2010年3月24日水曜日
タカラ創業者、86歳で博士号 ものづくりの極意体系化
2010年3月13日土曜日
新素材:98%水…医療などで利用期待 東大チームが開発
見事な“鎮火”はなぜ可能だったのか UCCの事例から考えるTwitterマーケティング
メーカーの「信者」は本当にいるのか?成長著しい「価格.com」を運営するカカクコム社でいろいろ聞いてきた
絶縁体で電気信号伝達=パソコン8割省電力化も−電子の「スピン」使う・東北大など
通常の集積回路などは、金属や半導体に電流を流すことで電気信号を伝達する。しかし、電流が流れる際には金属などの内部抵抗による熱(ジュール熱)が生じ、エネルギーを失うため、素子の小型化や省電力化の妨げになっていた。
同研究所の斉藤英治教授(物性物理学)らの研究チームは2006年、白金など一部の金属に電流を流すと、電子のスピンの方向が次々に変化して隣の電子に伝わる「スピン波」が生じたり、逆にスピン波が金属に電流を生じさせたりする現象を発見。この現象を利用して、電気信号を伝達することを考えた。
研究チームは、「磁性ガーネット」という電流は通さないものの磁石の性質を帯びやすい絶縁体の両端に白金を取り付け、片方の白金に電流を流したところ、白金で生じたスピン波が絶縁体を伝わり、約1ミリ離れた先にあるもう片方の白金に電流が検出された。
絶縁体そのものには電流が流れないため、ジュール熱はゼロ。伝達によるエネルギーの損失はごく小さく、集積回路クラスなら消費電力は約80%削減できる計算だという。斉藤教授は「絶縁体では電気信号を伝えられないという300年来の常識を覆す発見。省エネなどさまざまな応用が期待できる」と話している。(2010/03/11-06:57)
Facebookユーザ最大の悩みは“恋愛”? 〜 OKWave、「mixi」と「Facebook」を比較調査
日本型仮想世界「ニコッとタウン」の最も日本的な部分
グーグルが仮想世界サービス「Lively」の年内閉鎖を決めるなど、仮想世界が全般に苦戦しているという話題がこのところ増えている。しかし、本当に成長可能性はないのだろうか。これまでと違う切り口からこの分野に挑んでいる日本発の「ニコッとタウン」は、ユーザーを集めることに成功しつつある。このことからわかるのは、仮想世界で必要なのは、技術力ではなく企画力ということだ。(新清士のゲームスクランブル)
■枯れた技術で構築
ニコッとタウンは、スクウェア・エニックスグループのスマイルラボ(東京・渋谷)が9月29日に正式サービスを開始した仮想世界サービスだ。ただ、「セカンドライフ」などの既存の仮想世界とはかなり性質が違う。
「新・仮想生活」というコンセプトを掲げており、アバターを使ったチャット、ブログ、カジュアルゲームで構成されている。ぱっと見ただけでは、特に男性にはこのサービスのおもしろさがピンとこないかもしれない。ユーザー数は2カ月で約4万人に達した。提携企業のニフティ以外では広告をほとんど行っておらず、口コミ頼みにしてはかなり好調といえる。
しかも、既存の仮想世界とユーザー構成がかなり違う。メーンのユーザー層が女性で、アカウントの約7割を占めている。年齢層も10歳代前半から30歳代までと幅が広い。
このサービスの特徴は、新しい技術をほとんど使っていないところにもある。仮想世界では、3Dグラフィックスといった技術面をセールスポイントとする場合が多い。しかし、ニコッとタウンはすべてをアドビのFlash技術を使って構築しており、2Dだけだ。つまり、「枯れた技術」によってサービスを提供している。
最大のメリットは、ブラウザーだけでサービスを利用できるという点だ。最新の高性能パソコンでなくても十分に動かすことができ、ハードウエア環境や設定などの技術的知識が必要ない。女性ユーザーでも参加するための障壁が極めて低いのだ。
一方で、サービスの企画運営面は極めて高いレベルが求められる。任天堂の戦略にも見られるが、枯れた技術で勝負する場合には、わかりやすいインターフェース、ユーザーの活動に対する報酬の仕組みの設計など、非技術の要素が重要な鍵になる。
■半年かけてアバターを検討
最初のつかみとなるアバターのデザインはサービスの根幹と位置付けて、女性が見た瞬間に「かわいい」と飛びついてもらえるものを半年あまり時間をかけて検討した。世界中のアバターサービスのデザインを集めて比較しながら、日本人の好みに合った頭と体のバランスを考えてデザインしたという。現在でも、色味などが趣味のよい組み合わせにできるよう、自らチェックしているという。 スマイルラボの伊藤隆博社長は、元々はアパレル関係のデザイナーとしてキャリアをスタートしている。そのためか、オンライン上のコミュニティーサービスでも、技術から組み立てようとはしていない。ユーザーにとって目に見える、デザインの側からサービスの設計を行っている。
事実、参加している女性ユーザーにチャットで話を聞いても、アバターのかわいらしさに惹かれたからという声は多い。
■活動の動機付けになる報酬制度
サービス面で特筆すべきは、とにかく何をやっても「褒められる」という設計になっていることだ。これは、ユーザーコミュニティーを形成していくうえで大きな効果をもたらしている。
私自身、アカウントを取得して利用した際に驚かされた。ブログをはじめて書いたら、登録して半日も経たないうちに、すぐに複数の知らないユーザーから挨拶の書き込みをもらった。
