2010年3月13日土曜日

「スター経済」がネットユーザーにもたらす副作用

新清士のゲームスクランブル

 任天堂の「ニンテンドーDSi」用ソフト「うごくメモ帳」(うごメモ)に代表されるように、ユーザーの評価でもらえる「スター」を機軸とする「スター経済」がオンラインコミュニティーに広がっている。今回はスター経済が登場した背景とその課題を考えてみたい。(新清士のゲームスクランブル)

 これまで「DSi『うごメモ』の大人にはわからない魅力」「ゲームの世界に出現した『スター経済』とは」と2回に渡って、スター経済を取り上げてきた。「スター経済」とは、いくら獲得しても実経済的にはまったく無意味なスターが一種の通貨のようにコミュニティー内に影響を及ぼす現象のことで、エンタースフィア(東京都町田市)社長の岡本基氏がスター経済と命名した。

 それはどのような経緯をたどって出現したのだろうか。

■パッケージとオンラインの中間に出現

 日本では2003年ごろから人気が出てきたパソコン向けの大規模オンラインRPGは、ゲーム会社のサーバーにユーザーのデータを預けることで成立する点が新しかった。そのデータは、ゲームという仮想空間の中で希少価値を持つゆえに、現金でデータを売買する「リアルマネートレード(RMT)」という行為を生んだ。現実経済とゲーム空間が陸続きになった瞬間だ。

 ユーザーの反発を生みながらも、この新たな可能性に対する企業側の期待は膨らみ、07年の「セカンドライフ」ブームへとつながる。しかし、ネット上のエンターテインメントサービスに、ユーザーが必ずしも経済性を強く期待しているわけではないことは、すぐに明らかになる。

 ユーザーはサービス内での自分の行動の結果が、お金といった直接的な報酬に結びつかない、経済的に意味のない報酬でも、十分に満たされることを経験を通じ知るようになった。さらに、この5年ほどで大きく変わったのは、ユーザーがサーバーからサービスを受けるだけでなく、自らも何らかのデータをサーバー側に積極的に提供するようになったことだ。

 その結果、サービス運営側がデータを提供してくれたユーザーに対してスターのような報酬を通じてフィードバックし、サービスの魅力をさらに高めていく素地ができた。スター経済は、RMTの問題を回避しながら「経済性を持った遊び」を生み出すという意味で、従来のパッケージで流通するゲームとRMTにつながるオンラインゲームの中間領域に出現した存在といえる。

■ゲーム性は今後ますます発展

 スター経済における報酬は今のところ複雑なものではなく、パラメーターも少ないサービスが多い。しかし、スターのような無価値なものにユーザーが価値を見いだしてくれるのであれば、企業は様々なパラメーターを作り出して価値を創出していくだろう。様々な評価システムを持ったサービスが今後登場してくると予測できる。

 例えば、うごメモでは、「決められた音程を付けた音声をアップロードする」「テーマとして与えられた動画をうごメモで再現する」といったクイズのようなサービス展開が可能だろう。ユーザーが楽しんでくれる限り、ゲーム性は発展し続けると考えてよい。

 しかし、それが常にユーザーに快適をもたらすのかというと、必ずしもそうではない。そもそもスター経済に基づくサービスは、脳にとって「気持ちがいい」と感じられる報酬を提供することでユーザーを増やしていく。ところが、筆者の周辺のユーザーを見る限りでも、その快感の副作用が生じているケースがあるのだ。

■「ニコッとタウン」の燃え尽き現象

 スター経済の問題点を仮想世界サービス「ニコッとタウン」を例に考えてみる。

 ニコッとタウンは、スターに当たる「ステキ度」と仮想通貨「コイン」という2つのパラメーターを持っている。コインはコミュニティー内での行動に対して提供されるもので、ユーザーの活動の動機付けをするシステムだ。


