2010年3月24日水曜日

タカラ創業者、86歳で博士号 ものづくりの極意体系化



 「だっこちゃん」や「リカちゃん」の生みの親で玩具メーカー「タカラ」(現タカラトミー)創業者の佐藤安太(やすた)さん(86)が今春、山形大学大学院の博士課程を修了した。約60年ぶりに再入学した母校に千葉県の自宅から3年間通学。現場経験を生かし、「ものづくり」や「人づくり」の伝承方法をまとめた。学生生活を終えた佐藤さんは、もう次の夢を膨らませている。

 山形県米沢市で21日にあった学位記授与式。スーツ姿の佐藤さんはゆっくり登壇し、工学博士号を受け取った。「お金では買えない宝物。86歳でこんな達成感を味わえるなんて幸せ」。最高齢の工学博士号取得者としてギネスブックに申請したという。

 1945(昭和20)年に米沢工業専門学校(現山形大)を卒業。55年にタカラの前身会社を創業した。00年に経営から退くまで「だっこちゃん」「チョロQ」など数々のヒット商品を世に送り出し、「おもちゃの王様」と呼ばれる。

 しかし、心残りがあった。

 「開発で身につけた創造力を後進に伝えられるよう体系化しようと思ったが、できなかった」

 退任後、自分なりの人材育成法を講演していたが、「ものづくりや人づくりを学術的にまとめたい」との思いが芽生えた。ちょうど母校からの誘いもあり、07年に理工学研究科博士課程のものづくり技術経営学専攻に入った。

 「やるからには名誉博士でなく、きちんとやろうと思った」

 月1回ペースで千葉県から米沢市のキャンパスに通った。都内のサテライト校の授業にも出席した。息子世代の教授に習い、孫世代の学生と学んだ3年間のキャンパスライフ。指導教官の高橋幸司教授(57)からは「私が先生で、あなたは弟子です」と何度も念を押された。「従わないように見えるのかな」と佐藤さん。

 佐藤流の人材育成で大切なことは、人生計画を立てること。「経営計画を作る会社は多いが、人生計画を立てる人は少ない」。(1)倫理(2)家庭(3)知識(4)健康(5)美(6)遊び心(7)経済力——の七つの項目ごとに現状を分析し、目標や行動計画をつくる。「なんとなく生きている人たちに、自分探しをして欲しかった」とも。

 ものづくりにもこれを応用した。項目ごとに社会の問題点などを考え、求められている商品を作り出す方法だ。ベテラン社員が直感で生み出す商品開発は伝承しにくいが、佐藤流なら伝えられると考えた。

 タカラトミーの社員や山形大生らに佐藤流でおもちゃを開発してもらう実験をし、「効果を確かめた」という。

 佐藤さんの原動力になっているのは、多くの仲間を失った戦争体験だという。「生き残った自分は何のために生きているのか」。そう自問自答を繰り返してきた。そして、3年間の学生生活で、次の目標が明確になった。「このやり方を広め、多くの人に能力を発揮してもらいたい」

2010年3月13日土曜日

新素材:98%水…医療などで利用期待 東大チームが開発


 強い力で伸縮しても元に戻り、大半が水でできたゲル状の新素材を、相田卓三東京大教授(超分子化学)らが開発した。硬さはこんにゃくの500倍といい、石油由来のプラスチックに代わる素材として医療や環境分野での利用が期待できる。21日付の英科学誌ネイチャーに発表した。

 新素材は「アクアマテリアル」と命名した。

 研究チームは、水に、化粧品や歯磨き粉の吸着剤に使う市販の粘土鉱物を入れ、紙おむつの吸湿剤「ポリアクリル酸ソーダ」を添加。その上で医療用の高分子有機物を改良した物質「G3バインダー」を加えると、数秒で透明なゲルができた。ポリアクリル酸ソーダとG3バインダーが、ナノメートル(ナノは10億分の1)級の粒子でできた粘土をつなぎ直すことで固まるという。

 成分は98%が水、粘土2%弱、新開発の化合物0.2%以下で、グミキャンディーのような手触りがある。強度は美容整形に使われる既存のシリコンゴム程度で、粘土を増やすと硬くなる。水が蒸発する約100度まで耐熱性があり、切断してもすぐはり合わせれば元通りになる。

 相田教授は「人工関節や臓器の傷をふさぐ充てん剤など、応用範囲は広い」と話す。

http://mainichi.jp/photo/archive/news/2010/01/21/20100121k0000m040150000c.html

見事な“鎮火”はなぜ可能だったのか UCCの事例から考えるTwitterマーケティング

Twitterを企業のマーケティングに利用しようという企業が増えているが、「どう使えばいいか分からない」「炎上が恐い」といった声もある。

 UCC上島珈琲は2月18日、自ら行ったTwitterキャンペーンが批判を浴び、2時間で終了に追い込まれた経緯を題材に、識者を集めてTwitterマーケティングについて考えるセミナーを開いた。

 UCCのキャンペーンでは炎上後の対応の早さに注目が集まったが、背景にはリスク管理体制の整備や、いくつかのラッキーな偶然があったことが浮き彫りに。BOTを使ったキャンペーンのあり方や、人手で更新するアカウントの難しさなどについても議論が行われた。【岡田有花】

●なぜ失敗したのか

 問題になったキャンペーンは5日午前10時にスタート。11のアカウントを使い、ユーザーがつぶやいた「コーヒー」「UCC」などの30のキーワードに反応、宣伝リプライを自動で送信するというものだった。

 フォローしていないアカウントから一方的に宣伝リプライが届いたため「UCCがスパム的なリプライを送っている」と批判の的に。特に広告・ネット業界のTwitterユーザーが素早く反応し、批判が拡大した。Twitterの口コミの広がりを可視化する技術を持つホットリンクの内山幸樹社長によると、キャンペーン開始から1時間で、関連のツイートが1万8000件投稿されたという。

 「Twitterは対話のメディアなのに、今回は完全に一方通行だったことが問題」と、複数のTwitterアカウントを運用しているアルカーナの原田和英社長は話す。

 例えば米航空会社JetBlue Airways は、ユーザーが空港で困っていることをツイートするとサポートするというやり方で、160万ものフォロワーを集めている。「JetBlueはTwitterを『リスニングや会話に適しているメディア』だと言っている」(原田さん)

 「Twitterに対する期待値のズレがあった」——マスマーケティングと同じ考え方で、たくさんのユーザーに情報を届けようとした場合は、UCCのキャンペーンのような手法を採らざるを得なかったのではと、ブログマーケティングなどを手掛けるアジャイルメディア・ネットワークの徳力基彦社長はみる。

 「Twitterは、ユーザーの声のリスニングから入り、その上で自分でもしゃべって活性化するものだが、フォロワーのいないTwitterアカウントを使って何千、何万に情報を届けようとすれば、BOTを使うしかない」

●BOTもやり方次第

 BOTだけが問題だったのではない。「BOTはやり方次第。メールマーケティングと同じで、やり方の問題」(原田さん)だ。「例えば、飲み屋の席にお姉さんがコーヒーを持って来て宣伝する、というのは盛り上がる。UCCのBOTのアイコンがきれいなお姉さんで、誘導の文言が魅力的だったらうまくいったかもしれない」(徳力さん)

 BOTを使ったマーケティングにも成功事例はある。グリコ乳業の「ドロリッチ」を飲んでいることを示す「ドロリッチなう」というツイートに反応するBOT「@dororich」(ユーザー個人が作ったもので、グリコ公式ではない)の例は有名だ。

 TSUTAYAのTwitterアカウントで2月3日から行っている、BOTを使ったクイズキャンペーン「@TSUTAYA・クイズ」もスタートから約2週間で5000人以上のフォロワーを集める人気。フォローしてきたユーザーが、「クイズ」というキーワードをリプライした時のみ、映画に関するクイズを返信するというものだ。

 @TSUTAYA・クイズの企画に関わったゲームクリエイターの飯野賢治さんによると、ユーザーにフォローしてもらった上で、要求があればユーザーごとにクイズを返す——という形で、“タイムラインを汚さない”キャンペーンを目指したことが、成功につながったとみる。「タイムラインは自分の場所、家という感じがあり、汚されるのは嫌なもの」(飯野さん)

 今後BOTが進化し、その人の興味があることを適切なタイミングで話しかけることが可能になれば、新たな活用法もみえてくると内山さんは話す。

●迅速な対応、なぜ可能だったのか

 「UCCのキャンペーンが批判されている」——同社でネット事業を統括するグループEC推進室に報告が入ったのは、開始から1時間半経った11時30分のこと。キャンペーンは12時までに中止し、午後1時に上島豪太社長に報告、3時20分には謝罪文を公開した。

 迅速な対応はなぜ可能だったのか。1つの要因は、グループ会社で喫茶店「珈琲館」などを運営するUCCフードサービスシステムズが、昨年11月から公式アカウント「上島珈琲店なう」を運用していたことにある。

 UCCグループEC推進室の坂本晃一室長は、上島珈琲店なう開始にあわせ、いくつかの準備をしていた。まず、Twitterについて上島社長に説明した上でスタート。リスク管理体制もある程度築いた上で、Twitterユーザーの特性を見ながら丁寧に運用していたという。

 上島珈琲店なうでつぶやきを担当しているのは、UCCフードサービスシステムズの女性だが、(別会社の)UCCが、運用を監視したり、つぶやきに関する相談を受ける体制にした。「Twitterは1人でやっていると心が折れることもある。別部署にオブザーバーがいた方がいいだろう」と考えたためで、坂本さんも普段から相談を受けていたという。

 炎上を把握したのも、つぶやき担当の女性からグループEC推進室に報告が入ったことがきっかけだ。上島珈琲店なう開始以来、Twitter上の「UCC」「上島珈琲」などの書き込みを監視していたことが、事態の把握を早めた。

 「UCCは食品会社なので、(食品の問題などが現場から上にすぐに伝わるよう)緊急連絡体制を作っていた。上島珈琲店なうで、あらかじめリスク対応の大まかなアウトラインを決めていたことも役に立った」と坂本さんは振り返る。

 謝罪文のプレスリリース公開が早かったのは、偶然、当日午後1時にグループの経営会議が開かれたためだ。坂本さんは会議冒頭、経緯と関連ツイートをまとめて報告。上島社長が「すべての情報を正直に出して謝罪する」と即決し、午後3時20分に謝罪文を公開。Twitterですぐに広まったほか、ブログ、ニュースサイトなどに取り上げられて対応の早さに驚く声も挙がり、騒動はいったん収束した。