他のブログサービスも利用しているが、直接の知人以外から、自分のブログに挨拶がついた経験はほとんどない。逆に、私自身も知らない人のブログにコメントを付けたりすることはほとんどない。これは積極的にコメントを付けるアメリカと日本との文化的な差として考えていた。
あわてて、それぞれのコメントを付けてくれたユーザーにお礼を返したのだが、書き込みをくれたユーザーにはそれなりの理由があることに、すぐに気が付いた。
ニコッとタウンには、ユーザーの活動への明確な報酬が2つある。
1つが、ニコッとタウンをユニークなものにしている「ステキ度」と呼ばれるものだ。他のユーザーがあるユーザーを魅力的に感じたら押す「ステキボタン」というものがある。これを押すと電子音が鳴って、相手のステキ度が上がったことが示される。誰かが自分にステキボタンを押してくれたときにも音が鳴る。そのため、私自身も押してくれた相手にお返しをしなければと、あわてて相手のアバターのステキボタンを押す。
ステキ度はユーザーの経験値みたいなもので蓄積していくが、それ自体が何か決定的な価値を持つわけではない。ただ、挨拶代わりに、お互いに押しあうという文化がこれにより形成されている。
■挨拶や書き込みで増えていく「コイン」
もう1つは「コイン」と呼ばれる仮想通貨で、これがユーザーの動機付けとしてうまくシステムに組み込まれている。
ユーザーは1日1度ニコッとタウンにアクセスするだけで、「ごほうび」として50コインを獲得できる。ブログを更新すると、100コインが手に入る。 このコインを貯めることによって、アバターの服や自分の部屋の装飾品を購入できる。
さらに重要なのが、他のユーザーとの関係によって、コインを得られる仕組みになっていることだ。他のユーザーが、自分のページにアクセスしてくれるだけで「お祝い」として1コイン増える。伝言やコメントを残してくれればそれも1コイン。ステキボタンを押してくれれば2コインもらえる。つまり、誰かが自分のページを訪問してくれて、何か書き込みをしてくれれば、1日1ユーザーにつき最大5コインもらえることになる。
私のページに挨拶コメントを付けた人たちは、私がそのユーザーのページにアクセスしてお礼の挨拶をすることで、コインが増えることを期待している。相手の情報が限られるインターネット社会では、そんな「下心」付きでも、このわずかな善意が新規ユーザーに驚きとうれしさをもたらす。
一方、ネガティブなことを書き込むユーザーには当然、お礼のアクセスや書き込みが集まらない。自分のコインを増やそうという動機付けは、お互いの書き込みをポジティブにする効果を明らかに生み出している。
■招待制でなくてもすぐに「友人」ができる
以前に本コラムで紹介した、野島美保氏の著書「人はなぜ形のないものを買うのか」(NTT出版)の中で、オンラインゲームなどの仮想世界に新規ユーザーが定着する要因を分析した研究が報告されている。アンケート調査が明らかにしているのは、リアルであれ、バーチャルであれ、サービスにはまる最大の要因は「友達が一人でもできるかどうか」であるという。
新規ユーザーはしばらくは目新しさからゲームを遊ぶ。しかし、ゲームに飽きてしまうまでに友人ができなければ、利用を継続しなくなる可能性が高い。野島氏は「SNSのミクシィの成功は、招待制で最初の一人の友人が確実に確保されているため、この問題にぶつからないことが要因」と説明する。
ニコッとタウンにも、それは当てはまる。ニコッとタウンは招待制ではなく、誰でもアカウントを取得できるが、新規ユーザーがチャット空間に参加したり、ブログを書いたりすると、すぐに様々な人からフィードバックがある。そのため、一週間もかからないうちに誰かと緩やかな友人関係を築くことができる。
私の書いたブログにも、まったく知らない人からたくさんのコメントが付く。昨日書いたばかりのものでさえ10あまりのコメントをもらい、もちろん私もお礼で相手のブログに書き込んでいく。私自身の過去の経験でも、ここまで知らない人のブログにコメントを付けることへの心理的な障壁が低いサービスはない。
そして、何度もお互いのページでやりとりをしたり、たまにチャットをしたりするうちに、ご近所付き合いのような連帯感が形成されていく。お互いに書き込むにつれて、コインが増えることより、ネット上のコミュニケーションが楽しくなるという「仮想生活」へと変わっていく。何かしてもらったら、お礼を返そうという日本的な自然な習慣が、サービスのシステムにうまく組み込まれており、その繰り返しがネット上であれ人間関係を深めていく重要な鍵になっている。
■「2ちゃんねる」的ネット観を覆す
もちろん、まだニコッとタウンの成功は約束されているわけではない。収益モデルは、アバターの服などのアイテム課金が中心であり、大半のユーザーは無料の範囲で遊ぶ。有料アイテムの課金は11月27日に始まったばかりで、収益が出せるかどうかはこれからの勝負となる。
安全性の確保も課題だ。出会い系サイト化を防ぎ、他の有害サイトへの誘導を狙うスパム投稿も排除しなくてはならない。この点で、ニコッとタウンの運営側はうまく工夫している。特徴的なのが、お互いに直接メールをやりとりする機能がない点だ。必ず、他のユーザーも見ることができるような形でしか相手のページに書き込みができないため、無言の監視圧力が効いている。