 コインをもらった側は、見知らぬ人に対してお返しで書き込みなどをしようとするため、善意を前提としたコミュニケーションが成り立ちやすい。他のユーザーに何か働きかけると何らかの報酬が返ってくるという、居心地のいい空間ができあがる仕組みになっている。 特に、他のユーザーと交流する経験に対しコインが提供される点が新しい。他のユーザーに「ステキボタン」を押してもらうと2コイン、他のユーザーから書き込みをもらうと1コインなどなど。同じユーザーから1日にもらえるコインの上限は決まっている。

 ところが、友だちの数が増えてくると、そのコイン獲得に伴う活動が苦しいものに変わりはじめる。他のユーザーにお礼に回ること自体が大変な作業となり、何十人もの友だちができれば1時間以上がすぐに吹っ飛んでしまう。もはや、なんのためにそれをやっているのかわからなくなってくる。

 ニコッとタウンで筆者の「友だち」となった20歳代の女性が、最初は熱中していたが、ある時から「楽しいけど疲れる」という書き込みをするようになった。

 今年1月に入って、「一時、休みます」という書き込みがあった後、2週間空けて「皆さんに忘れられてないか心配」と元気であることを伝える書き込みが再びあった。それには、「ゆっくりいきましょう」といった6つあまりのコメントが付いた。

 そして、さらに2週間後、そのアカウントを見つけることはできなくなっていた。削除はされていないようだが、公開の一時停止機能を使って閉じたようだ。それからすでに1カ月近く経つ。

 おそらく、そのユーザーは典型的な「燃え尽き現象」に直面したのだろう。善意に対して、完璧にお返しをしようと努力すればするほど、精神的な負担になり始める。このユーザーは、かなり真面目な性格のようで、書き込みに付いたコメントなどには、すべて丁寧に返信をしていた。そのうちモチベーションが「ポキン」と折れてしまうのではないかと思っていたところ、実際にそうなってしまった。

 こういう問題は、熱心にブログを更新するユーザーの間でも、少なくはないように見える。

■機能をコントロールできず失敗

 スター経済は、本来楽しいサービスを目指して作られたものであるのに、ストレスを際限なく増大させるという予期せぬ結果をもたらす可能性がある。

 ニコッとタウンは、無料で十分楽しませたうえに、「ついでによければ有料のアイテムも買ってください」というモデルを目指している。ユーザーフレンドリーであるように注意深く配慮したサービスであり、このようなストレスがたまる事態を運営側が意図して起こすことはあり得ない。

 筆者の小学5年生の息子の例では、うごメモを楽しみつつも、スターがほしいという気持ちが募りストレスになった。あまりにスターが得られないため、あるとき泣き出してしまったのだが、任天堂もはてなも、そうしようとしたわけではあるまい。

 これらは、スター経済の機能が働きすぎて、ユーザーの許容度を超えたケースだと考えることができる。ゲームシステムの設計になんらかの間違いが含まれていると想像できるが、まだその的確なコントロール方法はわかっていない。実験の時期が、しばらくは続くだろう。

■ユーザーのセルフコントロールが必要に

 筆者自身も、燃え尽きをニコッとタウンで経験した。マメにお返しをする方ではないので、2カ月もすると多くの善意が精神的な負担になった。結局、「返信しないことが多いです」と、プロフィルに書いた。それで負担は減ったが、代わりに限定アイテムを購入できるほどのコインは貯められなくなる。そもそもいらない、と頭の中で早々に諦めた。

 うごメモも家族と同じように熱中していたが、ランキング競争には巻き込まれないようにしている。「Xbox360」などのゲームでも、他のユーザーとの競争をほとんど意識しないで遊んでいる。

 結局、ユーザーはそのサービスによって得る刺激量を見極めて、何にどれぐらい力を注ぐのかをセルフコントロールするスタンスが必要になってくる。しかし、今後もスター経済は、人の行動を支配し時間を奪うような刺激を次々と作り出すだろう。その勢力を押しとどめる方法は現状はない。