 坂本さんは一連の流れを振り返り、「当初から、失敗に対して誠実に向き合おうと担当者から役員までが考えていた」と話す。迅速な対応ができたのは偶然が重なったためで、「ソーシャルメディアとの付き合いはこれから」。今後Twitterをマーケティングに使う企業に対しては「偶然に期待をせず、意図的に、リスクに対して最初の設計を決めていただきたい」と期待する。

 NTTでIR担当を務めたこともある徳力さんは、「UCCの対応は、正直、早すぎた」と驚嘆する。「NTTのIR担当時代に、大企業でニュースリリースを出すたいへんさを実感している。普通の企業にはできない早さですごいと思うと同時に、自分が逆の立場だったらできるだろうかと」

●代理店はどこか “類焼”を消火したツイート

 “類焼”もあった。マーケティング炎上の翌6日、「キャンペーンを請け負った代理店はどこか」という話題がネットで盛り上がり、まったく関わりのないサイバーエージェントの名が挙がったのだ。

 「当社の名前がまことしやかな形で出ている」——サイバーエージェント技術部門担当取締役の宇佐見進典さんも気づき、様子を見守っていたという。6日午後7時半ごろ、知人を通じて自社が関わっていないことを確認。「“消火作業”をしないと」と考え、午後10時ごろ「やってないことを証明するのは難しいです」とつぶやいた。

 自社に関連する内容をネットに書き込むには広報を通すのが筋とも考えたが、「手続きが面倒と思った。トラブルがあれば、自分が怒られればいい」と、自分で責任を取るつもりでツイートしたという。

 このツイートは次々にRTされて広がり、サイバーエージェントの濡れ衣を徐々に晴らした。「黙ったままだと仮説が事実化されていくという恐ろしさを目の当たりにし、やってないことは『やっていない』ときちんと言うことが重要と思った」と、宇佐見さんは振り返る。

●「心苦しかった」

 「心苦しかった」——6日午後10時ごろ、ネット上でサイバーエージェントの名が挙がっていることを知り、坂本さんは悩んでいた。「キャンペーンはすべてUCCの責任。サイバーエージェントはまったく関係ない」と、3つの“消火”法を考えた。

 (1)翌7日にもう一度プレスリリースを出して説明する、(2)UCCのTwitterアカウントを取り直して説明する、(3)騒動を受けて一次停止していた「上島珈琲店なう」のアカウントで説明をする——だ。

 だが他社が関わるうわさをプレスリリースで否定するというのも不自然。Twitterで炎上した後に新たにTwitterアカウントを取るのも避けるべきと考え、上島珈琲店なうでつぶやくことを選んだ。「本来なら広報を通さなくてはならず、社内の規定は超えているが、わたしが責任を取るということで“フライング”した」(坂本さん)

 6日深夜に書き込んだ謝罪ツイートは好意的に受け止められ、“犯人探し”も落ち着いた。

 上島珈琲なうのアカウントは、週明け7日午前10時から本格的に再開。「これからも頑張ってつぶやいていきますのでよろしくお願いします」とツイートしたところ、その直後からはげましのリプライが次々に寄せられた。

 「つぶやきを再開すると再び炎上するのではという不安があったが、温かいメッセージをいただいた。つぶやき担当者は目を真っ赤に腫らしはらしながら見ていた。わたしも後ろで見ていてウルっとなった。いまこうして話しながらも胸に来る。温かいファンに助けられた」(坂本さん)

 本来なら広報を通すべき内容を、坂本さんと宇佐見さんがそれぞれ自己責任でツイートしたことが、類焼の迅速な鎮火につながった。

 「Twitterは現場に権限を委譲しないとうまくいかないが、炎上したときに誰が責任を取るというのは難しい問題だ」と内山さんは指摘。ソフトバンクの孫正義社長のように、会社の権限を掌握している代表が個人としてTwitterを始めるのも1つの解決策だと、複数のTwitterアカウントを運用しているアルカーナの原田和英社長は話す。

●“人間らしいTwitterアカウント”の難しさ

 Twitterマーケティングで成功している企業は、担当者が1人張り付き、フォロワーと1日中交流しているケースが多い。上島珈琲なうのほか、「加ト吉」ブランドのテーブルマーク、NHK広報局などのアカウントは、つぶやきの“ユルさ”や誠実な対応で人気だ(参考:元気がいいTwitterの軟式企業アカウント:NAVERまとめ)。

 だが、担当者が張り付いて運用するアカウントは、フォロワーが増えるほど対応が難しくなる。「大企業であればあるほどフォロワーに話しかけられ、Twitter担当1人でサポートセンターをやるような世界になりかねない。大企業の担当者は本来は、自分の権限ではそれほどリアクションできない」と徳力さんは指摘する。

 日経ネットマーケティングの杉本昭彦副編集長も「朝から晩までレスを返すのはなかなかできることではなく、加ト吉さんはすごい」と同意。「Twitterマーケティングの成功事例は、担当者のキャラが面白く、フォロワーとの会話がうまくいっている場合が多い。告知だけのアカウントだと許されない空気感は恐怖だ」(徳力さん)という意見も挙がった。

 企業のTwitter利用の相談に乗っているCGMマーケティングの佐々木智也COOは、「プロフィールに『リプライには回答できない場合があります』などと書き、徐々にやっていくという手段もある」と話す。

●それでもTwitterを使ってほしい

 「これだけの騒動になったが、裏を返すとTwitterにはそれだけのパワーがあるということ」——企業のTwitter活用にはさまざまな可能性があると坂本さんは話し、UCCも「もう一度チャレンジしていきたい」という。

 企業にとってのTwitterの魅力の1つは、「情報をプッシュする力」だと杉本さんは指摘する。「フォローしてもらえればプッシュでき、メールマガジンに近い特徴がある。タイムセールなど時間限定の瞬発力もある。どう生かすかという意識しながら使えば可能性あるのでは」

 最低限、アカウントは持っておくべきと徳力さんは話す。「アカウントを持って自社サイトの更新情報ぐらい流しておけばいいと思う。でないとTwitter上で話題にすらしてもらえない」

 炎上を恐れて及び腰になる企業もあるが、宇佐見さんは「Twitterの炎上は、2ちゃんねるでの炎上に比べると消火しやすく、プチ炎上があっても誠実に対応すれば解消する」と、自らの経験を振り返る。

 「失敗を恐れて事前に準備するよりは、問題が起きても対応すればいいというぐらいの気持ちでやったほうがいいのでは。ユーザーの不満に対してリアルタイムに対応すると、モヤモヤはかなり解消できる部分がある。ネガティブにとらえるよりは、それを使って何ができるかというポジティブさが重要では」(宇佐見さん)

メーカーの「信者」は本当にいるのか?成長著しい「価格.com」を運営するカカクコム社でいろいろ聞いてきた

 2007年4月に価格比較サイト「価格.com」を運営するカカクコム社を取材しましたが、今月に同社が新しいオフィスに移転したという案内が届いたので、これを機に改めて取材をしてきました。

キャッチコピーを賢者の買い物から「買ってよかった」をすべてのひとに。へと変えた理由や1日あたり5000件を超えるクチコミ掲示板の運営について、法人向け新サービス「価格.com Trend Search Enterprise版」のねらい、告知していた通りに新年早々「不況箱」で圧倒的な不幸を届けたにもかかわらず、ユーザーからショップ評価を急落させられたクレバリーに対するスタンス、今後の方針についてなど、さまざまなお話を聞かせてもらいました。

はたして日本最大級の価格比較サイトはいったいどれだけパワーアップしたのでしょうか。


◆装いも新たになったカカクコム
これが移転したカカクコムが入っているビル。水道橋から代官山に移転しました。

インタビューしてみた内容は以下から。今回お話をうかがったのは株式会社カカクコム 上席執行役員 価格.com本部 ショッピングメディア部長 結城晋吾氏と広報室の甲斐かおりさんです。

◆2007年4月から3年弱、「価格.com」はどう進化したのか

GIGAZINE(以下、Gと省略):
2007年4月の時点で、社員数はカカクコム単体で130人となっていましたが、今の時点で社員はどれくらいいますか?グループ全体の社員数についてもお願いします。

甲斐:
2010年1月末の時点ですが、カカクコム単体で約250名(社員数)で、グループ全体では301名です。派遣や契約、アルバイトの方などを入れると380名くらいになりますね。

G:
飲食店のクチコミ情報サイト「食べログ」などをはじめとした「価格.com」以外のサービスも手がけていますが、具体的なサービスをピックアップしてください。

甲斐:
歴史が長いところからいきますと、ホテルや旅館の格安予約サイト「yoyaQ.com」や賃貸情報サイトの「スマイティ」、新築マンションの検索サイト「マンションDB」があります。

少しマニアックなところになりますと、エンジニアの方々がQ&Aを掲載したり、技術的なノウハウを共有したりするようなコミュニティサイト「okyuu.com」がありますし、価格.comのユーザー層と親和性が高いサービスとして、デジタルカメラで撮影した写真を共有する「photohito」を運営しています。

あとはグループ会社が運営するサービスとなりますが、旅行のクチコミを共有するフォートラベルや総合映画情報サイト「eiga.com」もあります。

G:
価格.com内の「パソコン」や「家電」「カメラ」といったカテゴリの掲載順はアクセス順なのでしょうか。

甲斐:
カテゴリの並びはアクセス順であるとは限りませんね。パソコン、家電、カメラの順番で並んでいますが、今はパソコンよりも家電のアクセスの方が多くなっています。

2009年1月の時点ではパソコンへのアクセスが1ヶ月あたり600万人強で家電は570万人と、「パソコンが家電より少し多い」状況が比較的続いていましたが、ユーザー数の増加にも伴い、一般の消費者層も随分取り込めたことで、2009年11月の年末商戦あたりから逆転していますね。2010年1月時点ですと、パソコンが697万人だったのに対して、家電は750万人という実績です。エコポイントの影響や液晶テレビ人気も影響していると思いますが、家電の伸びが特に著しいと思います。

結城:
今のところパソコンと家電の2強ですが、次はカメラや車が強いです。カメラはこだわりの強いユーザーが多いのと、車はクチコミを中心に盛り上がっていますね。ちなみにカメラのアクセスの伸び自体は今年に入ってから鈍化傾向にありますが、これは新製品が昨年秋に発売された製品が多く、その時期にアクセス数のピークを迎えたためです。パソコン、家電のカテゴリと比べて1製品あたりのアクセス数ではダントツの1位です。

G:
「価格.com」の利用者についてですが、2007年時点での月間利用者数は800万人で、男性と女性の比率は7:3、実際に購買力のある30~40代のユーザーが中心となっていましたが、今はどうなっているのでしょうか。

甲斐:
月間利用者数は約2400万人(2010年1月実績)で、男女比は6:4くらいになりました。年齢層に関してはいまだに30~40代がメインで、30代以上が全体の8割を占めています。

ただ、あれから3年が経過してもメインの世代層が同じなので、当時20代だった若い層のユーザーにも浸透しているのではないかと考えています。クチコミ掲示板でネットデビューされるなど、50~60代のユーザーも伸びてきておりまして、今のところ20代とだいたい同じ割合になっています。

また、先日すべての世代のネットユーザーを対象に同数ずつパネリングする形で認知度調査を行いましたところ、価格.comの認知度が9割を超えていましたので、ほぼネットユーザーには認知されていると考えています。これからはもっとリアルの人々に知ってもらいたいですね。

◆リアルの人々への訴求が課題

G:
リアルの人々に対する認知度を高めるための策はありますか?

