2010年3月13日土曜日

見事な“鎮火”はなぜ可能だったのか UCCの事例から考えるTwitterマーケティング

Twitterを企業のマーケティングに利用しようという企業が増えているが、「どう使えばいいか分からない」「炎上が恐い」といった声もある。

 UCC上島珈琲は2月18日、自ら行ったTwitterキャンペーンが批判を浴び、2時間で終了に追い込まれた経緯を題材に、識者を集めてTwitterマーケティングについて考えるセミナーを開いた。

 UCCのキャンペーンでは炎上後の対応の早さに注目が集まったが、背景にはリスク管理体制の整備や、いくつかのラッキーな偶然があったことが浮き彫りに。BOTを使ったキャンペーンのあり方や、人手で更新するアカウントの難しさなどについても議論が行われた。【岡田有花】

●なぜ失敗したのか

 問題になったキャンペーンは5日午前10時にスタート。11のアカウントを使い、ユーザーがつぶやいた「コーヒー」「UCC」などの30のキーワードに反応、宣伝リプライを自動で送信するというものだった。

 フォローしていないアカウントから一方的に宣伝リプライが届いたため「UCCがスパム的なリプライを送っている」と批判の的に。特に広告・ネット業界のTwitterユーザーが素早く反応し、批判が拡大した。Twitterの口コミの広がりを可視化する技術を持つホットリンクの内山幸樹社長によると、キャンペーン開始から1時間で、関連のツイートが1万8000件投稿されたという。

 「Twitterは対話のメディアなのに、今回は完全に一方通行だったことが問題」と、複数のTwitterアカウントを運用しているアルカーナの原田和英社長は話す。

 例えば米航空会社JetBlue Airways は、ユーザーが空港で困っていることをツイートするとサポートするというやり方で、160万ものフォロワーを集めている。「JetBlueはTwitterを『リスニングや会話に適しているメディア』だと言っている」(原田さん)

 「Twitterに対する期待値のズレがあった」——マスマーケティングと同じ考え方で、たくさんのユーザーに情報を届けようとした場合は、UCCのキャンペーンのような手法を採らざるを得なかったのではと、ブログマーケティングなどを手掛けるアジャイルメディア・ネットワークの徳力基彦社長はみる。

 「Twitterは、ユーザーの声のリスニングから入り、その上で自分でもしゃべって活性化するものだが、フォロワーのいないTwitterアカウントを使って何千、何万に情報を届けようとすれば、BOTを使うしかない」

●BOTもやり方次第

 BOTだけが問題だったのではない。「BOTはやり方次第。メールマーケティングと同じで、やり方の問題」(原田さん)だ。「例えば、飲み屋の席にお姉さんがコーヒーを持って来て宣伝する、というのは盛り上がる。UCCのBOTのアイコンがきれいなお姉さんで、誘導の文言が魅力的だったらうまくいったかもしれない」(徳力さん)

 BOTを使ったマーケティングにも成功事例はある。グリコ乳業の「ドロリッチ」を飲んでいることを示す「ドロリッチなう」というツイートに反応するBOT「@dororich」(ユーザー個人が作ったもので、グリコ公式ではない)の例は有名だ。

 TSUTAYAのTwitterアカウントで2月3日から行っている、BOTを使ったクイズキャンペーン「@TSUTAYA・クイズ」もスタートから約2週間で5000人以上のフォロワーを集める人気。フォローしてきたユーザーが、「クイズ」というキーワードをリプライした時のみ、映画に関するクイズを返信するというものだ。

 @TSUTAYA・クイズの企画に関わったゲームクリエイターの飯野賢治さんによると、ユーザーにフォローしてもらった上で、要求があればユーザーごとにクイズを返す——という形で、“タイムラインを汚さない”キャンペーンを目指したことが、成功につながったとみる。「タイムラインは自分の場所、家という感じがあり、汚されるのは嫌なもの」(飯野さん)

 今後BOTが進化し、その人の興味があることを適切なタイミングで話しかけることが可能になれば、新たな活用法もみえてくると内山さんは話す。

●迅速な対応、なぜ可能だったのか

 「UCCのキャンペーンが批判されている」——同社でネット事業を統括するグループEC推進室に報告が入ったのは、開始から1時間半経った11時30分のこと。キャンペーンは12時までに中止し、午後1時に上島豪太社長に報告、3時20分には謝罪文を公開した。