ニコッとタウンがこれまでのサービスと劇的に違うといえるのは、ネット上での匿名ユーザー間のやりとりは「2ちゃんねる」に代表されるように否定的な応酬が一般的であるという常識を覆しつつあることだ。ユーザー間の活動が深まれば、「サービスとしての成功」という表面的な段階を越えて、人間の情感に訴える価値のあるコミュニティーを創り出せるかもしれない。
ニコッとタウンは日本型のまったく新しいタイプの仮想世界サービスとして、大きな成功をつかむ可能性が出てきたと考えている。
・ニコッとタウン
http://www.nicotto.jp/
「スター経済」がネットユーザーにもたらす副作用
任天堂の「ニンテンドーDSi」用ソフト「うごくメモ帳」(うごメモ)に代表されるように、ユーザーの評価でもらえる「スター」を機軸とする「スター経済」がオンラインコミュニティーに広がっている。今回はスター経済が登場した背景とその課題を考えてみたい。(新清士のゲームスクランブル)
これまで「DSi『うごメモ』の大人にはわからない魅力」「ゲームの世界に出現した『スター経済』とは」と2回に渡って、スター経済を取り上げてきた。「スター経済」とは、いくら獲得しても実経済的にはまったく無意味なスターが一種の通貨のようにコミュニティー内に影響を及ぼす現象のことで、エンタースフィア(東京都町田市)社長の岡本基氏がスター経済と命名した。
それはどのような経緯をたどって出現したのだろうか。
■パッケージとオンラインの中間に出現
日本では2003年ごろから人気が出てきたパソコン向けの大規模オンラインRPGは、ゲーム会社のサーバーにユーザーのデータを預けることで成立する点が新しかった。そのデータは、ゲームという仮想空間の中で希少価値を持つゆえに、現金でデータを売買する「リアルマネートレード(RMT)」という行為を生んだ。現実経済とゲーム空間が陸続きになった瞬間だ。
ユーザーの反発を生みながらも、この新たな可能性に対する企業側の期待は膨らみ、07年の「セカンドライフ」ブームへとつながる。しかし、ネット上のエンターテインメントサービスに、ユーザーが必ずしも経済性を強く期待しているわけではないことは、すぐに明らかになる。
ユーザーはサービス内での自分の行動の結果が、お金といった直接的な報酬に結びつかない、経済的に意味のない報酬でも、十分に満たされることを経験を通じ知るようになった。さらに、この5年ほどで大きく変わったのは、ユーザーがサーバーからサービスを受けるだけでなく、自らも何らかのデータをサーバー側に積極的に提供するようになったことだ。
その結果、サービス運営側がデータを提供してくれたユーザーに対してスターのような報酬を通じてフィードバックし、サービスの魅力をさらに高めていく素地ができた。スター経済は、RMTの問題を回避しながら「経済性を持った遊び」を生み出すという意味で、従来のパッケージで流通するゲームとRMTにつながるオンラインゲームの中間領域に出現した存在といえる。
■ゲーム性は今後ますます発展
スター経済における報酬は今のところ複雑なものではなく、パラメーターも少ないサービスが多い。しかし、スターのような無価値なものにユーザーが価値を見いだしてくれるのであれば、企業は様々なパラメーターを作り出して価値を創出していくだろう。様々な評価システムを持ったサービスが今後登場してくると予測できる。
例えば、うごメモでは、「決められた音程を付けた音声をアップロードする」「テーマとして与えられた動画をうごメモで再現する」といったクイズのようなサービス展開が可能だろう。ユーザーが楽しんでくれる限り、ゲーム性は発展し続けると考えてよい。
しかし、それが常にユーザーに快適をもたらすのかというと、必ずしもそうではない。そもそもスター経済に基づくサービスは、脳にとって「気持ちがいい」と感じられる報酬を提供することでユーザーを増やしていく。ところが、筆者の周辺のユーザーを見る限りでも、その快感の副作用が生じているケースがあるのだ。
■「ニコッとタウン」の燃え尽き現象
スター経済の問題点を仮想世界サービス「ニコッとタウン」を例に考えてみる。
ニコッとタウンは、スターに当たる「ステキ度」と仮想通貨「コイン」という2つのパラメーターを持っている。コインはコミュニティー内での行動に対して提供されるもので、ユーザーの活動の動機付けをするシステムだ。
コインをもらった側は、見知らぬ人に対してお返しで書き込みなどをしようとするため、善意を前提としたコミュニケーションが成り立ちやすい。他のユーザーに何か働きかけると何らかの報酬が返ってくるという、居心地のいい空間ができあがる仕組みになっている。 特に、他のユーザーと交流する経験に対しコインが提供される点が新しい。他のユーザーに「ステキボタン」を押してもらうと2コイン、他のユーザーから書き込みをもらうと1コインなどなど。同じユーザーから1日にもらえるコインの上限は決まっている。
ところが、友だちの数が増えてくると、そのコイン獲得に伴う活動が苦しいものに変わりはじめる。他のユーザーにお礼に回ること自体が大変な作業となり、何十人もの友だちができれば1時間以上がすぐに吹っ飛んでしまう。もはや、なんのためにそれをやっているのかわからなくなってくる。
ニコッとタウンで筆者の「友だち」となった20歳代の女性が、最初は熱中していたが、ある時から「楽しいけど疲れる」という書き込みをするようになった。
今年1月に入って、「一時、休みます」という書き込みがあった後、2週間空けて「皆さんに忘れられてないか心配」と元気であることを伝える書き込みが再びあった。それには、「ゆっくりいきましょう」といった6つあまりのコメントが付いた。