甲斐:
最近はいろいろなところで取り上げられる機会が増えてきておりまして、2月7日にTBSさんの情報番組「がっちりマンデー!!」に取り上げていただいたところ、結構な反響がありました。全国ネットだったので都市圏の方だけでなく、日本全国津々浦々の方々に見ていただけて、うれしく思っています。今のところ具体的な予定はありませんが、いつかウェブだけでなく、リアルでイベントをやってみたいと思っています。

G:
賢者の買い物から「買ってよかった」をすべてのひとに。へとキャッチコピーが変わりましたが、どのような背景があるのでしょうか。

結城:
2006年後半から2007年前半にかけて、価格.comのブランディングを見直そうという「ブランドプロジェクト」というものがありまして、半年くらいをかけてサイトコンセプトを整理しようという話があったのですが、その中でいろいろと検討していった結果、コンセプトを明確化してブランドビジョンを決め、サイト上にも表示しました。

これがコンセプトページ。「買って良かった」をすべてのひとに。をビジョンに、「最適なものがみつかる」「一番お得な方法で手に入る」「誰かに伝えたくなる」を軸として、実現のためのミッションがまとめられています。


ちょうど社員が一気に増えてきてサイトコンセプトの共有がブレやすくなった時期でもありましたので、ブランドビジョンを一度ちゃんと整理しようとする中で、今まで使ってきたキャッチコピーの「賢者の買い物」をどうするのかという議論が始まりました。

ただ、今後もっと幅広いユーザーに使っていただくためにも、「賢者の買い物」が示すような「知っている人だけが賢い買い物をできる」サイトではなくて、パソコンに詳しくない人でも良いパソコンが買えるようになるような、分かりやすいサイトにしないといけないということで、キャッチコピーを「買って良かった」をすべてのひとに。に変えました。あまり表には出していませんが、大きな方向転換ですね。

もともとパソコン大好きな人が数多く入ってきている会社で、昔は入社すると10万円を渡されて、「秋葉原でパーツを買い集めて自分の社用パソコンを組み立てろ。まず仕事はそこからだ」というような会社だったので、価格.com自体も「知っている人向けのサイト」だったのですが、新たなユーザーを取り込むためにも、初心者でも欲しい商品を気軽に選べるようなサービスを提供していきましょうというのが、この3年間に取り組んだことですね。

甲斐:
より、親しみやすいものにするために、サイトデザインについても工夫しました。直感的で使いやすいインターフェースや、目に優しい淡い色使いなどもそうです。ただ、ロゴについてもいろいろな案が出ましたが、激しく変えることには社員も抵抗がありまして、マイナーチェンジっぽいものに落ち着きました。また、ユーザーさんが、より便利なサービスを使うのは当然だと思いますので、サイトデザインや導線には気を付けています。もし使いづらくなったと感じたら、いつでもご連絡下さい(笑)

G:
2007年時点での月間ページビューは4億となっていましたが、現在はどうなっていますか?

甲斐:
2010年1月の時点で、約7億7000万程度ですね。

G:
約3年前と比較してほぼ2倍となっていますが、右肩上がりですね。

甲斐:
本当にユーザーの皆様のおかげです。ありがとうございます。

G:
システムについてはどのようにされていますでしょうか(サーバーの台数など)

結城:
2007年4月当時のサーバーの台数はグループ全体で200台くらいでしたが、今は355台になりました。アクセス数や他のドメインでのサービスが増えるに従って増えています。355台のうち価格.comが170台で、食べログが50台となっていますね。

また、サーバーのスペックが上がっていますので、新しいサーバーにリプレースすると台数を減らせることもありますね。台数ベースではなくトータルのスペックで考えると、かなり投資はしています。

G:
かつては「メーカーから試供品が送られてくることはちっともない」ということをおっしゃっていましたが、より知名度が向上した今でも状況は同じなのでしょうか。例えば「新製品ニュースで取り上げて欲しい!」などとして、メーカー側から売り込んでくるようなことはありますか?

甲斐:
試供品が送られてくることは今でもありませんが、新商品をメーカーさんが売り込んでくることはありますね。プレスリリースがすごく来るようになりました。ちなみに「送り先が分からない」ということで、メーカーの広報担当者の方がプレスリリースを新製品ニュースの担当者ではなく、直接弊社の広報部に送ってくることがありますが、もしこの記事を見ているメーカーの方がいらっしゃいましたら、news@●●●●(●●●●には、kakaku.comが入ります)にお送りいただくようお願いします。そうすると新製品ニュースの担当者に届きますので(笑)

あと秋葉原の情報を中心に提供するアキバ総研は完全に独立したメディアとして活動しているので、秋葉原で行われるアイドルイベントなどの案内が数多く届いています。

G:
2005年5月に不正アクセスを受けてサイトを一時閉鎖したことが「伝説的エピソード」となっていましたが、あれから新たな伝説は生まれましたか?

甲斐:
正直なところ、2007年10月の価格.comの大幅リニューアルが一番大きいイベントでしたね。今までのキャッチコピー「賢者の買い物」や今までのロゴを捨てて新しく生まれ変わりました。あと、昨年には会社のロゴも新たに作りました。あとは住み慣れた総武線沿線からの引越しですね。

そしてもう1つ。アクセスが非常に好調で、かなり早い段階でアクセス目標を達成できたことですね。また、「食べログ」は昨年、初の書籍化にこぎつけましたが、これもリアルへのアプローチの1つです。すでに関西版が発売されていますが、3月には関東版も出ますので、是非ご覧下さい!

G:
新しく会社の自慢になるようなことができたなら、お教え願います。

甲斐:
ちょっとオフィスがキレイになりましたね(笑)新しく「リフレッシュルーム」なるものができました。テレビとテーブル、イスが揃えられてここで休憩ができます。総務の人が、社内の家電に詳しい人に聞いてテレビを調達したそうなのですが、東芝のレグザになりました。

◆「価格.com」の実態にさらに迫る

G:
以前GIGAZINEで価格.comが儲けるカラクリとして「集客サポート」「販売サポート」「情報提供」「広告」の4つから成り立っているのではないかという記事を掲載しましたが、実際はどうなのでしょうか?

結城:
まるっきりその通りです。決算資料から収益構造を読み解いていただいていますが、弊社の社員からも「あの記事を見てよく分かった」という声が非常にありました(笑)社内の人間は事業部ごとに分かれてしまっていて全てを把握しにくくなっているため、ほかの事業部との売り上げのバランスといったことを把握するのに役に立ちました。

G:
価格.comの新しい商材として、「製品詳細ページを活用した製品ダイジェスト」というのができましたが、実際の反応はどうですか?

結城:
まだ2009年11月にサービスを開始したばかりで営業をかけているところですが、今のところ数十社が利用しています。メーカーがユーザーに対して、訴求したいポイントを3つに限定して訴求できるサービスですが、「訴求できる点を特徴だけに絞った非常にマニアックな広告枠」と考えていただければいいかもしれません。

製品ごとのページに掲載されているため、コンテンツの延長的な扱いになるので、参考情報として見てもらいやすいのではないかと思っています。価格.comではスペック情報を掲載していますが、スペック表に出にくい各製品の特徴まではカバーしきれていないので、それをカバーするために導入しました。

メーカーさんが本当に言いたいことを、関心を持って製品情報ページを見に来た、購入確度の高いユーザーに直接訴求できるようにしていますし、いっぱい入れば入るほどコンテンツが充実するので、多くの会社に参加してもらうためにも、価格は1製品あたり6ヶ月で1万円(1ヶ月1667円)からと非常に安く設定しております。

G:
2009年11月より、前日の最安値から5%以上値下がりした製品をリストアップして、現在の最安価格と値下げ率、値下げ額、売れ筋などの各ランキングの順位とともに紹介する「本日の値下がり製品リスト」が提供されていますが、どれくらいの反響があったのでしょうか。

結城:
月間で32万ページビューとなったので、結構見られてはいますね。夜中に情報が一度クリアされるのですが、ゆっくりと情報が追加されていきますので、午前中は見てもあまり面白くないかもしれません。午後になると大分充実しますので、なるべく午後に見てみると面白いのではないでしょうか。

本日の値下がり製品リスト。在庫はリアルタイムに変動するので、見逃さないようにこまめにチェックした方がいいかもしれません。

G:
また、ほぼ同じ時期に法人向けに価格.comに掲載されている莫大な数の製品に対するユーザーの注目度のチェックや、メーカー同士の比較が可能となる「価格.com Trend Search Enterprise版」を開始しましたが、やはり法人ユーザーからの要望を受けてのことですか?

