価が高い回答者のIDをランキングする仕組みがあり、こうした「名誉」が大きなモチベーションになっているようだ。

 価格.comの場合は、クチコミやレビューで気に入った投稿者のことを「お気に入りクチコミスト」として登録することができる。膨大な投稿の中からお気に入りの投稿者の動向がすぐ分かる仕組みだ。また、お気に入りに登録された回答者は自分に何人のファンがついているかが分かるようになっており、回答者のモチベーションにつながっている。

 価格.comでは常連とされるユーザーが多く存在している。価格.comにユーザー登録制度が導入される前から、いわゆる「固定ハンドル」として同じニックネームを名乗り続けている人たちだ。中には、一日に5~6時間かけてパソコンのパーツに関する質問に答え、投稿数が3万件以上にも上った「常連」もいたという。各分野にスペシャリストが存在し、「『○○さんの回答がついて嬉しいです』とコメントされていることもある」(カカクコムの甲斐かおり氏)というように、ファンが多い常連ユーザーが半ばブランド化しコミュニティーの活性化に一役買っている。

 Q&Aサイトの利用が拡大している理由はこれだけにとどまらない。次回は広く質問と回答を集めるための各社の様々な工夫を見ていく。