そして、さらに2週間後、そのアカウントを見つけることはできなくなっていた。削除はされていないようだが、公開の一時停止機能を使って閉じたようだ。それからすでに1カ月近く経つ。
おそらく、そのユーザーは典型的な「燃え尽き現象」に直面したのだろう。善意に対して、完璧にお返しをしようと努力すればするほど、精神的な負担になり始める。このユーザーは、かなり真面目な性格のようで、書き込みに付いたコメントなどには、すべて丁寧に返信をしていた。そのうちモチベーションが「ポキン」と折れてしまうのではないかと思っていたところ、実際にそうなってしまった。
こういう問題は、熱心にブログを更新するユーザーの間でも、少なくはないように見える。
■機能をコントロールできず失敗
スター経済は、本来楽しいサービスを目指して作られたものであるのに、ストレスを際限なく増大させるという予期せぬ結果をもたらす可能性がある。
ニコッとタウンは、無料で十分楽しませたうえに、「ついでによければ有料のアイテムも買ってください」というモデルを目指している。ユーザーフレンドリーであるように注意深く配慮したサービスであり、このようなストレスがたまる事態を運営側が意図して起こすことはあり得ない。
筆者の小学5年生の息子の例では、うごメモを楽しみつつも、スターがほしいという気持ちが募りストレスになった。あまりにスターが得られないため、あるとき泣き出してしまったのだが、任天堂もはてなも、そうしようとしたわけではあるまい。
これらは、スター経済の機能が働きすぎて、ユーザーの許容度を超えたケースだと考えることができる。ゲームシステムの設計になんらかの間違いが含まれていると想像できるが、まだその的確なコントロール方法はわかっていない。実験の時期が、しばらくは続くだろう。
■ユーザーのセルフコントロールが必要に
筆者自身も、燃え尽きをニコッとタウンで経験した。マメにお返しをする方ではないので、2カ月もすると多くの善意が精神的な負担になった。結局、「返信しないことが多いです」と、プロフィルに書いた。それで負担は減ったが、代わりに限定アイテムを購入できるほどのコインは貯められなくなる。そもそもいらない、と頭の中で早々に諦めた。
うごメモも家族と同じように熱中していたが、ランキング競争には巻き込まれないようにしている。「Xbox360」などのゲームでも、他のユーザーとの競争をほとんど意識しないで遊んでいる。
結局、ユーザーはそのサービスによって得る刺激量を見極めて、何にどれぐらい力を注ぐのかをセルフコントロールするスタンスが必要になってくる。しかし、今後もスター経済は、人の行動を支配し時間を奪うような刺激を次々と作り出すだろう。その勢力を押しとどめる方法は現状はない。
ゲームの世界に出現した「スター経済」とは
任天堂の「ニンテンドーDSi」用ソフト「うごくメモ帳」(うごメモ)は、パラパラ漫画のような動画を簡単に作成でき、投稿サイト「うごメモシアター」はいまや小学生版「ニコニコ動画」のようなにぎわいを見せている。ユーザーは気に入った動画に「スター」を贈ることができ、このスターを集めようと子どもも大人も熱中するのだが、今回は「スター経済」というキーワードで、そのメカニズムとコミュニティーサイトに与える影響をみていこう。(新清士のゲームスクランブル)
先週のコラム「DSi『うごメモ』の大人にはわからない魅力」では、うごメモの人気ぶりと、投稿された動画の総合ランキングを左右するスターの果たす役割について考えた。そのなかで、うごメモのスターはいくら獲得したところで実経済的にはまったく無意味だが、それに序列や損得の概念が入ってきたときに意味を感じてしまう人間の脳の“癖”があると書いた。「スター経済」とはそうした原理に基づく現象であり、すでにゲームでは広く取り入れられている。
例えば、以前のこのコラムでも紹介したが、「Xbox360」が採用した「ゲーマースコア」、「コール・オブ・デューティ4」のオンライン対戦を盛り上げる要因になっている「実績システム」、日本型仮想世界サービス「ニコッとタウン」の「ステキボタン」などがそうだ。
■任天堂出身の起業家が名付けた「スター経済」
しかし以前は、この概念を一般化して理解するためのキーワードがなかった。これをスター経済と名付けて論じたのが、エンタースフィア(東京都町田市)の岡本基社長だ。2月に行われたオンラインゲームのカンファレンス「OGC2009」の講演でのことである。
岡本氏がスター経済の代表例として挙げたのは、ニコニコ動画の「マイリスト」数や、画像投稿SNS「pixiv」の1日1回投稿できるスターといったものだ。これらのコミュニティーサービスは、「mixi」など幅広いユーザーが集まる汎用SNSとは異なり、特定のジャンルに絞り込んだ「特化型SNS」とでも言うべきものだが、岡本氏は「SNSの皮をかぶったオンラインゲーム」であると考えている。
岡本氏は、「はじめてのWii」のチーフディレクター、「WiiFit」のトレーニングディレクターなどを担当した任天堂出身のベンチャー起業家だ。UGC(User Generated Content)の持つ潜在的な可能性に目を付け、2008年春に独立してエンタースフィアを立ち上げた。