甲斐:
そうですね。以前から弊社が持っているデータを活用したサービスをやりたいというのがありましたし、メーカーさんやシンクタンクさんから、データを買いたいという要望もありました。そして要望があるごとにデータを集計して編集して……という作業をしていると、かなり手間がかかりますし、結果、メーカーさんにとっても弊社にとってもリーズナブルではありませんでした。

「価格.com Trend Search Enterprise版」は、弊社の「手軽にデータを集めて販売できる仕組みを提供したい」という希望と、メーカーさんのデータに対する高いニーズの両方を受けて実現したものです。膨大なデータを瞬間的に集計して出力するので、商用利用に耐え得るパフォーマンスを出すために試行錯誤を重ね、半年ほどかけてチューニングしました。

◆コミュニティの運営について

G:
一日に約5000~6000件ぐらいの書き込み数があるそうですが、どうやってコミュニティの質を維持しているのでしょうか。荒らしや迷惑なコメントをするユーザーへの対処についてお聞かせ下さい。

結城:
1997年に価格.comを立ち上げて、コミュニティは1998年から運営していますので、人にも組織にもノウハウが非常に溜まっているのと、製品にひも付けられた掲示板であるのと、ユーザーが成熟しているので、荒れづらいですね。もし荒れた場合も規約を非常に明確に持っていますので、規約に違反した場合は削除しています。

この間削除率のデータを見ましたが、平均すると全体の書き込みに対して2~3%程度にとどまっています。削除されるものもスレ違いやマルチポストが多くを占めていますね。

また、特にカメラなどのカテゴリだと、クチコミ掲示板で同じカメラを使っているユーザー同士のコミュニティ化してしまっていて、雑談の場となってしまうことがあるのですが、初心者が書き込みやすくするためにも、価格.comユーザー同士が気軽に雑談を楽しめる場として新たに「縁側」というサービスを提供しました。

これが2月22日から開始された縁側です。自由なテーマで掲示板を設置して意見交換ができるようになっています。

G:
2010年1月1日にパソコンパーツショップ「クレバリー」が不況箱を発売したところ、内容物のひどさにユーザーからショップ評価を暴落させられるという事態が発生しましたが、もし誰かが特定のショップの評価を下げる目的で複数のアカウントを利用するなどしてショップに低評価を下し続けるなどした場合、価格.comでは何らかの対処を行うのでしょうか。

結城:
書き込みをするためには、そもそもID登録が必要なのと、同じ人が複数のIDで評価を投稿したことがわかるような仕組みを持っているので、基本的にそういったものは排除できますね。最初からそういった対処をできるようにしておかないと、もし誰かのいたずらですべての店舗に「もう二度と利用したくない」という評価が付けられた場合、弊社もお店もビジネスが成り立たないと思っていますので、掲示板よりもかなり気を使っています。

甲斐:
書き込みに対しては気を使っていますね。「店舗に行ったら在庫切れだった」「自分が買った後に値段がさらに下がったのには腹が立つ」といった、購入行為とは直接関係のない書き込みについては削除対象となります。

ここに関してはこれまでの掲示板管理のノウハウの集大成が生きていると思いますね。当然100%公正な管理というのは難しいのですが、できる限り100%に近づける努力は続けています。クレバリーさんの店舗評価の書き込みは一時期すごいことになっていましたが、規約とは言え、その最中に運営側が何か動くのは、逆に火に油を注ぐ可能性も考えられましたし、そっとしておいた方がいいのではないかという考えもありましたので、マニュアル一辺倒ではなく、その都度状況に応じて対応していくのが良いのだろうと思います。

削除に関しては「匙加減」や「タイミング」が大事になってくるのですが、長年の経験がものを言うみたいで、「雲行きが怪しくなってきたから、そろそろ雨が降るのではないか」というような直感が身に付くようになっていますね。

結城:
削除対応などはカスタマーサポートが行っていますが、過去に何度か規約違反の実績があるアカウントなどは要注意対象として、常にチェックできるようになっているので、そのアカウントの人が何かをするとすぐに分かるようにはなっています。

◆さまざまなカテゴリに数多くのショップが登録

G:
たくさんのショップが登録されていますが、全部で何社が登録しているのでしょうか。

甲斐:
価格比較に参加しているのは1300~1400社ですね。カテゴリ別のショップ数ですが、カメラや家電、パソコンなどの複数のカテゴリをまたぐ形で商材を扱っているショップもあるので一概には言えませんが、扱っている商材が多いので、家電が一番多いと思います。

G:
新しいカテゴリを追加するときは、どのような基準で決めているのですか?

結城:
直近で追加される予定のカテゴリは「芝刈り機」と「草刈り機」「電動工具」です。追加基準ですが、まずはユーザーのニーズですね。あと価格比較を行うためには、型番がしっかりしていることと、ネットで通販されていることが前提です。デジタルフォトフレームといった一気にメジャーになったものや家庭用プラネタリウムといったマイナーなものまで、ニーズに合わせて追加しています。

新卒の子に研修で追加するカテゴリ候補を調査してもらったところ、家庭用プラネタリウムが出てきたので、そのまま作ってもらいました(笑)

これが新たに追加された家庭用プラネタリウムのカテゴリ。あまりメジャーな製品でないからこそ、クチコミ掲示板で情報交換が行われることに大きな意味を持ちそうです。

G:
今年1月に携帯カメラに写した色から洋服を手軽に探せるAndroidアプリケーション「ファッションカメラ」を提供開始しましたが、今後はAndroidをはじめとしたスマートフォンで価格.comのサービスを利用しやすくしていく方針なのでしょうか。

結城:
ユーザーからの要望もとても多いので、そろそろやらないといけないと思っています。今後の展開について、現在検討中です。

G:
カテゴリに「LANケーブル」はあるのに「LANハブ」がないのはなぜですか?正直、スイッチングハブとかの評価を知りたいのですが……。

結城:
「その他ネットワーク機器」というカテゴリに入っています。調理器具やカメラ関連製品なども「その他」に入っています。数が集まれば独立したカテゴリになります。製品数がないとランキングが成り立たなかったり、情報が少ないページになるためですね。

◆信者同士の争いは?

G:
各メーカーや製品ごとに「信者」と呼ぶべき熱心なファンがいて、ともすればファン同士での対立なども起きそうな気がしますが、だいたいどのようなジャンルに「信者」が多いのでしょうか?

結城:
対立が一番スゴいのはゲームのWiiとPS3ですね。あとは、そこまで白熱しないものの、プラズマテレビと液晶テレビの対立です。「信者」という観点で言うなら、Appleユーザーの団結力はすごいと思います。ソニーは「ソニー信者」というほどの人はあまり多くなく、信者というよりはファン止まりです。カメラに関しても各メーカーのファンはいますが、信者というほどのユーザーは多くありません。

G:
製品へのクチコミなどの内容を見ていて、あまりの不具合報告の多さに「この商品はリコール対象じゃないのだろうか…?」と客観的に見て思うことはありますか?

甲斐:
そこまで不具合報告が多い製品に当たったことはありませんが、製品に個体差はありますので、ユーザーがたまたまハズレの個体を引いてしまった場合というのはあると思います。そういう書き込みに対して、ほかのユーザーが「それは初期不良ですよ」というレスを返している例は見かけますね。

昔と違ってお客さんが豊富な情報を持った上で買い物に来る場合が多くなっているので、家電量販店の人が自分の担当する商品に関するクチコミ掲示板の不具合報告を事前にチェックしておくという話を聞いたことがありますね。

◆「消費全体のサービスを手がけている会社」へ

G:
昨年あたりから本格的にニュースリリースや調査レポートなどを配信するようになりましたが、社内体制に何か変化があったのでしょうか。広報担当は増えましたか?

甲斐:
以前は私1人だったのが、現在は2人になりました。ちょうど倍ですね(笑)

新たなスタッフも頑張ってくれていて、出しているリリースやサイトの数は倍以上にはなっていると思います。調査レポートを表に出していくのが価格.comリサーチで、トレンドニュースはトレンドサーチをPRするためのサイトなんですよ。基本的に文章は専属のスタッフが書いてくれているので、そのままリリースとして出しちゃえと。

また、うちの会社は組織を定期的に変えるので、検索サービス部やインターネットマーケティング部といった、ある分野に特化した部門も出来、全社にプラスの効果も出ています。人員も引き続き増えていますし、組織を活性化させるためにも、今年もまた新しい組織ができるかもしれません。

G:
今後の方針をお聞かせ下さい(こんな感じの展開を予定しています、など)

結城:
2007年当時にはなかったのですが、Yahooさんや楽天さんをはじめとしたインターネット上のショッピングサイトを横断して商品を検索できるショッピングサーチを価格.comに導入したことで、ファッションや洋服、お肉やお酒まで買えるようになりまして、フード・ドリンクなどのカテゴリも新設されました。

今後はパソコンや家電、カメラだけでなく、日用品なども価格.comで選んでから買うという流れを作れるようになればいいなと思っています。

試しにショッピングサーチを利用して検索してみたところ。価格.comのほかのカテゴリと同様のインターフェースで、Yahoo!ショッピングや楽天市場の商品も横断して検索できます。

甲斐:
カカクコムグループとしては、価格.comや伸び盛りの食べログが有名ですが、ほかのサービスも「第二、第三の価格.com」として盛り上げていきたいですね。弊社サービスに対する印象も「パソコンや家電の値段が分かるサイト」から「(パソコンや家電だけでなく)商品の値段が分かるサイト」という風にシフトしているようですが、イメージとしては買い物だけでなく映画を見たり旅行のチケット予約をしたり、住居を借りたりといった「消費全体のサポートサービスを手がけている会社」として認知されたいと思っています。

G:
ありがとうございました。

http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20100228_kakaku_com/

絶縁体で電気信号伝達=パソコン8割省電力化も−電子の「スピン」使う・東北大など

 東北大金属材料研究所などの研究チームは、電流を通さない絶縁体を使って電気信号を伝達することに成功した。電子そのものが移動する電流ではなく、電子の自転(スピン)が次々に伝わる性質を利用する方法で、パソコンや携帯電話などに使われる集積回路サイズなら約8割の省エネが可能という。論文は11日付の英科学誌ネイチャーに掲載された。
 通常の集積回路などは、金属や半導体に電流を流すことで電気信号を伝達する。しかし、電流が流れる際には金属などの内部抵抗による熱(ジュール熱)が生じ、エネルギーを失うため、素子の小型化や省電力化の妨げになっていた。
 同研究所の斉藤英治教授(物性物理学)らの研究チームは2006年、白金など一部の金属に電流を流すと、電子のスピンの方向が次々に変化して隣の電子に伝わる「スピン波」が生じたり、逆にスピン波が金属に電流を生じさせたりする現象を発見。この現象を利用して、電気信号を伝達することを考えた。
 研究チームは、「磁性ガーネット」という電流は通さないものの磁石の性質を帯びやすい絶縁体の両端に白金を取り付け、片方の白金に電流を流したところ、白金で生じたスピン波が絶縁体を伝わり、約1ミリ離れた先にあるもう片方の白金に電流が検出された。
 絶縁体そのものには電流が流れないため、ジュール熱はゼロ。伝達によるエネルギーの損失はごく小さく、集積回路クラスなら消費電力は約80%削減できる計算だという。斉藤教授は「絶縁体では電気信号を伝えられないという300年来の常識を覆す発見。省エネなどさまざまな応用が期待できる」と話している。(2010/03/11-06:57)

http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2010031100071

Facebookユーザ最大の悩みは“恋愛”? 〜 OKWave、「mixi」と「Facebook」を比較調査
















 オウケイウェイヴは10日、同社が運営するQ&Aサイト「OKWave」に寄せられた「mixi」および「Facebook」に関する質問から、SNSについての傾向を調査した結果を公表した。