 迅速な対応はなぜ可能だったのか。1つの要因は、グループ会社で喫茶店「珈琲館」などを運営するUCCフードサービスシステムズが、昨年11月から公式アカウント「上島珈琲店なう」を運用していたことにある。

 UCCグループEC推進室の坂本晃一室長は、上島珈琲店なう開始にあわせ、いくつかの準備をしていた。まず、Twitterについて上島社長に説明した上でスタート。リスク管理体制もある程度築いた上で、Twitterユーザーの特性を見ながら丁寧に運用していたという。

 上島珈琲店なうでつぶやきを担当しているのは、UCCフードサービスシステムズの女性だが、(別会社の)UCCが、運用を監視したり、つぶやきに関する相談を受ける体制にした。「Twitterは1人でやっていると心が折れることもある。別部署にオブザーバーがいた方がいいだろう」と考えたためで、坂本さんも普段から相談を受けていたという。

 炎上を把握したのも、つぶやき担当の女性からグループEC推進室に報告が入ったことがきっかけだ。上島珈琲店なう開始以来、Twitter上の「UCC」「上島珈琲」などの書き込みを監視していたことが、事態の把握を早めた。

 「UCCは食品会社なので、(食品の問題などが現場から上にすぐに伝わるよう)緊急連絡体制を作っていた。上島珈琲店なうで、あらかじめリスク対応の大まかなアウトラインを決めていたことも役に立った」と坂本さんは振り返る。

 謝罪文のプレスリリース公開が早かったのは、偶然、当日午後1時にグループの経営会議が開かれたためだ。坂本さんは会議冒頭、経緯と関連ツイートをまとめて報告。上島社長が「すべての情報を正直に出して謝罪する」と即決し、午後3時20分に謝罪文を公開。Twitterですぐに広まったほか、ブログ、ニュースサイトなどに取り上げられて対応の早さに驚く声も挙がり、騒動はいったん収束した。

 坂本さんは一連の流れを振り返り、「当初から、失敗に対して誠実に向き合おうと担当者から役員までが考えていた」と話す。迅速な対応ができたのは偶然が重なったためで、「ソーシャルメディアとの付き合いはこれから」。今後Twitterをマーケティングに使う企業に対しては「偶然に期待をせず、意図的に、リスクに対して最初の設計を決めていただきたい」と期待する。

 NTTでIR担当を務めたこともある徳力さんは、「UCCの対応は、正直、早すぎた」と驚嘆する。「NTTのIR担当時代に、大企業でニュースリリースを出すたいへんさを実感している。普通の企業にはできない早さですごいと思うと同時に、自分が逆の立場だったらできるだろうかと」

●代理店はどこか “類焼”を消火したツイート

 “類焼”もあった。マーケティング炎上の翌6日、「キャンペーンを請け負った代理店はどこか」という話題がネットで盛り上がり、まったく関わりのないサイバーエージェントの名が挙がったのだ。

 「当社の名前がまことしやかな形で出ている」——サイバーエージェント技術部門担当取締役の宇佐見進典さんも気づき、様子を見守っていたという。6日午後7時半ごろ、知人を通じて自社が関わっていないことを確認。「“消火作業”をしないと」と考え、午後10時ごろ「やってないことを証明するのは難しいです」とつぶやいた。

 自社に関連する内容をネットに書き込むには広報を通すのが筋とも考えたが、「手続きが面倒と思った。トラブルがあれば、自分が怒られればいい」と、自分で責任を取るつもりでツイートしたという。

 このツイートは次々にRTされて広がり、サイバーエージェントの濡れ衣を徐々に晴らした。「黙ったままだと仮説が事実化されていくという恐ろしさを目の当たりにし、やってないことは『やっていない』ときちんと言うことが重要と思った」と、宇佐見さんは振り返る。

●「心苦しかった」

 「心苦しかった」——6日午後10時ごろ、ネット上でサイバーエージェントの名が挙がっていることを知り、坂本さんは悩んでいた。「キャンペーンはすべてUCCの責任。サイバーエージェントはまったく関係ない」と、3つの“消火”法を考えた。

 (1)翌7日にもう一度プレスリリースを出して説明する、(2)UCCのTwitterアカウントを取り直して説明する、(3)騒動を受けて一次停止していた「上島珈琲店なう」のアカウントで説明をする——だ。