さらに今年2月には「cg(シージー)」という、その名の通り3次元のコンピューターグラフィックスの作品を投稿できるサービスも始めた。登録ユーザーは、fgとcg合わせて1万5000人(3月上旬時点)を超えており、順調に拡大している。 果たして、岡本氏がどのようなサービスを仕掛けてくるのか期待していたところ、「fg(エフジー)」というフィギュアファン向けのSNSを08年11月にスタートさせた。プラモデルやフィギュアなどの写真を投稿して他のユーザーに紹介できる。
現在は、広告以外の収益モデルを作ることができていないものの、fgは将来的にはフィギュアを投稿するユーザーとそれをほしいと考えるユーザーをつなぐ取引のプラットホームにすることを検討している。またcgでは3Dプリンターに出力してリアル化することで取引を可能にする仕組みを考えているという。
いってみれば、個人ユーザーが自分の創作物を表現する場であると同時に、リアルマネーで売買できる商取引の場でもある。しかし、ここで重要なのは、現時点では経済的メリットがないにもかかわらず、うごメモと同じようにスター経済を基盤とするユーザーの競争が始まっているという点だ。
■上位獲得競争という「ゲーム」がもたらす結果
fgに投稿された画像には、単純に閲覧された回数を表示する「閲覧数」、各ユーザーが5点満点の評価で付けた「スター」を合計した「総合点」、ユーザーが自分のお気に入りリストに入れた総数を示す「マイリスト数」の3つの評価軸がある。それに一定の係数をかけて計算した結果(もちろん、どういう計算式であるのかは非公開で、随時変更される)により、「毎日ランキング」「週間ランキング」「月間ランキング」が決まっていく仕組みになっている。
投稿するユーザーは、自分の作品をランキング上位に載せようと様々な努力をするようになる。このスター経済に基づく行動こそが、SNSをゲームとして機能させる大きな要因となるのである。
例えば、すでに起きているブームに便乗して評価を獲得しようという動きが活発化する。今であれば「初音ミク」といったよく知られている素材に人気が集中している。二次創作はUGCの定番だが、fgでも多くのユーザーの関心を得るために二次創作が多用されるという傾向が現れている。 しかし、この上位獲得競争というゲームは、コミュニティーを活性化させる原動力になる一方で、「ゲームで勝つ」という目的が肥大化していく側面も持つ。その結果、次のプロセスとして、「攻略法を探す」という競争が始まるようになる。
■コミュニティー発展の妨げにも
投稿するユーザーは、自分のランキングに非常に敏感であり、運営に関する問い合わせにはこのランキングの算出方法を聞くものが多いという。また、攻略法やテクニックが発見され、それが知られるようになるとランキング上位が固定化していく。こうした不均衡が長く続くと、コミュニティーの発展を阻害する可能性がある。
先週のコラムで取り上げたうごメモの「人気作品」コーナーは、サービス開始直後の1月時点では、単純に閲覧数やスターの数が多い順に作品が並ぶようになっていた。この人気作品コーナーは多くのユーザーの目に触れるため、結果として同一作者の作品に閲覧やスターが過度に集中することになった。
しかし、この人気作品コーナーは最近になって、一定数のスターや閲覧数を集めた作品のなかからランダムに選択して入れ替える仕組みに見直された。そのため当初圧倒的な人気を集めていたハンドル名「たぁくみさん」の新作も、以前のように20万を超えるほどのスターは獲得できなくなっており、3月の新作では2万程度にとどまっている。これはシステムの変動によって、評価が極端に振り回されたケースだろう。
■行き過ぎた行為に至る場合も
スター経済が過熱すると、「カジュアルチート」と呼ばれる逸脱行為が起きることもある。
このカジュアルチートは、ニコッとタウンでも確認できる。プログラムで自動的に他のユーザーのページに「足あと」を残し、善意でお礼に来るユーザーを利用してステキ度や仮想通貨を手っ取り早く増やすやり方だ。これも事実関係の認定が難しい。ただ、ステキ度や仮想通貨は、他のユーザーと交換できないため、コミュニティー全体にとっては無害なものにとどまっている。 例えば、fgの場合、アカウントの取得はメールアドレスがあれば簡単にできる。そのため、大量にフリーメールのアドレスを取得して登録をし、自分の作品の評価を上げる行動をしていると考えられるユーザーも出てくるようになった。しかし、現在のインターネットの仕組みでは、サービスの運用側が本当に意図的な行為かどうかを確認しようがない。
どんなシステムであれ、必ずユーザーは攻略法や裏技を様々な方法で探すという例である。
■スター経済が示す「ゲームの原点」
岡本氏は、このスター経済の発生により、ゲーム性の本質に戻った部分もあると指摘する。サービスが今後どう変わっていくのか、サービス提供側にもユーザー側にも完全にはわからない「不確実性」が存在していること自体が、ゲームのおもしろさの一部だった時期がかつてあったからだ。
「スペースインベーダー」(1978年)が出たまだ初期のころ、遊ぶ人たちはどうすれば攻略できるのかイメージできず、また時々出現するUFOの謎のスコアパターンに熱中した。数百点、数千点のスコアを獲得し、他のプレーヤーよりも上位になったことが単に楽しかった。
しかし、その後ゲームが発展し複雑になるにつれて、何点というスコアの意味は相対的に薄れ、ゲーム中のスコアはインフレを起こしていく。10万点、100万点を超えるようになると、もはやスコアは価値を失った。その結果、ゲームは高度なグラフィックスや、壮大なストーリーといった重厚長大型による刺激に発展していくしかなくなったのではないかと、岡本氏は考えている。