 それによると、mixiについては、「入会の仕方」や「サービス利用時の問題解決」に多くの質問が寄せられているのに対し、Facebookに関する質問ではSNSを通じた「コミュニケーションのとり方」やコミュニティで構築される「人間関係」について多くの相談が寄せられていることが分かったとのこと。
「OKWave」では、これまでに投稿された「mixi」と「Facebook」に関する質問内容をそれぞれ210件分析(対象期間:2009年1月〜2010年2月)。「mixi」については、「利用時の問題解決」についての質問が全体の38%ともっとも多く、会員登録の方法はじめ、「投稿がうまく表示されない」「写真を投稿するにはどうすればいいのか」など投稿の仕方や表示エラーといった利用時の疑問や問題解決についての質問が多く見られたという。対する「Facebook」では、Facebookでの「コミュニケーション」についての相談が質問全体の28%を占め、留学先でのコミュニケーションのとり方、Facebookでの友人や恋人の発言についての相談などFacebookを介してのコミュニケーションや人間関係についての悩み相談が多く見られた。

 またFacebookにおけるこれら質問内容の内訳を調べると、“恋愛”に関する悩み相談がもっとも多く、遠距離恋愛中のFacebookでのやりとりについて、恋人のFacebook利用に関する相談など、恋愛における人間関係、コミュニケーションについての悩み相談が多く見られたとのこと。

http://www.rbbtoday.com/news/20100311/66281.html

日本型仮想世界「ニコッとタウン」の最も日本的な部分

新清士のゲームスクランブル

 グーグルが仮想世界サービス「Lively」の年内閉鎖を決めるなど、仮想世界が全般に苦戦しているという話題がこのところ増えている。しかし、本当に成長可能性はないのだろうか。これまでと違う切り口からこの分野に挑んでいる日本発の「ニコッとタウン」は、ユーザーを集めることに成功しつつある。このことからわかるのは、仮想世界で必要なのは、技術力ではなく企画力ということだ。(新清士のゲームスクランブル)

■枯れた技術で構築

 ニコッとタウンは、スクウェア・エニックスグループのスマイルラボ(東京・渋谷)が9月29日に正式サービスを開始した仮想世界サービスだ。ただ、「セカンドライフ」などの既存の仮想世界とはかなり性質が違う。

 「新・仮想生活」というコンセプトを掲げており、アバターを使ったチャット、ブログ、カジュアルゲームで構成されている。ぱっと見ただけでは、特に男性にはこのサービスのおもしろさがピンとこないかもしれない。ユーザー数は2カ月で約4万人に達した。提携企業のニフティ以外では広告をほとんど行っておらず、口コミ頼みにしてはかなり好調といえる。

 しかも、既存の仮想世界とユーザー構成がかなり違う。メーンのユーザー層が女性で、アカウントの約7割を占めている。年齢層も10歳代前半から30歳代までと幅が広い。

 このサービスの特徴は、新しい技術をほとんど使っていないところにもある。仮想世界では、3Dグラフィックスといった技術面をセールスポイントとする場合が多い。しかし、ニコッとタウンはすべてをアドビのFlash技術を使って構築しており、2Dだけだ。つまり、「枯れた技術」によってサービスを提供している。

 最大のメリットは、ブラウザーだけでサービスを利用できるという点だ。最新の高性能パソコンでなくても十分に動かすことができ、ハードウエア環境や設定などの技術的知識が必要ない。女性ユーザーでも参加するための障壁が極めて低いのだ。

 一方で、サービスの企画運営面は極めて高いレベルが求められる。任天堂の戦略にも見られるが、枯れた技術で勝負する場合には、わかりやすいインターフェース、ユーザーの活動に対する報酬の仕組みの設計など、非技術の要素が重要な鍵になる。


■半年かけてアバターを検討


 最初のつかみとなるアバターのデザインはサービスの根幹と位置付けて、女性が見た瞬間に「かわいい」と飛びついてもらえるものを半年あまり時間をかけて検討した。世界中のアバターサービスのデザインを集めて比較しながら、日本人の好みに合った頭と体のバランスを考えてデザインしたという。現在でも、色味などが趣味のよい組み合わせにできるよう、自らチェックしているという。 スマイルラボの伊藤隆博社長は、元々はアパレル関係のデザイナーとしてキャリアをスタートしている。そのためか、オンライン上のコミュニティーサービスでも、技術から組み立てようとはしていない。ユーザーにとって目に見える、デザインの側からサービスの設計を行っている。

 事実、参加している女性ユーザーにチャットで話を聞いても、アバターのかわいらしさに惹かれたからという声は多い。


■活動の動機付けになる報酬制度

 サービス面で特筆すべきは、とにかく何をやっても「褒められる」という設計になっていることだ。これは、ユーザーコミュニティーを形成していくうえで大きな効果をもたらしている。

 私自身、アカウントを取得して利用した際に驚かされた。ブログをはじめて書いたら、登録して半日も経たないうちに、すぐに複数の知らないユーザーから挨拶の書き込みをもらった。

 他のブログサービスも利用しているが、直接の知人以外から、自分のブログに挨拶がついた経験はほとんどない。逆に、私自身も知らない人のブログにコメントを付けたりすることはほとんどない。これは積極的にコメントを付けるアメリカと日本との文化的な差として考えていた。

 あわてて、それぞれのコメントを付けてくれたユーザーにお礼を返したのだが、書き込みをくれたユーザーにはそれなりの理由があることに、すぐに気が付いた。

 ニコッとタウンには、ユーザーの活動への明確な報酬が2つある。

 1つが、ニコッとタウンをユニークなものにしている「ステキ度」と呼ばれるものだ。他のユーザーがあるユーザーを魅力的に感じたら押す「ステキボタン」というものがある。これを押すと電子音が鳴って、相手のステキ度が上がったことが示される。誰かが自分にステキボタンを押してくれたときにも音が鳴る。そのため、私自身も押してくれた相手にお返しをしなければと、あわてて相手のアバターのステキボタンを押す。

 ステキ度はユーザーの経験値みたいなもので蓄積していくが、それ自体が何か決定的な価値を持つわけではない。ただ、挨拶代わりに、お互いに押しあうという文化がこれにより形成されている。


■挨拶や書き込みで増えていく「コイン」

 もう1つは「コイン」と呼ばれる仮想通貨で、これがユーザーの動機付けとしてうまくシステムに組み込まれている。

 ユーザーは1日1度ニコッとタウンにアクセスするだけで、「ごほうび」として50コインを獲得できる。ブログを更新すると、100コインが手に入る。 このコインを貯めることによって、アバターの服や自分の部屋の装飾品を購入できる。

 さらに重要なのが、他のユーザーとの関係によって、コインを得られる仕組みになっていることだ。他のユーザーが、自分のページにアクセスしてくれるだけで「お祝い」として1コイン増える。伝言やコメントを残してくれればそれも1コイン。ステキボタンを押してくれれば2コインもらえる。つまり、誰かが自分のページを訪問してくれて、何か書き込みをしてくれれば、1日1ユーザーにつき最大5コインもらえることになる。

 私のページに挨拶コメントを付けた人たちは、私がそのユーザーのページにアクセスしてお礼の挨拶をすることで、コインが増えることを期待している。相手の情報が限られるインターネット社会では、そんな「下心」付きでも、このわずかな善意が新規ユーザーに驚きとうれしさをもたらす。

 一方、ネガティブなことを書き込むユーザーには当然、お礼のアクセスや書き込みが集まらない。自分のコインを増やそうという動機付けは、お互いの書き込みをポジティブにする効果を明らかに生み出している。


■招待制でなくてもすぐに「友人」ができる

 以前に本コラムで紹介した、野島美保氏の著書「人はなぜ形のないものを買うのか」(NTT出版)の中で、オンラインゲームなどの仮想世界に新規ユーザーが定着する要因を分析した研究が報告されている。アンケート調査が明らかにしているのは、リアルであれ、バーチャルであれ、サービスにはまる最大の要因は「友達が一人でもできるかどうか」であるという。

 新規ユーザーはしばらくは目新しさからゲームを遊ぶ。しかし、ゲームに飽きてしまうまでに友人ができなければ、利用を継続しなくなる可能性が高い。野島氏は「SNSのミクシィの成功は、招待制で最初の一人の友人が確実に確保されているため、この問題にぶつからないことが要因」と説明する。

 ニコッとタウンにも、それは当てはまる。ニコッとタウンは招待制ではなく、誰でもアカウントを取得できるが、新規ユーザーがチャット空間に参加したり、ブログを書いたりすると、すぐに様々な人からフィードバックがある。そのため、一週間もかからないうちに誰かと緩やかな友人関係を築くことができる。

 私の書いたブログにも、まったく知らない人からたくさんのコメントが付く。昨日書いたばかりのものでさえ10あまりのコメントをもらい、もちろん私もお礼で相手のブログに書き込んでいく。私自身の過去の経験でも、ここまで知らない人のブログにコメントを付けることへの心理的な障壁が低いサービスはない。

 そして、何度もお互いのページでやりとりをしたり、たまにチャットをしたりするうちに、ご近所付き合いのような連帯感が形成されていく。お互いに書き込むにつれて、コインが増えることより、ネット上のコミュニケーションが楽しくなるという「仮想生活」へと変わっていく。何かしてもらったら、お礼を返そうという日本的な自然な習慣が、サービスのシステムにうまく組み込まれており、その繰り返しがネット上であれ人間関係を深めていく重要な鍵になっている。


■「2ちゃんねる」的ネット観を覆す

 もちろん、まだニコッとタウンの成功は約束されているわけではない。収益モデルは、アバターの服などのアイテム課金が中心であり、大半のユーザーは無料の範囲で遊ぶ。有料アイテムの課金は11月27日に始まったばかりで、収益が出せるかどうかはこれからの勝負となる。

 安全性の確保も課題だ。出会い系サイト化を防ぎ、他の有害サイトへの誘導を狙うスパム投稿も排除しなくてはならない。この点で、ニコッとタウンの運営側はうまく工夫している。特徴的なのが、お互いに直接メールをやりとりする機能がない点だ。必ず、他のユーザーも見ることができるような形でしか相手のページに書き込みができないため、無言の監視圧力が効いている。

 ニコッとタウンがこれまでのサービスと劇的に違うといえるのは、ネット上での匿名ユーザー間のやりとりは「2ちゃんねる」に代表されるように否定的な応酬が一般的であるという常識を覆しつつあることだ。ユーザー間の活動が深まれば、「サービスとしての成功」という表面的な段階を越えて、人間の情感に訴える価値のあるコミュニティーを創り出せるかもしれない。