 だが他社が関わるうわさをプレスリリースで否定するというのも不自然。Twitterで炎上した後に新たにTwitterアカウントを取るのも避けるべきと考え、上島珈琲店なうでつぶやくことを選んだ。「本来なら広報を通さなくてはならず、社内の規定は超えているが、わたしが責任を取るということで“フライング”した」(坂本さん)

 6日深夜に書き込んだ謝罪ツイートは好意的に受け止められ、“犯人探し”も落ち着いた。

 上島珈琲なうのアカウントは、週明け7日午前10時から本格的に再開。「これからも頑張ってつぶやいていきますのでよろしくお願いします」とツイートしたところ、その直後からはげましのリプライが次々に寄せられた。

 「つぶやきを再開すると再び炎上するのではという不安があったが、温かいメッセージをいただいた。つぶやき担当者は目を真っ赤に腫らしはらしながら見ていた。わたしも後ろで見ていてウルっとなった。いまこうして話しながらも胸に来る。温かいファンに助けられた」(坂本さん)

 本来なら広報を通すべき内容を、坂本さんと宇佐見さんがそれぞれ自己責任でツイートしたことが、類焼の迅速な鎮火につながった。

 「Twitterは現場に権限を委譲しないとうまくいかないが、炎上したときに誰が責任を取るというのは難しい問題だ」と内山さんは指摘。ソフトバンクの孫正義社長のように、会社の権限を掌握している代表が個人としてTwitterを始めるのも1つの解決策だと、複数のTwitterアカウントを運用しているアルカーナの原田和英社長は話す。

●“人間らしいTwitterアカウント”の難しさ

 Twitterマーケティングで成功している企業は、担当者が1人張り付き、フォロワーと1日中交流しているケースが多い。上島珈琲なうのほか、「加ト吉」ブランドのテーブルマーク、NHK広報局などのアカウントは、つぶやきの“ユルさ”や誠実な対応で人気だ(参考:元気がいいTwitterの軟式企業アカウント:NAVERまとめ)。

 だが、担当者が張り付いて運用するアカウントは、フォロワーが増えるほど対応が難しくなる。「大企業であればあるほどフォロワーに話しかけられ、Twitter担当1人でサポートセンターをやるような世界になりかねない。大企業の担当者は本来は、自分の権限ではそれほどリアクションできない」と徳力さんは指摘する。

 日経ネットマーケティングの杉本昭彦副編集長も「朝から晩までレスを返すのはなかなかできることではなく、加ト吉さんはすごい」と同意。「Twitterマーケティングの成功事例は、担当者のキャラが面白く、フォロワーとの会話がうまくいっている場合が多い。告知だけのアカウントだと許されない空気感は恐怖だ」(徳力さん)という意見も挙がった。

 企業のTwitter利用の相談に乗っているCGMマーケティングの佐々木智也COOは、「プロフィールに『リプライには回答できない場合があります』などと書き、徐々にやっていくという手段もある」と話す。

●それでもTwitterを使ってほしい

 「これだけの騒動になったが、裏を返すとTwitterにはそれだけのパワーがあるということ」——企業のTwitter活用にはさまざまな可能性があると坂本さんは話し、UCCも「もう一度チャレンジしていきたい」という。

 企業にとってのTwitterの魅力の1つは、「情報をプッシュする力」だと杉本さんは指摘する。「フォローしてもらえればプッシュでき、メールマガジンに近い特徴がある。タイムセールなど時間限定の瞬発力もある。どう生かすかという意識しながら使えば可能性あるのでは」

 最低限、アカウントは持っておくべきと徳力さんは話す。「アカウントを持って自社サイトの更新情報ぐらい流しておけばいいと思う。でないとTwitter上で話題にすらしてもらえない」

 炎上を恐れて及び腰になる企業もあるが、宇佐見さんは「Twitterの炎上は、2ちゃんねるでの炎上に比べると消火しやすく、プチ炎上があっても誠実に対応すれば解消する」と、自らの経験を振り返る。

 「失敗を恐れて事前に準備するよりは、問題が起きても対応すればいいというぐらいの気持ちでやったほうがいいのでは。ユーザーの不満に対してリアルタイムに対応すると、モヤモヤはかなり解消できる部分がある。ネガティブにとらえるよりは、それを使って何ができるかというポジティブさが重要では」(宇佐見さん)