スター経済の台頭は、もっと単純なレベルでも、数値の変化を通じて十分にゲーム性を楽しめる余地があることの証明でもある。これは、新しいゲームジャンルが登場していると言ってもいい現象であろう。
ただ、スター経済の浸透は、娯楽という範疇を超えて人間の生活を振り回してしまう側面も持っている。来週はそうした課題を検討しよう。
・material SNS fg(エフジー)
http://www.fg-site.net/
・3D model SNS cg(シージー)
http://www.cg-site.net/
・ニコッとタウン
http://www.nicotto.jp/
DSi「うごメモ」の大人にはわからない魅力
今年に入ってから、筆者の5歳の娘が「ニンテンドーDSi」に熱中し始めた。遊んでいるのは「うごくメモ帳(うごメモ)」。DSiの向けのソフトウエアのダウンロードサービスが昨年12月24日に開始され、無料で提供されているタイトルだ。大したことのない中身だと思っていたのだが、その第一印象は家族によって完全に覆された。子供向けUGC(User Generated Content)環境として圧倒的なパワーを見せたのだ。(新清士のゲームスクランブル)
■すぐに飽きると思ったが・・・
「ニンテンドーDS」がバージョンアップしたDSiには、任天堂らしい写真や音で遊べる新機能が追加されたが、子どもたちはすぐに飽きるだろうと筆者は予想していた。果たして、その通り、購入後しばらくすると遊ばれなくなった。DSiは、しばらく置き物になるかと思っていた。
うごメモは、音声入りのパラパラ漫画のような動画を作ることのできるソフトだが、率直にいって面白そうには見えなかった。そのため、筆者はダウンロードすらしてなかったのだが、小学5年生の息子が雑誌から情報を仕入れ、知らない間にインストールしたようだ。
それで実際に触ってみたのだが、やはりピンとこなかった。タッチペンで描ける絵は表現力が低く、色数も少ない。
ところが、2カ月半が過ぎた今も、我が家ではほぼ毎日「うごメモ」が起動されている。
■小学生版「ニコニコ動画」
うごメモで作った動画は、はてなのサービス「うごメモシアター」を通じて、インターネット上のサーバーにアップロードして他のユーザーに見せることができる。もちろん、他のユーザーの動画も簡単に見ることができる。それがユーザーの客層にマッチする形で、小学生版の「ニコニコ動画」として見る間に急成長していった。その発展プロセスには驚かされた。
息子と娘は、とにかくいろいろな動画を見ながらげらげら笑っているのだが、私には笑えるギャグになっていないと思うものばかりだ。音声を倍速で再生する機能があるので、それだけでも笑っている。小学生以下でないと笑えない動画があるということに気が付いた。彼らは、私が「YouTube」や「ニコニコ動画」などの動画サイトを見るのと同じ感覚で、うごメモで面白いものを探している。
一方で、作ることにも、兄妹とも熱中し始めた。
任天堂の企画力に脱帽せざるを得なかったのが、5歳児がきちんとした説明なしに使えてしまうインターフェースのわかりやすさである。パラパラ漫画を作る楽しさを知った娘の熱中ぶりはすごく、音声まで自分で付けて簡単なストーリーのある動画を作ってしまった。
びっくりしたのは、音声を重ね合わせるような複雑な機能も使いこなしている点だ。インターフェースがそぎ落とされているから、わかりやすいのだろう。
■投稿に反響なく泣き出す息子
投稿された動画のなかからはすでに人気キャラクターも生まれ、我が家でも頻繁に閲覧している。代表格はハンドル名「たぁくみ」さんが作り続けている「ボウニンゲン」シリーズだ。内容はボウニンゲンがハエやガビョウなど、意味のないものと対決して、大抵は負けてしまうという30秒ほどのギャク動画。コミカルで大人でも笑える。
このシリーズは、うごメモの「総合作品ランキング」(開始以降の全期間)で、トップ9を独占しているという驚異的な人気だ。
作者がどのような人なのかまったく背景はわからないが、ただの素人には見えない。ただ、玄人臭くない感じもあり、その辺が人気の秘密なのだろう。
息子も、娘に負けじと様々なものを作って投稿している。まず、このたぁくみさんの作風を真似るようなところから始めているが、所詮は小学5年生。出来はすごくいいとまでは言えない。何を表現したいのかもわかりにくいし、展開も支離滅裂。自分が同じ年齢の頃には、そんなものだっただろうと思う。出来はともかく、本人は何時間も熱中して完成させ、何本もアップロードする。
自分の動画の評価は、動画を見た人がボタンを押すことで獲得できる「スター」によって知ることができる。ところが、息子の動画には当然、反響がほとんどない。評価が戻ってこないことがフラストレーションになる。あまりにも評価が伸びないので、ある日にはとうとう泣き出した。日本全国に同じような悩みを抱えている小学生がいるだろうと、私は想像した。
■コミュニティーの設計に問題
そうなっている原因は、「動画の供給過剰」と「評価軸の少なさ」にある。
投稿があまりにも簡単なため、作品数が増えて供給過剰の状態になっている。正確な投稿数は不明だが、動画にはそれぞれIDが付与され、それが投稿データ数に近い数字だと推測できる。はてなは1月8日付で投稿数が10万件を超えたと発表しているが、現在ではIDベースで80万件を超えており、1週間で3万件以上と増加のペースは加速している。