 ニコッとタウンは日本型のまったく新しいタイプの仮想世界サービスとして、大きな成功をつかむ可能性が出てきたと考えている。


・ニコッとタウン

http://www.nicotto.jp/

「スター経済」がネットユーザーにもたらす副作用

新清士のゲームスクランブル

 任天堂の「ニンテンドーDSi」用ソフト「うごくメモ帳」(うごメモ)に代表されるように、ユーザーの評価でもらえる「スター」を機軸とする「スター経済」がオンラインコミュニティーに広がっている。今回はスター経済が登場した背景とその課題を考えてみたい。(新清士のゲームスクランブル)

 これまで「DSi『うごメモ』の大人にはわからない魅力」「ゲームの世界に出現した『スター経済』とは」と2回に渡って、スター経済を取り上げてきた。「スター経済」とは、いくら獲得しても実経済的にはまったく無意味なスターが一種の通貨のようにコミュニティー内に影響を及ぼす現象のことで、エンタースフィア(東京都町田市)社長の岡本基氏がスター経済と命名した。

 それはどのような経緯をたどって出現したのだろうか。

■パッケージとオンラインの中間に出現

 日本では2003年ごろから人気が出てきたパソコン向けの大規模オンラインRPGは、ゲーム会社のサーバーにユーザーのデータを預けることで成立する点が新しかった。そのデータは、ゲームという仮想空間の中で希少価値を持つゆえに、現金でデータを売買する「リアルマネートレード(RMT)」という行為を生んだ。現実経済とゲーム空間が陸続きになった瞬間だ。

 ユーザーの反発を生みながらも、この新たな可能性に対する企業側の期待は膨らみ、07年の「セカンドライフ」ブームへとつながる。しかし、ネット上のエンターテインメントサービスに、ユーザーが必ずしも経済性を強く期待しているわけではないことは、すぐに明らかになる。

 ユーザーはサービス内での自分の行動の結果が、お金といった直接的な報酬に結びつかない、経済的に意味のない報酬でも、十分に満たされることを経験を通じ知るようになった。さらに、この5年ほどで大きく変わったのは、ユーザーがサーバーからサービスを受けるだけでなく、自らも何らかのデータをサーバー側に積極的に提供するようになったことだ。

 その結果、サービス運営側がデータを提供してくれたユーザーに対してスターのような報酬を通じてフィードバックし、サービスの魅力をさらに高めていく素地ができた。スター経済は、RMTの問題を回避しながら「経済性を持った遊び」を生み出すという意味で、従来のパッケージで流通するゲームとRMTにつながるオンラインゲームの中間領域に出現した存在といえる。

■ゲーム性は今後ますます発展

 スター経済における報酬は今のところ複雑なものではなく、パラメーターも少ないサービスが多い。しかし、スターのような無価値なものにユーザーが価値を見いだしてくれるのであれば、企業は様々なパラメーターを作り出して価値を創出していくだろう。様々な評価システムを持ったサービスが今後登場してくると予測できる。

 例えば、うごメモでは、「決められた音程を付けた音声をアップロードする」「テーマとして与えられた動画をうごメモで再現する」といったクイズのようなサービス展開が可能だろう。ユーザーが楽しんでくれる限り、ゲーム性は発展し続けると考えてよい。

 しかし、それが常にユーザーに快適をもたらすのかというと、必ずしもそうではない。そもそもスター経済に基づくサービスは、脳にとって「気持ちがいい」と感じられる報酬を提供することでユーザーを増やしていく。ところが、筆者の周辺のユーザーを見る限りでも、その快感の副作用が生じているケースがあるのだ。

■「ニコッとタウン」の燃え尽き現象

 スター経済の問題点を仮想世界サービス「ニコッとタウン」を例に考えてみる。

 ニコッとタウンは、スターに当たる「ステキ度」と仮想通貨「コイン」という2つのパラメーターを持っている。コインはコミュニティー内での行動に対して提供されるもので、ユーザーの活動の動機付けをするシステムだ。


 コインをもらった側は、見知らぬ人に対してお返しで書き込みなどをしようとするため、善意を前提としたコミュニケーションが成り立ちやすい。他のユーザーに何か働きかけると何らかの報酬が返ってくるという、居心地のいい空間ができあがる仕組みになっている。 特に、他のユーザーと交流する経験に対しコインが提供される点が新しい。他のユーザーに「ステキボタン」を押してもらうと2コイン、他のユーザーから書き込みをもらうと1コインなどなど。同じユーザーから1日にもらえるコインの上限は決まっている。

 ところが、友だちの数が増えてくると、そのコイン獲得に伴う活動が苦しいものに変わりはじめる。他のユーザーにお礼に回ること自体が大変な作業となり、何十人もの友だちができれば1時間以上がすぐに吹っ飛んでしまう。もはや、なんのためにそれをやっているのかわからなくなってくる。

 ニコッとタウンで筆者の「友だち」となった20歳代の女性が、最初は熱中していたが、ある時から「楽しいけど疲れる」という書き込みをするようになった。

 今年1月に入って、「一時、休みます」という書き込みがあった後、2週間空けて「皆さんに忘れられてないか心配」と元気であることを伝える書き込みが再びあった。それには、「ゆっくりいきましょう」といった6つあまりのコメントが付いた。

 そして、さらに2週間後、そのアカウントを見つけることはできなくなっていた。削除はされていないようだが、公開の一時停止機能を使って閉じたようだ。それからすでに1カ月近く経つ。

 おそらく、そのユーザーは典型的な「燃え尽き現象」に直面したのだろう。善意に対して、完璧にお返しをしようと努力すればするほど、精神的な負担になり始める。このユーザーは、かなり真面目な性格のようで、書き込みに付いたコメントなどには、すべて丁寧に返信をしていた。そのうちモチベーションが「ポキン」と折れてしまうのではないかと思っていたところ、実際にそうなってしまった。

 こういう問題は、熱心にブログを更新するユーザーの間でも、少なくはないように見える。

■機能をコントロールできず失敗

 スター経済は、本来楽しいサービスを目指して作られたものであるのに、ストレスを際限なく増大させるという予期せぬ結果をもたらす可能性がある。

 ニコッとタウンは、無料で十分楽しませたうえに、「ついでによければ有料のアイテムも買ってください」というモデルを目指している。ユーザーフレンドリーであるように注意深く配慮したサービスであり、このようなストレスがたまる事態を運営側が意図して起こすことはあり得ない。

 筆者の小学5年生の息子の例では、うごメモを楽しみつつも、スターがほしいという気持ちが募りストレスになった。あまりにスターが得られないため、あるとき泣き出してしまったのだが、任天堂もはてなも、そうしようとしたわけではあるまい。

 これらは、スター経済の機能が働きすぎて、ユーザーの許容度を超えたケースだと考えることができる。ゲームシステムの設計になんらかの間違いが含まれていると想像できるが、まだその的確なコントロール方法はわかっていない。実験の時期が、しばらくは続くだろう。

■ユーザーのセルフコントロールが必要に

 筆者自身も、燃え尽きをニコッとタウンで経験した。マメにお返しをする方ではないので、2カ月もすると多くの善意が精神的な負担になった。結局、「返信しないことが多いです」と、プロフィルに書いた。それで負担は減ったが、代わりに限定アイテムを購入できるほどのコインは貯められなくなる。そもそもいらない、と頭の中で早々に諦めた。

 うごメモも家族と同じように熱中していたが、ランキング競争には巻き込まれないようにしている。「Xbox360」などのゲームでも、他のユーザーとの競争をほとんど意識しないで遊んでいる。

 結局、ユーザーはそのサービスによって得る刺激量を見極めて、何にどれぐらい力を注ぐのかをセルフコントロールするスタンスが必要になってくる。しかし、今後もスター経済は、人の行動を支配し時間を奪うような刺激を次々と作り出すだろう。その勢力を押しとどめる方法は現状はない。

ゲームの世界に出現した「スター経済」とは

新清士のゲームスクランブル

 任天堂の「ニンテンドーDSi」用ソフト「うごくメモ帳」(うごメモ)は、パラパラ漫画のような動画を簡単に作成でき、投稿サイト「うごメモシアター」はいまや小学生版「ニコニコ動画」のようなにぎわいを見せている。ユーザーは気に入った動画に「スター」を贈ることができ、このスターを集めようと子どもも大人も熱中するのだが、今回は「スター経済」というキーワードで、そのメカニズムとコミュニティーサイトに与える影響をみていこう。(新清士のゲームスクランブル)

 先週のコラム「DSi『うごメモ』の大人にはわからない魅力」では、うごメモの人気ぶりと、投稿された動画の総合ランキングを左右するスターの果たす役割について考えた。そのなかで、うごメモのスターはいくら獲得したところで実経済的にはまったく無意味だが、それに序列や損得の概念が入ってきたときに意味を感じてしまう人間の脳の“癖”があると書いた。「スター経済」とはそうした原理に基づく現象であり、すでにゲームでは広く取り入れられている。

 例えば、以前のこのコラムでも紹介したが、「Xbox360」が採用した「ゲーマースコア」「コール・オブ・デューティ4」のオンライン対戦を盛り上げる要因になっている「実績システム」日本型仮想世界サービス「ニコッとタウン」の「ステキボタン」などがそうだ。

■任天堂出身の起業家が名付けた「スター経済」

 しかし以前は、この概念を一般化して理解するためのキーワードがなかった。これをスター経済と名付けて論じたのが、エンタースフィア(東京都町田市)の岡本基社長だ。2月に行われたオンラインゲームのカンファレンス「OGC2009」の講演でのことである。

 岡本氏がスター経済の代表例として挙げたのは、ニコニコ動画の「マイリスト」数や、画像投稿SNS「pixiv」の1日1回投稿できるスターといったものだ。これらのコミュニティーサービスは、「mixi」など幅広いユーザーが集まる汎用SNSとは異なり、特定のジャンルに絞り込んだ「特化型SNS」とでも言うべきものだが、岡本氏は「SNSの皮をかぶったオンラインゲーム」であると考えている。

 岡本氏は、「はじめてのWii」のチーフディレクター、「WiiFit」のトレーニングディレクターなどを担当した任天堂出身のベンチャー起業家だ。UGC(User Generated Content)の持つ潜在的な可能性に目を付け、2008年春に独立してエンタースフィアを立ち上げた。

 さらに今年2月には「cg(シージー)」という、その名の通り3次元のコンピューターグラフィックスの作品を投稿できるサービスも始めた。登録ユーザーは、fgとcg合わせて1万5000人(3月上旬時点)を超えており、順調に拡大している。 果たして、岡本氏がどのようなサービスを仕掛けてくるのか期待していたところ、「fg(エフジー)」というフィギュアファン向けのSNSを08年11月にスタートさせた。プラモデルやフィギュアなどの写真を投稿して他のユーザーに紹介できる。

 現在は、広告以外の収益モデルを作ることができていないものの、fgは将来的にはフィギュアを投稿するユーザーとそれをほしいと考えるユーザーをつなぐ取引のプラットホームにすることを検討している。またcgでは3Dプリンターに出力してリアル化することで取引を可能にする仕組みを考えているという。

 いってみれば、個人ユーザーが自分の創作物を表現する場であると同時に、リアルマネーで売買できる商取引の場でもある。しかし、ここで重要なのは、現時点では経済的メリットがないにもかかわらず、うごメモと同じようにスター経済を基盤とするユーザーの競争が始まっているという点だ。

■上位獲得競争という「ゲーム」がもたらす結果

 fgに投稿された画像には、単純に閲覧された回数を表示する「閲覧数」、各ユーザーが5点満点の評価で付けた「スター」を合計した「総合点」、ユーザーが自分のお気に入りリストに入れた総数を示す「マイリスト数」の3つの評価軸がある。それに一定の係数をかけて計算した結果(もちろん、どういう計算式であるのかは非公開で、随時変更される)により、「毎日ランキング」「週間ランキング」「月間ランキング」が決まっていく仕組みになっている。

 投稿するユーザーは、自分の作品をランキング上位に載せようと様々な努力をするようになる。このスター経済に基づく行動こそが、SNSをゲームとして機能させる大きな要因となるのである。


 例えば、すでに起きているブームに便乗して評価を獲得しようという動きが活発化する。今であれば「初音ミク」といったよく知られている素材に人気が集中している。二次創作はUGCの定番だが、fgでも多くのユーザーの関心を得るために二次創作が多用されるという傾向が現れている。 しかし、この上位獲得競争というゲームは、コミュニティーを活性化させる原動力になる一方で、「ゲームで勝つ」という目的が肥大化していく側面も持つ。その結果、次のプロセスとして、「攻略法を探す」という競争が始まるようになる。

■コミュニティー発展の妨げにも

 投稿するユーザーは、自分のランキングに非常に敏感であり、運営に関する問い合わせにはこのランキングの算出方法を聞くものが多いという。また、攻略法やテクニックが発見され、それが知られるようになるとランキング上位が固定化していく。こうした不均衡が長く続くと、コミュニティーの発展を阻害する可能性がある。

 先週のコラムで取り上げたうごメモの「人気作品」コーナーは、サービス開始直後の1月時点では、単純に閲覧数やスターの数が多い順に作品が並ぶようになっていた。この人気作品コーナーは多くのユーザーの目に触れるため、結果として同一作者の作品に閲覧やスターが過度に集中することになった。

 しかし、この人気作品コーナーは最近になって、一定数のスターや閲覧数を集めた作品のなかからランダムに選択して入れ替える仕組みに見直された。そのため当初圧倒的な人気を集めていたハンドル名「たぁくみさん」の新作も、以前のように20万を超えるほどのスターは獲得できなくなっており、3月の新作では2万程度にとどまっている。これはシステムの変動によって、評価が極端に振り回されたケースだろう。

■行き過ぎた行為に至る場合も

 スター経済が過熱すると、「カジュアルチート」と呼ばれる逸脱行為が起きることもある。

 このカジュアルチートは、ニコッとタウンでも確認できる。プログラムで自動的に他のユーザーのページに「足あと」を残し、善意でお礼に来るユーザーを利用してステキ度や仮想通貨を手っ取り早く増やすやり方だ。これも事実関係の認定が難しい。ただ、ステキ度や仮想通貨は、他のユーザーと交換できないため、コミュニティー全体にとっては無害なものにとどまっている。 例えば、fgの場合、アカウントの取得はメールアドレスがあれば簡単にできる。そのため、大量にフリーメールのアドレスを取得して登録をし、自分の作品の評価を上げる行動をしていると考えられるユーザーも出てくるようになった。しかし、現在のインターネットの仕組みでは、サービスの運用側が本当に意図的な行為かどうかを確認しようがない。

 どんなシステムであれ、必ずユーザーは攻略法や裏技を様々な方法で探すという例である。

■スター経済が示す「ゲームの原点」

 岡本氏は、このスター経済の発生により、ゲーム性の本質に戻った部分もあると指摘する。サービスが今後どう変わっていくのか、サービス提供側にもユーザー側にも完全にはわからない「不確実性」が存在していること自体が、ゲームのおもしろさの一部だった時期がかつてあったからだ。

 「スペースインベーダー」(1978年)が出たまだ初期のころ、遊ぶ人たちはどうすれば攻略できるのかイメージできず、また時々出現するUFOの謎のスコアパターンに熱中した。数百点、数千点のスコアを獲得し、他のプレーヤーよりも上位になったことが単に楽しかった。

 しかし、その後ゲームが発展し複雑になるにつれて、何点というスコアの意味は相対的に薄れ、ゲーム中のスコアはインフレを起こしていく。10万点、100万点を超えるようになると、もはやスコアは価値を失った。その結果、ゲームは高度なグラフィックスや、壮大なストーリーといった重厚長大型による刺激に発展していくしかなくなったのではないかと、岡本氏は考えている。

 スター経済の台頭は、もっと単純なレベルでも、数値の変化を通じて十分にゲーム性を楽しめる余地があることの証明でもある。これは、新しいゲームジャンルが登場していると言ってもいい現象であろう。

 ただ、スター経済の浸透は、娯楽という範疇を超えて人間の生活を振り回してしまう側面も持っている。来週はそうした課題を検討しよう。

・material SNS fg(エフジー)
http://www.fg-site.net/

・3D model SNS cg(シージー)
http://www.cg-site.net/

・ニコッとタウン
http://www.nicotto.jp/


DSi「うごメモ」の大人にはわからない魅力

新清士のゲームスクランブル

 今年に入ってから、筆者の5歳の娘が「ニンテンドーDSi」に熱中し始めた。遊んでいるのは「うごくメモ帳(うごメモ)」。DSiの向けのソフトウエアのダウンロードサービスが昨年12月24日に開始され、無料で提供されているタイトルだ。大したことのない中身だと思っていたのだが、その第一印象は家族によって完全に覆された。子供向けUGC(User Generated Content)環境として圧倒的なパワーを見せたのだ。(新清士のゲームスクランブル)

■すぐに飽きると思ったが・・・

 「ニンテンドーDS」がバージョンアップしたDSiには、任天堂らしい写真や音で遊べる新機能が追加されたが、子どもたちはすぐに飽きるだろうと筆者は予想していた。果たして、その通り、購入後しばらくすると遊ばれなくなった。DSiは、しばらく置き物になるかと思っていた。

 うごメモは、音声入りのパラパラ漫画のような動画を作ることのできるソフトだが、率直にいって面白そうには見えなかった。そのため、筆者はダウンロードすらしてなかったのだが、小学5年生の息子が雑誌から情報を仕入れ、知らない間にインストールしたようだ。

 それで実際に触ってみたのだが、やはりピンとこなかった。タッチペンで描ける絵は表現力が低く、色数も少ない。

 ところが、2カ月半が過ぎた今も、我が家ではほぼ毎日「うごメモ」が起動されている。

■小学生版「ニコニコ動画」

 うごメモで作った動画は、はてなのサービス「うごメモシアター」を通じて、インターネット上のサーバーにアップロードして他のユーザーに見せることができる。もちろん、他のユーザーの動画も簡単に見ることができる。それがユーザーの客層にマッチする形で、小学生版の「ニコニコ動画」として見る間に急成長していった。その発展プロセスには驚かされた。

 息子と娘は、とにかくいろいろな動画を見ながらげらげら笑っているのだが、私には笑えるギャグになっていないと思うものばかりだ。音声を倍速で再生する機能があるので、それだけでも笑っている。小学生以下でないと笑えない動画があるということに気が付いた。彼らは、私が「YouTube」や「ニコニコ動画」などの動画サイトを見るのと同じ感覚で、うごメモで面白いものを探している。

 一方で、作ることにも、兄妹とも熱中し始めた。

 任天堂の企画力に脱帽せざるを得なかったのが、5歳児がきちんとした説明なしに使えてしまうインターフェースのわかりやすさである。パラパラ漫画を作る楽しさを知った娘の熱中ぶりはすごく、音声まで自分で付けて簡単なストーリーのある動画を作ってしまった。

 びっくりしたのは、音声を重ね合わせるような複雑な機能も使いこなしている点だ。インターフェースがそぎ落とされているから、わかりやすいのだろう。

■投稿に反響なく泣き出す息子

 投稿された動画のなかからはすでに人気キャラクターも生まれ、我が家でも頻繁に閲覧している。代表格はハンドル名「たぁくみ」さんが作り続けている「ボウニンゲン」シリーズだ。内容はボウニンゲンがハエやガビョウなど、意味のないものと対決して、大抵は負けてしまうという30秒ほどのギャク動画。コミカルで大人でも笑える。

 このシリーズは、うごメモの「総合作品ランキング」(開始以降の全期間)で、トップ9を独占しているという驚異的な人気だ。

 作者がどのような人なのかまったく背景はわからないが、ただの素人には見えない。ただ、玄人臭くない感じもあり、その辺が人気の秘密なのだろう。

 息子も、娘に負けじと様々なものを作って投稿している。まず、このたぁくみさんの作風を真似るようなところから始めているが、所詮は小学5年生。出来はすごくいいとまでは言えない。何を表現したいのかもわかりにくいし、展開も支離滅裂。自分が同じ年齢の頃には、そんなものだっただろうと思う。出来はともかく、本人は何時間も熱中して完成させ、何本もアップロードする。

 自分の動画の評価は、動画を見た人がボタンを押すことで獲得できる「スター」によって知ることができる。ところが、息子の動画には当然、反響がほとんどない。評価が戻ってこないことがフラストレーションになる。あまりにも評価が伸びないので、ある日にはとうとう泣き出した。日本全国に同じような悩みを抱えている小学生がいるだろうと、私は想像した。

■コミュニティーの設計に問題

 そうなっている原因は、「動画の供給過剰」と「評価軸の少なさ」にある。

 投稿があまりにも簡単なため、作品数が増えて供給過剰の状態になっている。正確な投稿数は不明だが、動画にはそれぞれIDが付与され、それが投稿データ数に近い数字だと推測できる。はてなは1月8日付で投稿数が10万件を超えたと発表しているが、現在ではIDベースで80万件を超えており、1週間で3万件以上と増加のペースは加速している。