逆に、たぁくみさんのように一度人気作者になった人には、正のフィードバックが強烈にかかる仕組みになっている。同じ作者が投稿した作品の検索は容易なため、他の作品も閲覧されて評価が上がっていく。結果として、現在のような独占状況が起きている。このあたりは、システム全体の設計のミスであろう。 一方で、それらを閲覧する場合、DSi上では「新着」「人気」しかカテゴリーがない。そのため、新規に投稿した動画は、最初の段階で人気が集まらないとすぐに膨大な動画の中に埋もれてしまい、二度と見てもらえなくなる。
当然、このままではコミュニティーがあっという間に成熟してしまう。はてなも改善に力を入れており、パソコンからも見ることができる「うごメモはてな」では、様々なカテゴリーを作って、過度な集中を分散させようとしている。
■スター獲得に奥さんも挑戦
我が家ではついに、奥さんまでが挑戦してみることになった。真剣に作ってもスターを獲得できないのかどうか、知りたくなったようだ。
UGCサイトで人気を得るには、コツがある。簡単なのは、みんなが見知っているものを使うことだ。そこで、すでに他の作者がアップしていた作品を改造する形で、マリオが実はマクドナルドのキャラクターだったというパロディーを数日間もかけて必死に作成し、つい先日アップした。
果たして、投稿したその動画はスターを3400個も獲得し、閲覧数も8000回を超えるまずまずの結果となった。作者ランキングも2月は3000位あたりだったのだが、直近のランキングでは、300位にまで急上昇した。スターを獲得して、奥さんと息子は満足そうである。まだ、我が家のブームは終わりそうにない。
しかし、このスターは、いくら獲得したところで経済的な意味は何一つない。心理的な充足も、ランキングが再び落ちてくれば、果たして続くかどうか疑問だ。にも関わらず、この2カ月半の間、我が家はうごメモのスターに振り回される生活が続いている。
これは、無意味なものでも、それに序列や損得の概念が入ってきたときに、意味を感じてしまう人間の脳の“癖”が引き起こす。この脳の癖を利用したサービスを、うごメモのスターをもじって「スター経済」と呼ぶ人も現れた。次回は、このロジックがゲームの様々な場面に浸透しようとしている状況を報告する。
・うごメモはてな
http://ugomemo.hatena.ne.jp/
今年注目のスウェーデン製ゲーム「World in Conflict」の成功と失敗
今年は、世界中で非常に質の高いゲームが次々にリリースされている「当たり年」とでも言うべき年だ。個人的にも今述べたような動的な変化にすっかり魅了されたタイトルがある。スウェーデンのMassive Entertainmentが開発した「World in Conflict」いうパソコン用ゲームである。
これは、東西冷戦で1989年にソ連がアメリカに攻め込んだという設定のリアルタイム戦略ゲームだ。欧州では、パソコン用ゲームの市場が大きいため、日本のゲームとはまったく設計思想の違ったゲームが登場してくることがあり、驚かされる。2チームに別れての16人までの対戦を可能にしているこのゲームは、新しいジャンルを切り拓いたといえる斬新なオンライン対戦の仕組みを備えており、海外メディアで極めて高い評価を獲得している(日本では、ズーが発売予定。発売時期は未定)。
■ユーザーが探索するゲームの「可能性空間」
ゲームデザイン論を本格的に学問領域に持ち込むことに成功したエリック・ジマーマンとケイティ・サレンの名著「Rules of Play」(ソフトバンクパブリッシングから訳書が刊行予定)のなかに、「可能性空間」というゲームの持つ特性を上手く説明した概念がある。それぞれのゲームは、多数の変数を持った抽象的な多次元の世界であり、実際には図像にして表現することは難しいが、表現することができる抽象的な空間がそれぞれのゲームに自ずから存在するという考え方である。
例えば、ロールプレイングゲームの中で、キャラクターのレベルに最大値(上限)が設定されている。手に入れることができるアイテムの種類にも限界がある。その最大値が、可能性空間の果ての一つとでもいうべきものである。
いわゆる「やりこみ」と言われるような行為は、ユーサーがそのゲームの可能性空間を探索していると考えることができる。ユーザーがゲームに求められているわけでもなく、また必然性がないにも関わらず、自ら目標を設定してキャラクターのレベルを最大値にまで増やしたりするような行為がそれに当たる。それぞれのゲームには、メーカーが設定するエンディングが通常あるが、それはユーザーがゲームの中の可能性空間の探索を終えたことと同じではもちろんない。
ただ、やりこみのようなことをしなくても、基本的な遊び方をするだけで、ユーザーはそのゲームの持つ可能性空間の大まかな幅を想像し、把握することができる。
逆に、ユーザーがあるゲームを見たときに、可能性空間の幅が想像できるゲームというのは成熟が進んだ分野のゲームと考えることができる。可能性空間の広がりが予測できるジャンルというのは、悪く言えば分野として終わりを迎えつつあるのだ。
例えば、シューティングゲームや格闘ゲームの持つ可能性空間の幅は、その分野に慣れた人であれば容易に想像できてしまうだろう。逆に、可能性空間の幅が想像できないというゲームが新しい分野のゲームであり、新しい刺激を生みだしているゲームだと考えることもできるのだ。そして、多くの開発者が、様々な過去のゲームの可能性空間を考えながら、新しい可能性空間を生みだそうと苦闘する。