 逆に、たぁくみさんのように一度人気作者になった人には、正のフィードバックが強烈にかかる仕組みになっている。同じ作者が投稿した作品の検索は容易なため、他の作品も閲覧されて評価が上がっていく。結果として、現在のような独占状況が起きている。このあたりは、システム全体の設計のミスであろう。 一方で、それらを閲覧する場合、DSi上では「新着」「人気」しかカテゴリーがない。そのため、新規に投稿した動画は、最初の段階で人気が集まらないとすぐに膨大な動画の中に埋もれてしまい、二度と見てもらえなくなる。

 当然、このままではコミュニティーがあっという間に成熟してしまう。はてなも改善に力を入れており、パソコンからも見ることができる「うごメモはてな」では、様々なカテゴリーを作って、過度な集中を分散させようとしている。

■スター獲得に奥さんも挑戦

 我が家ではついに、奥さんまでが挑戦してみることになった。真剣に作ってもスターを獲得できないのかどうか、知りたくなったようだ。

 UGCサイトで人気を得るには、コツがある。簡単なのは、みんなが見知っているものを使うことだ。そこで、すでに他の作者がアップしていた作品を改造する形で、マリオが実はマクドナルドのキャラクターだったというパロディーを数日間もかけて必死に作成し、つい先日アップした。

 果たして、投稿したその動画はスターを3400個も獲得し、閲覧数も8000回を超えるまずまずの結果となった。作者ランキングも2月は3000位あたりだったのだが、直近のランキングでは、300位にまで急上昇した。スターを獲得して、奥さんと息子は満足そうである。まだ、我が家のブームは終わりそうにない。

 しかし、このスターは、いくら獲得したところで経済的な意味は何一つない。心理的な充足も、ランキングが再び落ちてくれば、果たして続くかどうか疑問だ。にも関わらず、この2カ月半の間、我が家はうごメモのスターに振り回される生活が続いている。

 これは、無意味なものでも、それに序列や損得の概念が入ってきたときに、意味を感じてしまう人間の脳の“癖”が引き起こす。この脳の癖を利用したサービスを、うごメモのスターをもじって「スター経済」と呼ぶ人も現れた。次回は、このロジックがゲームの様々な場面に浸透しようとしている状況を報告する。

・うごメモはてな
http://ugomemo.hatena.ne.jp/

今年注目のスウェーデン製ゲーム「World in Conflict」の成功と失敗


 遊んでいる最中にゲームが成長していく。オンラインゲームに熱中したことのある人なら、誰もが経験したことのある喜びの一つだろう。同じゲームなのに勝つための最適な戦略が、どんどん動的に変化していく。一旦、このスリリングな状況に直面してしまうと、オンラインゲームの面白さから抜け出すことは簡単ではない。(新清士のゲームスクランブル)

 今年は、世界中で非常に質の高いゲームが次々にリリースされている「当たり年」とでも言うべき年だ。個人的にも今述べたような動的な変化にすっかり魅了されたタイトルがある。スウェーデンのMassive Entertainmentが開発した「World in Conflict」いうパソコン用ゲームである。

 これは、東西冷戦で1989年にソ連がアメリカに攻め込んだという設定のリアルタイム戦略ゲームだ。欧州では、パソコン用ゲームの市場が大きいため、日本のゲームとはまったく設計思想の違ったゲームが登場してくることがあり、驚かされる。2チームに別れての16人までの対戦を可能にしているこのゲームは、新しいジャンルを切り拓いたといえる斬新なオンライン対戦の仕組みを備えており、海外メディアで極めて高い評価を獲得している(日本では、ズーが発売予定。発売時期は未定)。

■ユーザーが探索するゲームの「可能性空間」

 ゲームデザイン論を本格的に学問領域に持ち込むことに成功したエリック・ジマーマンとケイティ・サレンの名著「Rules of Play」(ソフトバンクパブリッシングから訳書が刊行予定)のなかに、「可能性空間」というゲームの持つ特性を上手く説明した概念がある。それぞれのゲームは、多数の変数を持った抽象的な多次元の世界であり、実際には図像にして表現することは難しいが、表現することができる抽象的な空間がそれぞれのゲームに自ずから存在するという考え方である。

 例えば、ロールプレイングゲームの中で、キャラクターのレベルに最大値(上限)が設定されている。手に入れることができるアイテムの種類にも限界がある。その最大値が、可能性空間の果ての一つとでもいうべきものである。

 いわゆる「やりこみ」と言われるような行為は、ユーサーがそのゲームの可能性空間を探索していると考えることができる。ユーザーがゲームに求められているわけでもなく、また必然性がないにも関わらず、自ら目標を設定してキャラクターのレベルを最大値にまで増やしたりするような行為がそれに当たる。それぞれのゲームには、メーカーが設定するエンディングが通常あるが、それはユーザーがゲームの中の可能性空間の探索を終えたことと同じではもちろんない。

 ただ、やりこみのようなことをしなくても、基本的な遊び方をするだけで、ユーザーはそのゲームの持つ可能性空間の大まかな幅を想像し、把握することができる。

 逆に、ユーザーがあるゲームを見たときに、可能性空間の幅が想像できるゲームというのは成熟が進んだ分野のゲームと考えることができる。可能性空間の広がりが予測できるジャンルというのは、悪く言えば分野として終わりを迎えつつあるのだ。

 例えば、シューティングゲームや格闘ゲームの持つ可能性空間の幅は、その分野に慣れた人であれば容易に想像できてしまうだろう。逆に、可能性空間の幅が想像できないというゲームが新しい分野のゲームであり、新しい刺激を生みだしているゲームだと考えることもできるのだ。そして、多くの開発者が、様々な過去のゲームの可能性空間を考えながら、新しい可能性空間を生みだそうと苦闘する。

■見ず知らずのユーザーをネットで協力させる工夫

 人数を限定したオンラインゲームはゲーム設計上、常に難しい課題を抱える。見ず知らずの人間同士が、インターネット上で突然集まって、同じチームとして協力的にゲームを遊ぶことができるのだろうかという問題だ。多くのユーザーは同じチームに属していても、直接知っている友だちでない限り、結局は一人で遊んでいるような個人プレーをすることが多くなってしまうからだ。


 お金が貯まると当然強力な武器が使えるようになるため、まったく見ず知らずのユーザーと遊んでいても、自分たちのチームを勝たせたいというモチベーションが発生する。上手いプレーヤーは、初心者のプレーヤーが見落としがちな部分をサポートするように、自然に行動するようになるという、おもしろい特性を生みだすようになった。 これに対して、大きく成功したのが一人称シューティングゲームの「カウンターストライク」だ。3分あまりの対戦の結果チームが勝つとお金が貰え、そのお金でその回の任意に設定されている武器を買えるというルールが成功を引き出した。

 その仕組みは、同じくスウェーデンの開発会社Digital Illusions CEの「バトルフィールド」シリーズに応用される。ちなみに、スウェーデンのゲーム会社は数は少ないのだが、世界的なヒットを出す企業が2社もあり、なかなか侮れない。

■チームプレーを引き出す新たな仕組み

 World in Conflictの話に戻る。このゲームはまさに、新しい可能性空間の創出に成功したゲームである。

 今年7月の「E3」にあわせて、最終的な設定調整のためにオープンベータサービスが3週間行われたのだが、まさにユーザーがゲームと共に成長していくプロセスを肌で感じられ、楽しいとしか言いようがない体験だった。


 しかし、ゲームに参加するユーザーは、歩兵、戦車、ヘリ、支援火器の4種類の役職の中から、どれか一つしか選択することができず、それぞれの役職はじゃんけんのように強い弱いの関係があり、バランスよくメンバーが別れていなければ勝つことができない。そのため、上手いプレーヤーは、下手なプレーヤーの動きを予測し、それを補助しながら戦うことが強制されるような仕組みになっている。 World in Conflictは、リアルタイム戦略ゲームにも自然発生的なチームプレーの要素を組み込めないかという設計思想で作られている。基本的にチェスを連想させる陣地取りゲームであり、マップの中の特定の拠点を決められた時間占領し続ければ、勝ちというゲームである。

 ベータ期間中は、2つのマップを交互にプレーする設定になっており、各ゲームは1回10分程度で決着がつく。興味深かったのは、ユーザーがまずゲームシステムを学習し、次に基本的な戦略を学習し、さらにその応用を考え、必勝法らしきものができあがると、その必勝法の攻略法が編み出されるというサイクルが拡大を続けたということだ。

 ユーザーコミュニティーのゲームへの学習曲線が手に取るようにわかり、また数日のうちに劇的に変化していく。どこまでゲームとしての広がりがあるのか、可能性空間の幅が想像できないゲーム体験の醍醐味はやはり素晴らしい。

■ランキングシステムが仇となって破綻した仕組み

 ところが、先月ゲームが実際リリースされるとすぐに皮肉なことが起きてしまう。ベータのときには存在しなかった「必勝法」がすぐに発見されてしまったのだ。オンラインゲームの難しさは、環境をどれだけ注意深く用意しても、最終的にユーザーがどういう動きをするか予想するのが極めて難しい点だ。

 このゲームには、ゲームで獲得した成果によって階級が振られるというランキングシステムが搭載されている。それぞれのユーザーには階級章がついているために、どのユーザーが上手いユーザーなのかを判断することは簡単にできる。

 必勝法は、ゲーム開始時にチーム分けが行われる際、階級が上位のユーザーのチームに属するように選択すればいいという単純なものだ。この方法はすぐにユーザーの間に知れ渡ったために、上手いユーザーが皆一方のチームに集まるようになった。そのため、何も知らない初心者ユーザーが一方的にやられてしまうという最悪の状態が発生している。また、マップ数も20あまりと多いため、プレー時間がすでに数百時間に達している上位ユーザーと初心者との間に、埋めることができない格差がついてしまっている。

 せっかくチームプレーが自然発生する仕組みが上手く設計されているにもかかわらず、可能性空間は急激に閉じようとしている。実際、オンライン対戦をものの30分程度しか遊んでいないユーザーが数千人単位でいるという。一方的にやられて、オンライン対戦の体験をつまらないと感じたユーザーも少なくないだろう。

 開発会社も、そこまでは予想できなかったようで、今のところデータを追加するパッチが2度リリースされたが、ゲームシステムについては手つかずの状態でユーザーの間に不満が募っている。

 このままの仕組みを続けるのか、それとも今後何らかの方策を取り入れてくるのか。日本のゲームには存在しない形のゲームシステムであるため、ゲームデザイン的にも、運営方針という面でも、そしてユーザーコミュニティーがどう成長していくのかについても、、見るべき点の多いタイトルだと思い注視している。

「World in Conflict」公式ページ(英語)
http://www.worldinconflict.com/