■見ず知らずのユーザーをネットで協力させる工夫
人数を限定したオンラインゲームはゲーム設計上、常に難しい課題を抱える。見ず知らずの人間同士が、インターネット上で突然集まって、同じチームとして協力的にゲームを遊ぶことができるのだろうかという問題だ。多くのユーザーは同じチームに属していても、直接知っている友だちでない限り、結局は一人で遊んでいるような個人プレーをすることが多くなってしまうからだ。
お金が貯まると当然強力な武器が使えるようになるため、まったく見ず知らずのユーザーと遊んでいても、自分たちのチームを勝たせたいというモチベーションが発生する。上手いプレーヤーは、初心者のプレーヤーが見落としがちな部分をサポートするように、自然に行動するようになるという、おもしろい特性を生みだすようになった。 これに対して、大きく成功したのが一人称シューティングゲームの「カウンターストライク」だ。3分あまりの対戦の結果チームが勝つとお金が貰え、そのお金でその回の任意に設定されている武器を買えるというルールが成功を引き出した。
その仕組みは、同じくスウェーデンの開発会社Digital Illusions CEの「バトルフィールド」シリーズに応用される。ちなみに、スウェーデンのゲーム会社は数は少ないのだが、世界的なヒットを出す企業が2社もあり、なかなか侮れない。
■チームプレーを引き出す新たな仕組み
World in Conflictの話に戻る。このゲームはまさに、新しい可能性空間の創出に成功したゲームである。
今年7月の「E3」にあわせて、最終的な設定調整のためにオープンベータサービスが3週間行われたのだが、まさにユーザーがゲームと共に成長していくプロセスを肌で感じられ、楽しいとしか言いようがない体験だった。
しかし、ゲームに参加するユーザーは、歩兵、戦車、ヘリ、支援火器の4種類の役職の中から、どれか一つしか選択することができず、それぞれの役職はじゃんけんのように強い弱いの関係があり、バランスよくメンバーが別れていなければ勝つことができない。そのため、上手いプレーヤーは、下手なプレーヤーの動きを予測し、それを補助しながら戦うことが強制されるような仕組みになっている。 World in Conflictは、リアルタイム戦略ゲームにも自然発生的なチームプレーの要素を組み込めないかという設計思想で作られている。基本的にチェスを連想させる陣地取りゲームであり、マップの中の特定の拠点を決められた時間占領し続ければ、勝ちというゲームである。
ベータ期間中は、2つのマップを交互にプレーする設定になっており、各ゲームは1回10分程度で決着がつく。興味深かったのは、ユーザーがまずゲームシステムを学習し、次に基本的な戦略を学習し、さらにその応用を考え、必勝法らしきものができあがると、その必勝法の攻略法が編み出されるというサイクルが拡大を続けたということだ。
ユーザーコミュニティーのゲームへの学習曲線が手に取るようにわかり、また数日のうちに劇的に変化していく。どこまでゲームとしての広がりがあるのか、可能性空間の幅が想像できないゲーム体験の醍醐味はやはり素晴らしい。
■ランキングシステムが仇となって破綻した仕組み
ところが、先月ゲームが実際リリースされるとすぐに皮肉なことが起きてしまう。ベータのときには存在しなかった「必勝法」がすぐに発見されてしまったのだ。オンラインゲームの難しさは、環境をどれだけ注意深く用意しても、最終的にユーザーがどういう動きをするか予想するのが極めて難しい点だ。
このゲームには、ゲームで獲得した成果によって階級が振られるというランキングシステムが搭載されている。それぞれのユーザーには階級章がついているために、どのユーザーが上手いユーザーなのかを判断することは簡単にできる。
必勝法は、ゲーム開始時にチーム分けが行われる際、階級が上位のユーザーのチームに属するように選択すればいいという単純なものだ。この方法はすぐにユーザーの間に知れ渡ったために、上手いユーザーが皆一方のチームに集まるようになった。そのため、何も知らない初心者ユーザーが一方的にやられてしまうという最悪の状態が発生している。また、マップ数も20あまりと多いため、プレー時間がすでに数百時間に達している上位ユーザーと初心者との間に、埋めることができない格差がついてしまっている。
せっかくチームプレーが自然発生する仕組みが上手く設計されているにもかかわらず、可能性空間は急激に閉じようとしている。実際、オンライン対戦をものの30分程度しか遊んでいないユーザーが数千人単位でいるという。一方的にやられて、オンライン対戦の体験をつまらないと感じたユーザーも少なくないだろう。
開発会社も、そこまでは予想できなかったようで、今のところデータを追加するパッチが2度リリースされたが、ゲームシステムについては手つかずの状態でユーザーの間に不満が募っている。
このままの仕組みを続けるのか、それとも今後何らかの方策を取り入れてくるのか。日本のゲームには存在しない形のゲームシステムであるため、ゲームデザイン的にも、運営方針という面でも、そしてユーザーコミュニティーがどう成長していくのかについても、、見るべき点の多いタイトルだと思い注視している。
「World in Conflict」公式ページ(英語)
http://www.worldinconflict.com/